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スウェーデンのインクルーシブ教育と特別支援教育の意味とは

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  今年は、夏のコースで、ずっと取りたかったインクルーシブ教育についてのコースを取っています。今までは、コースのスタートが、ちょうど学校の最後の研修日と重なっていて、受けられなかったのですが、今年のコースは日程がずれており、よしっと思った次第です。このコースの昨日のコースの内容が大変興味深かったので、ここでアウトプットしながら、ご紹介したいと思います。 1.インクルーシブ教育と特別支援教育の立ち位置の変化 とても壮大なテーマであると思うのですが、スウェーデンで、近年聞かれるのが、「特別支援教育が必要なくなり、教育の中に含まれること」が、インクルーシブ教育に向けて、そして、インクルーシブ教育において重要ではないだろうかというものです。同じような内容は、もう10年、15年聞かれていますが、ここ数年は、より一層その傾向が強くなり、その最も大きな動きとして、学校庁が「合理的配慮の廃止」を持ち出したことにもあると思います。これに関しては、反対意見も多く聞かれるのですが、いかに、今まで特別といわれてきた教育を、普通の教育として普通の教育の中に融合できるかは、今後の大きな課題でしょう。 2.インクルーシブ教育と特別支援教育の意味とは インクルーシブ教育と特別支援教育の意味と大きな役割は、現在のインクルーシブ教育がどういうものであるのかを把握し、それが参加や学び、発達という面からみて、排除の状態であるならば、それらの要因を探り、特定していき、改善していくことが重要であるだろうと。今の状態がよいインクルーシブ教育の状態であるのならば、その良い要因を探り、特定し、維持していくこと、本人の成長や変化に対応させていくことも重要であり、つまるところ、インクルーシブ教育において、完全な形、終了型というのはないというのも、全くの同感です。この考え方であれば、常にインクルーシブ教育というのは、生徒一人、その生徒がいるグループ、学校などであれば組織、そして、社会とつながっており、変化し続けるものであるのだと思いますし、今現在、インクルーシブ教育の形で成功したという国がないのもうなずけます。 3.インクルーシブ教育「あちら派」と「こちら派」 2024年12月の投稿に「 インクルーシブ教育のこちら派とあちら派ーインクルーシブ教育に思うこと」 という記事を書きました。あの時にも感じていた、あっちと...

夏休みを満喫できない子どもたち

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このブログは、ブログを一度移行しており、旧ブログの記事を読み直して、リライトをしています。今回は、2009年7月の記事をもとにして、書いています。 夏休みというのは、多くの子どもたちが大変楽しみにしている長く自由なお休みです。スウェーデンは、年度末に夏休みがあたることもあり、また宿題を出す習慣もないため、この長い2か月半に渡る夏休みは宿題も出ません。しかしながら、この長く自由な夏休みを満喫できない子どもがスウェーデンにも多くいます。今日は、そんな子どもたちの実態についてです。 1.家庭に問題のある子どもたちの多さ 旧ブログの記事を書いたのは2009年なので、自分の書いた文章に「日本と比べると」という部分があり、印象的です。2025年の今は、日本を離れて長く、比べることは難しくなってきています。何を比べるとというと、アルコール中毒や薬物中毒についての話がスウェーデンでは日本よりもオープンにされるということ。現在は日本でもよく話題になるようになったのではないかと思います。いかがでしょうか。 スウェーデンでは、親がアルコール中毒や薬物中毒、もしくはそのほかの何らかの理由で、精神的もしくは身体的に虐待を受けたことがある子どもが、かなりいます。以下のグラフは、「Blå」と呼ばれるスウェーデンの犯罪予防評議会が出している最新の統計になります。これは、届け出が出されたものであり、届け出が出ていないものを加味すれば、これ以上の児童虐待が行われていると思われます。0~6歳児の虐待の多くは、就学前学校で発見されるので、夏の間の届け出が減るそうです。スウェーデンの学校などは、何かしらのネグレクトや虐待の疑いがある場合には、届け出をする義務があるので、目の届かなくなる夏には届け出も減るというのは、夏休みを満喫できていない子どもたちがどこかにいることになり、心配になります。 緑:0~6歳、オレンジ:7~14歳、紫:15~17歳 ( 出典 ) 2.夏休みになるとなくなるもの 夏休みになると何がなくなるのか。まず、スウェーデンでいわれるのが、給食です。やはり食べ物って大きいですよね。物価の上昇に伴い、困窮家庭が増えたことがわかるのが、学校給食での消費が増えることと聞いています。スウェーデンの学校給食は、バイキング、ブッフェ形式なので、好きなものを好きなだけとることができます。このため、上記のよう...

ストックホルムで始まる登校困難な子どもたちへの遠隔授業

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 2025年秋学期から、私が働いているストックホルム市でも、長期にわたる欠席をしており、登校困難な児童生徒を対象に、特別な支援の一環として、遠隔授業の提供が始まります。この遠隔授業は、既にヨーテボリとウプサラで開始されており、ストックホルムでもやっと学校検査庁に承認されたので、晴れて秋学期から開始の運びとなりました。これにより、教室に戻ることが難しい子どもたちも、教育を受ける権利、義務教育を公的なお金によって無償で受ける権利を保障されることになりました。今日は、この遠隔授業に関して、詳しく説明したいと思います。 1.遠隔授業導入の背景とは スウェーデンでも、学校に通うことが困難な、いわゆる不登校とされる児童生徒が存在します。これに関して以前に書いたものがありますので、興味のある方はぜひ、 こちらのJ=Stage から、「スウェーデンひきこもりの若者の実態とそのとりくみー早期発見と早期支援を中心とした継続的な社会支援」 をご一読ください。2022年のものになりますので、あれから、スウェーデンでは、更に様々な取り組みが地道にされています。その中の一つとして、法改正にもどつく、この遠隔授業の導入があげられます。 私の働くストックホルム市でも、細かい学校登校出席に関する対策のプランがあり、こういったプランにより、現在のストックホルム市では、10年前に比べるとはるかに詳しい登校困難児の統計があります。こういった統計によれば、ストックホルム市の公立の学校で、2024年春の時点で、基礎学校4年から9年生の生徒に、1000人以上の出席率50%未満の生徒がいたとあります。この深刻な状況を何とかしようと、今回の遠隔授業の導入に至りました。 2.ストックホルム市の遠隔授業の概要は? 2025年の秋学期には、まず、50人の生徒を対象として立ち上げプロジェクトを実施するとのことです。対象となる科目は、スウェーデン語(第2言語としてのスウェーデン語を含む)、英語、外国語、数学、理科、社会、母国語、自然科学、社会科学、テクニックなどになります。この遠隔授業の最も大きな目的は、長期にわたる学校欠席の悪循環を断ち切り、生徒が再び学校に通えるようになるように支援することにあります。 今後の計画としては、来年2026年秋学期からは、100人の生徒の受け入れを目指し、民営の学校からの生徒も受け入れ...

スウェーデンの学校がもらえる国の補助金制度

  スウェーデンの学校教育の中で問題があり、改善する必要があると思われるのが、学校がもらえる国の補助金制度です。私はこの制度自体は、利にかなっていると思っているのですが、教育システム全体から見ると、「 入れ替わりが激しいスウェーデンの学校の校長先生 」にも書きましたが、組織が脆弱であると、利用しにくいシステムであると感じています。基礎自治体の教育課のトップがそれなりにしっかりしていれば、多少校長が変わっても申請を見逃さなかったり、自治体の方針として何かしらの補助金申請を行い研修をしたりしていますが、国内の学校教育の均一性が取りにくい原因の一つであることは確実であると思っています。 1.どんな補助金があるのか  毎年、各学校が基礎自治体を通じて申請してもらえる補助金がかなりあります。例えば私が特別支援教育士になるために、学校を週1で休んでいた時に出たお給料なんかもこの補助金の申請をしてもらいます。私個人がするのではなく、学校がするので、私は何もしていないのですが、組織として計画的に動く必要があります。いろいろある中で昨年より私が申請したいなあと個人的に思っているのが、「特別支援教育を学びに」というもので、学校庁にある研修サイトを利用して、学校中で特別支援教育をいかに普段の教育に取り入れるかというところを理論から実践まで1年かけて行うもので、その研修を受け持つ先生の労働時間に対する補助金が出るものです。他にもたくさんあるので、各学校が何を発展成長させたいかによって、申請するものを決めます。 2.使い道や金額が決まっている  これら補助金は使い道が決まっており、国家予算の中で、方針が決まり、それが使われます。なので、当然ですが、せっかく予算計上したのに、半分も使われなかったということでニュースになることもあります。もらえる金額や、使い道もきちんと明記されており、それに沿って、来年度の研修年間計画などを立てて利用します。ちゃんと目的に沿って使われるように、例えば、年間で時間数でこれだけ行う場合は、この金額といったような感じで決まっており、それらは人件費に回すことなども決まっている場合も多いです。 3.実際に使われているのか  使っているところは使っていると思いますし、学校で話題になることも多いです。ストックホルム市は教員向けのサイトがあるし、支援学校は支援学校の関連...

教員不足の各国の状況 スカンジナビア編

  スウェーデンも教員不足が問題となって、もう長いです。私が先生をするようになったことから聞こえていたことなので、かれこれ、15年とかになります。様々な対策が打たれており、多少改善したといわれていますが、それでも、やっぱり、足りません。しかしながら、教員のお給料が上がったことにより、わざと有資格者を雇わない学校も出たりと、問題は多いのが現実です。今日は組合のメールにあった、各国の状況を見ながら、考えてみたいと思います。 1 フィンランド  ここ数年減っていた、教員養成課程の希望者が増えてきた。有資格の先生を田舎の学校や低年齢の教育で見つけることが難しい。 2.デンマーク  有資格の先生の不足が、就学前教育と基礎学校で予想される。高校は、教科によっては有資格の先生に問題がないが、足りない教科もある。 3.アイスランド  高齢化していく教員と教員養成課程入学者の減少の影響により、ここ10年で、約半数の教員不足が見込まれる。 4.ノルウェー  教員養成課程入学希望者の減少と、新しい教育法の導入により、有資格の教員の必要性が高まる見込み。 5.スウェーデン  国は、現在教員免許なしで教えている先生が数年後には、有資格になると見込んでいる。 とまとめています。どの国も教員不足の傾向はあるようですね。需要と供給がきっちりと会うことはないので仕方がないと思うのですが、教育の中で最も重要なものの一つが、教員の教える力、教員の能力によるので、教員不足の抱える問題は、多岐にわたると思います。 スウェーデンは特に北部などのある一定の地域での有資格者不足が長らく言われています。私が働くストックホルムなどは、公立学校だと100%有資格者というのは、珍しくないのですが、やはり郊外や地方では難しいというのも理解ができます。これに関して、組合としては、国が責任を持つべきであるという声を上げています。一時期のように、学校教育の管轄を国にという声は、今は下火に見えますが、国による教員への研修制度の見直しや、国の中での教員配置の何かしらのシステムなどが案としては聞こえてきます。

入れ替わりが激しいスウェーデンの学校の校長先生

  今週のスウェーデン教育界のニュースで大きかったのが、「入れ替わりが激しい校長」により、多くの学校が課題を抱えているというものです。スウェーデンでの教員経験がもうすぐ20年になろうとしていますので、これは事実であり、私も何度も体験してきています。 1.日本と雇用形態が異なる校長職  まず、簡単にスウェーデンの学校の校長職の雇用に関して説明しておく必要があります。スウェーデンは、日本のように地方公共団体などに雇われる形での雇用ではなく、基本的に配置換えもありません。多くのほかの職業同様に求人案内が出るので、それに応募します。求人案内は、「この学校の校長先生」という風に出て、そこには、詳しくこの学校での今の校長に求められるスキルが書かれており、自分で決めて応募することになります。これは教員なども同様なので、私も求人案内は常にチェックして、希望のポストが空くと応募するということを繰り返しています。日本のようにあっちの学校にこの校長先生というような計画配置は行われません。もちろん、優秀な方にヘッドハンティングのような形で声がかかる、声をかけるということはありますが、その人も他の方と同様に応募することになります。また、基礎自治体の中で、例えばストックホルムだと、母体が大きいので、過剰雇用で余ってくる校長や副校長、教員などは、市内での移動もあります。 2.入れ替わりが激しい校長職  今回の学校庁のレポートは、もうだいぶ前から言われており、校長になりたがる人が少ない、定着しない、キャリアの一環で違う仕事に移っていってしまう、教員経験のない校長が来て大混乱(今は法改正されているのでおこりません)など、校長にまつわる問題課題は議論され続けてきました。その流れで、調査をすることになり、その結果が以下のように出ました。 10校に3校の基礎学校で、校長の入れ替わりが多く、3から5人の校長が5年間で入れ替わっている。 民営(私立)の学校より、公立学校の校長の入れ替わりが多い。 都会の学校よりも田舎の学校の方が、校長の入れ替わりが多い。 社会経済的に課題を多く抱える地域(外国の背景を持つ生徒が多い地域)の学校の方が校長の入れ替わりが、多少少ない。 というのが、大きな結果でした。私は今の勤務校は3年目で、校長同じですが、副校長は3人目なので、毎年新しい人となっています。校長は同じだけど...

スウェーデンの教育の特徴~不可がある教育

 ブログを旧ブログから移行したのは、コロナ前でもうだいぶ前で、旧ブログの内容を自動的に移動できなかったこともあり、また、忙しさもあり、放置し続けた旧ブログを削除したのが、数年前。その旧ブログの内容を振り返りながらリライトをしています。今日はその中でも重要だと思うスウェーデンの教育の特徴をまとめます。 1.日本とスウェーデンの教育の最大の違い   私はスウェーデンの公立の学校教育に関わって18年、その中で思う日本とスウェーデンの教育の最大の違いは、スウェーデンの学校教育は、成績を6年生からつけ(4年生から成績を出すことも可能)、 不可をがある教育である ということです。これは、私がスウェーデンの学校教育に関わってきてからの永遠の疑問ともいえるもので、近年、この不可をなくす方がよいのではという議論が起こっているスウェーデン、私は複雑な思いで見ています。その昔の旧ブログにもこんなことを書いています。 「スウェーデンの教育にはなぜ不可があるのだろう と思っていました。日本みたいに5段階とかの評価にしてしまえば、話題に上る多くの問題は解決するのにと思っていました。」 2.一人一人の持っている能力を最大限に伸ばす教育  では、なぜ、スウェーデンの学校教育は、成績を6年生から出し、不可をつけるのか。理由は複数ありますが、私が感じる最も大きな理由は、一人一人の持っている能力を最大限に伸ばす教育を目指しているからであると思います。スウェーデンの教育は、Lev Vygotskijの影響を深く受けていることもあると思います。この考えは、スウェーデンのインクルーシブ教育を理解するうえでも感じます。子どもを大勢の中の一人としてみて教育をするか、それとも、その子を「個」としてみて教育するかということにもなります。私は日本で3年弱代替教員をしていたことがあり、その時にちょうど相対評価から絶対評価に変わったと記憶しています。スウェーデンも同じように相対評価から絶対評価に変わっており、その時期は日本よりも早いのですが、このあたりの評価の仕方がかかわっていることも容易に想像できます。 3.納税者を育てる教育  スウェーデンの教育について聞かれると、スウェーデンの方が、学校教育において先生方の「納税者になる」ように育てるという気合が違うように感じてきました。学校教育には、国を維持していくために、税金を納...

過去記事から見るスウェーデンの教育費の削減

 スウェーデンは教育費を含む子どもにかける国家予算の多い国として有名です。その国で教員をして、もうすぐ20年になろうとしています。年末の投稿では2回にわたり、「 ストックホルム市の教育予算削減その1 」と「 ストックホルム市の教育予算削減その2 」を書きましたが、旧ブログを振り返ると、予算削減を愚痴っている内容は多いことがわかります。2009年の投稿をリライトしながら、今一度予算削減の影響を考えます。 1.人件費が大きいのは変わらない  2009年の投稿を読んでも、人件費の削減が最も大きく、1500人もの先生が解雇されるという情報を書いています。3市に2市は、削減するともあります。やり方もあまり差がなく、正規雇用ではない短期や代替教員の継続雇用をしない、定年の教員の補充をしないなどが上がっていました。こうした人員削減は一般的なもので、予算削減に関わらず、生徒数の動向に沿ってもよく行われていると思います。 2.大きな違いは?  では、今までの予算削減と大きく違うのはどんな点かというと、スウェーデンでは風邪などの病気の場合は医師の診断書なしで休める病気休暇が1週間あるのですが、そういった病気休暇や子どもの病気看護休暇で休む職員が出た場合に、補充が入らない。ということはどういうことかというと、いつもと同じ仕事を少ない人数でこなすことになります。そして、1クラス当たりの人数を増やす。これも就学前学校から基礎学校まで、本当に増えたと思います。 3.政治直結型教育  スウェーデンの学校教育に関わっていて思うのが、地方政治から国政まで、とにかく政治と直結していると感じることが多いことです。今回の教育予算削減も、他国に比べれば、穏やかなデモが行われたことにより、ストックホルム市は予算の見直しをおこない、学校予算は少し回復しました。その影響はあまり大きくは出ないにしても、透明感が命のスウェーデンの学校教育では、ここにお金が使われたといったような報告が入りました。また、組合との交渉で、健康促進のための補助金が削減されるなど、多方面で互いに協力し合って何とか乗り切ろうとしていることがわかります。 4.教員免許保有者の行く末  教員が足りないのはスウェーデンも日本と同じなのですが、教員免許を取得しても仕事がないという人もいます。これには様々な要因がありますが、要因免許有資格者はお給料が高い...

高福祉社会スウェーデンの自殺の実態

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  私に時間の余裕が生まれたら、取り組みたいと思っているのが、自殺問題です。スウェーデンでも自殺で命を絶つという人が多くいます。年齢にかかわらず、自ら命を絶たなければならない状況になってしまうまでに、何とかならなかったのだろうか、思いとどまることができなかっただろうかと思います。私は、アラフォーですが、親せきや家族、同僚や、知り合いの知り合いと数多くの自殺者を見てきました。私自身が何とかできなかっただろうかと思う出来事もあり、いつかこの分野で何か私なりに貢献できればと思っている次第です。スウェーデンで自殺が増える時期は春ですが、これに加えて多いのがお正月なのです。クリスマスや正月といった家族や友達が集まるときに一人であると、自殺がふと頭をよぎるというのは、私にも想像ができます。これに加えて、アルコールの摂取量が増えることも要因ではないかといわれています。今日は過去の投稿を含めながら、高福祉社会スウェーデンの自殺の実態を見ていきます。 1.突然の同僚の自殺  もう5年以上がたちましたが、それでも思い出す同僚の自殺があります。過去の投稿よりリライトしながら、今一度振り返りたいと思います。2月の終わりにあるスポーツ休暇でフィンランドを訪れていると副校長から電話があり、突然の同僚の自殺を知りました 。普通に1日仕事を一緒に終えて、また、来週も普通に仕事を一緒にすると思っていたのに、その「普通」が戻ってくることはなく、彼女は自らの命を経ちました。このことに私を含めた同僚たちは大変大きなショックを受けました。 彼女の死を悼む会で、同僚が話した言葉で印象に残ったのは「自殺は、死にたいからするのではなく、生き続けることができなくなったからするのだ」と。私もこの言葉を今なら強く言えます。何人かの自殺を選んだ知り合いを思うと、本当は行きたかったのだろうと思わずにはいられません。彼女との職場での日常からは、このような別れが待っているとはとても想像できず、しかしながら、振り返ると、彼女なりに出していたSOSはあったのかもしれないとも思います。  自殺が人に与える影響はとても大きく、残された人々は後悔をすることも多いと感じます。だからこそ、自殺の話をもっとしていく必要があるのではないかと思います。近年スウェーデンでは若者の精神の不健康が大きな問題となっており、若者の自殺も少なくありません。早...

ストックホルム市の教育予算削減 その2

  前回に続き、2023年回顧録ということで、ストックホルム市の教育予算削減についての投稿になります。 その1はこちらを 。 3. 組合を含む会議による人員削減プロセス  その1の2で書いたのですが、教育予算削減の関してのリスク分析が行われ、それと並行して、かなりのスピードで行われたのが、人員削減を法律や決まりにのっとり、できる限り透明に行うために、普段は月1の関連会議が頻繁に行われました。といっても、私はこの会議には出席しないので、はっきりと内容などを書くことはできないのですが、この会議は、職員側の代表として、組合の係りの職員が出席します。うちの学校の場合、教員は教員組合で、この当時は2組あり、それに加えてアシスタントなどは所属する組合があり、その代表が出席します。そこに、ほかの組合の代表がいれば入り、校長や副校長、経営担当者などが、会議を行っていました。多いときは週1くらいで行っていたような記憶があります。もしくは、長い会議を行っていたような気がします。この会議で、雇用する側されている側双方の理解を図り、できる限り迅速に行うことで、削減される人は、ストックホルム市内での配置換えを申請し、秋学期からほかの学校や職に移ってもらうということになります。  この過程で私たち全職員が行ったのは、ストックホルム市の職員としてどこで何年働いたかという確認書類にサインをすることです。この雇用年数の短い人から削減対象になるので、間違いがないようにという配慮です。生徒数650人ほど、職員は、100人ほどいるので、作業としてはそれなりに時間がかかるものでもあります。そして、削減対象の人が決まり、この最終決定の会議が行われたのが、4月頭だったと思います。 4.リスク分析会議  私たち全職員が行ったのが、リスク分析会議です。スウェーデンの学校では、1年に1回職員アンケート調査が行われ、その結果に基づいて、職場の改善プランを立てます。これに基づいて作られた改善プランに加えて、今回の職員削減、教育予算削減がどのようなリスクをもたらすか、影響を与えるかを書いていきます。それ用の用紙があり、項目に従い、リスクのあるなし、その程度などを話し合い書きます。これを各グループでしました。私は、支援学校の先生たち、9人と行いました。今振り返ると、あの会議は、生徒のアシスタントとも行うべき...

ストックホルム市の教育予算削減 その1

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 私はストックホルム市の教員、公務員をしています。スウェーデンの公教育に関わって、もうすぐ20年になろうとしていることに驚きを隠せません。日本の方と話が合わないことがあるのも当然だと思いながら、昨日の今年の振り返りで、さらに振り返っておかなくてはと思ったのが、教育予算削減です。せっかく、現場で働いているのだし、このブログ、もう読んでいる人はほとんどいないのだし、現場から見た事実を書こうと思う。表面的な情報は、ネットでいくらでも見つけられる時代だし。ということで、時系列に、記憶をたどって、スウェーデン、首都ストックホルム市の教育予算削減の影響を振り返ります。 1.2023年1月、教育予算削減の第一報が入る  ちょうど1年前になりますね。年が明けるとスウェーデンでは春学期が始まります。学期初めの初日は職員の研修日です。その日は私は振り返ると、ヘッドティーチャーとして、今やっている全国の支援学校との共同プロジェクトのスタートを切る会議を前の副校長と計画し、2時間の研修会議を受け持っていました。というのは、良い方の記憶で、このころから、風向きが怪しくなってきていました。スウェーデンの学校での予算削減の影響を受けるのは、今回が初めてではなく、前に勤務していたストックホルム郊外の小さな市や少しだけ勤務した市でも働いていた10か月の間、ずっといかに予算削減に対応するかという会議でした。このあたりが、日本でもそうなのかなと、この夏の帰国で日本の先生と議論したいところですが、お金が削減されるという予算計上が出されると、市から校長会などを通じて校長に連絡が入り、そん後の学校の会議は、この内容でほぼ一色になります。 2.2023年2月から始まった、教育予算削減に関するリスク分析  記憶が正しければ、うちの学校の定例水曜日大会議(学校中の先生が集まって30分の会議がある)にて、詳しい説明を受けました。どのくらいの削減で、どう影響をうけるのかなど。記憶しているユニークな説明は以下の通り。 ストックホルム市の予算が厳しいのは世界情勢や物価高もあるが、スルッセンの工事にお金が予想以上にかかってしまったこと。もちろん、この理由は公では言われませんので、冗談半分でいわれる事実であると私は認識していますが、時折出てきます、この話。。。スルッセンとは、ストックホルムの旧市街とその隣の島を結ぶ地域で、数年...

2022年のスウェーデンのPISA学習到達度調査の結果考察

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  今学期も残り僅かになり、私も疲れを感じるノーベル章授賞式の日曜日です。今週は、2022年のPISA学習到達度調査の結果が公開され、スウェーデンの教育界では大きなニュースとなっています。せっかくスウェーデン語もわかりますし、学校庁のメディア向け報告や様々なニュースをまとめて考察してみようと思います。 1. 学校庁がまとめたPISAの結果  スウェーデンの学校庁がメディアを集めてPISAの学習到達度調査の結果を発表したのが火曜日でした。そこで発表されたのが以下の結果です。 スウェーデンの15歳児の数学的リテラシーと読解リテラシーが低下した。科学的リテラシーは前回と同位。この結果は、多くの他国と同様の傾向にある。 数学的リテラシーと読解リテラシーは、2012年の「PISAショック」の時と同じレベルまで低下した。 スウェーデンの15歳児の数学的リテラシー、読解リテラシーと科学リテラシーの結果は、OECD平均を上回った。 スウェーデンの学校教育の均等性は悪化した。OECDレベルではあるが、スカンジナビア諸国に比べると劣化している。 順位を以下の表から見ると、数学的リテラシーは、日本が1位でスウェーデンは、18位です。読解リテラシーは、日本は2位で、スウェーデンは14位。科学的リテラシーは、日本は1位で、スウェーデンは17位です。スカンジナビア諸国を比べると、フィンランドとデンマークはスウェーデンより良く、ノルウェーとアイスランドはスウェーデンより悪いという結果になっています。 2.2012年のPISAショックの記憶  スウェーデンの2012年のPISAショックの記憶は私も思い出すことができるほど、大きなニュースでした。あの2012年並みまで、今回は結果が下がったということで、またまた、スウェーデンの教育界は揺れそうです。少し、2012年と比べて結果を見ていきます。  数学的リテラシーは上記の図にあるように、2012年にドーンと落ちた後回復傾向にあったのですが、今回またドーンと落ちました。  読解リテラシーも、同様の結果です。せっかく回復したのに、それがまた落ちたということですが、学校庁側はこれを新しいトレンドとかショックという風には言いたくないようで、そんな感じがいたるところで読み取れます。2012年のあの大騒ぎとその後の様々な対策を考えると、教育現場にいるものと...

スウェーデンの知的障害児の研究 インクルーシブ教育とは何か?

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  お久しぶりです。秋学期の折り返し地点に到着し、来週は秋休みです。教員は一般的には、秋休みは月曜日から水曜日まで働きます。私は、ここまで、とても労働力が多かったので、副校長が月曜日に特別にお休みをとるようにと、火曜日と水曜日の勤務になります。スウェーデンの教員は、この秋休みに到達することが大きな目標というか、ここまでこれば、今年度もなんとか行けるという感じがするという感じです。秋休み後は、個人面談をやり終えると、あとはクリスマス休暇に向けて、成績付けなどのラストスパートに入ります。おっと、話がずれました。  今日は、スウェーデンの知的障害児の研究を振り返りながら、知的障害児にとってインクルーシブ教育とはと、少し考えてみたいと思います。今週の火曜日に、こちらの知的障害者団体が行ったオンラインの会を聞いての感想と振り返りになります。あと、うちの学校は、今年度より、学童の大きな改革をして、支援学校と基礎学校の学童を一緒にしたので、その中で思う、インクルーシブ教育の在り方を今一度考えてみたいと思いました。 1.スウェーデンの知的障害児教育の歴史を振り返る  スウェーデンの知的障害児たちは、歴史的に長く「分離教育」をされてきました。優性思想も強かったスウェーデン、知的障害児・者に対する差別や迫害の黒歴史は、多くあります。年月でいえば、約150年ほど分離教育をしており、今の学校システムも、分離教育であるというのが、スウェーデンの認識です。知的障害児の中でも、特に中重度で、「学ぶことができない」とされてきた子供たちは、「医療」の一環として、長く広域行政体によって管理運営がされてきました(訳100年)。  そんな歴史を変えたのが、1968年。この年に、やっとスウェーデンのすべての子どもたちの就学の権利が確立されました。日本では1979年がよく言われますので、スウェーデンは、それよりも11年早いのですが、決してすごく早かったとか、ずっと教育を受ける権利が保障されていたということではないのです。やっと、すべての子どもが教育を受けられるようになったのですが、その教育は、医療が管轄していたこともあり、福祉と医療が色濃くでた教育でした。そして、1990年代になって、教育が基礎自治体に移ります。これもとても大きな背景であり、その影響は、今でも強く受けています。私は、「広域行政体(医療...

2か月弱の夏の休暇でも、なり手がいないスウェーデンの教員不足問題

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 この投稿は、旧ブログの教員不足問題に関する投稿と共に、新たに書いて投稿しています。 2022年7月16日に、初の単著「 医療・福祉・教育・社会がつながるスウェーデンの多様な学校~子どもの発達を支える多職種協働システム 」を刊行。是非ご一読を😊  教員のなり手がいない、担任なしで4月スタート、教員採用試験の倍率が過去最低といった声が日本から届きます。「 解説!スウェーデンの学校の先生の労働環境~8週間弱の夏の休暇の秘密 」だけ読むと、教員はさぞかし人気のある仕事だろうと思われた方もいるかもしれません。しかし、スウェーデンも日本と同様に、教員のなり手がいない、教員不足の国です。教員のなり手の減少は、おそらく世界的な流れではないかと想像しており、その要因は様々なものが考えられると思います。今日は、旧ブログの教員不足に関すると投稿と共に、2022年夏のスウェーデンの教員不足についてです。 スウェーデンの教員不足はいつから?  旧ブログを始めた時には、既に教員不足に関して書いていたので、2008年には報道されるほどの問題になっていたと思います。2010年の学校法改訂と学校改革により、教員免許制度が導入され、教員不足問題は、「教員免許有資格者不足」というより明確な問題となり、現在の日本の状況に似ていると思います。 なぜ、スウェーデンで教員は人気がない職業なのか?  複数の理由があると思います。スウェーデンでよく言われる理由を以下にまとめます。 スウェーデンで教員になっても儲からない、もとが取れない。 スウェーデンでは、大学の授業料は無料ですが、学生は、生活費や教科書代などを学生支援金と共に、学生ローンを組んで自分で支払います。18歳になると成人となり、基本的に親が面倒を見るということはなくなる文化です。教員はプログラムにもよりますが、3年半から5年半かかり、その間に背負うことになるローンに見合うお給料が、先生になってももらえないという状況でした。同じくらいの期間学ぶ、例えばエンジニアとか法律家に比べると格段にもらえるお給料が少なかったのです。今は少し改善されています。 労働環境が厳しい 。夏の休暇は長く素晴らしいのですが、学期中の労働環境は厳しく、事務仕事も増え、成績や評価、特別な支援や付加的調整、保護者対応、いじめや差別、不登校などへの対応など、勤務時間内に仕事を...

スウェーデンの学校の現状を変える組合の案

 昨日の「 スウェーデンの教員組合の組合長のインタビューより 」の続きです。記事には、スウェーデンの学校の現状を変えるための4つの明確な案が提案されていました。 1、教育面で指導力を発揮できるように、校長にさらに時間を与える。  スウェーデンの学校の校長は、教員の指導や授業の向上といった教育面で指導力を発揮するような時間は、はっきり言ってありません。管理職の仕事は、いかに経済的な予算をしっかりと守って学校運営をするかにあり、日々の仕事は、 学校の運営、特に経済面 学校の建物に関する問題 教員などの職員の確保 法律面の問題対応 などがあり、これらを他の人材が行うことによって、校長が本来の校長職である学校の運営、教育に関わることが重要であると。その通りであると思います。校長が授業をみにくるなんて、学期に1回あるかないかです。うちの学校は副校長がいるので、副校長は会議には出ることが時々あるけど、校長は姿を見せない。。。電話の対応や日々起こる問題の対応で手いっぱいの模様。ここは確かに改善の余地ありで、コミューンの教育委員会に当たる部署からもう少し、援助があってもいい気がします。 2、社会的教育員を増やし、教員の仕事をへらす。  おそらく、今後、スウェーデンで注目される教育に関わる仕事の一つが、この「社会的教育員」と直訳したけど、「Socialpedagog」と呼ばれる職業です。もう一つの注目される仕事は、先生のアシスタント。生徒のアシスタントはいるけど、今後は先生のアシスタントが増えると思います。  この社会的教育員は、生徒の社会性を育てる役割をする先生で、担任と生徒の健康に関わるチームの橋渡しとなって、様々な問題解決に尽力していくことになります。現在は、この部分を担任や、有能な特別支援教育専門員が行っており、授業以外の仕事として、生徒の面々によっては、かなり時間を取られます。グレーゾーンの子が一人でもいれば、先生は結構大変で、ソーシャルな面を見てくれる教育者が、例えば休み時間などに、適切に子供達のちょっとしたケンカなどに対応してくれて、その後の処理もしてくれたり、ケンカにならないように改善してくれたりしたら、いじめや不登校など、いろんな問題が少しずつ改善されていくように思います。 3、先生のアシスタントの導入。  上記に書きま...

スウェーデンの学校選択自由化が招いた悲劇 その2

 先ほどの「 スウェーデンの学校選択自由化が招いた悲劇 」の続きを書こうと思います。  昨日のニュースで、これに関する興味深い内容を聞きました。新聞記事としては、まだ読んでいません。  先ほどの学校選択自由化に伴い、いわゆる移民の多い地域に住んでいる子どもが、移民の少ない、スウェーデン人の多い地域の学校に通いだしました。 (予備知識ですが、スウェーデン、ストックホルムは、移民の多く住む地域とスウェーデン人が多く住む地域とはっきりと分かれています。)  これによって、保護者は成績が伸びることを期待します。残念ながらどこが出した統計か覚えていないのですが、おそらく社会福祉関係の機関だと思います。ニュースによると、 子どもたちは成績が伸びるどころか、自分の持っているもの、おかれている状況を他の子ども比べて、精神的に不安定になり、結果的に成績は期待していたほど伸びない 傾向があるということでした。大変興味深い内容です。移民の多い地域から、登校時間に時間をかけて、わざわざその学校に通っているのに、そこにいる子どもと自分を比べて落ち込むなんて、かわいそうだと思ってしまいました。こうして、学校を変わる子どもの傾向として、 頭がよくて感受性が強い子ども が多いのかなあとも考えてしまいます。  お金のある裕福な家庭の子どもが多く住む、スウェーデン人の多く住む地域の子どもは、休みごとに外国にでかけたり、スキーにでかけたりと、比べる要素はたくさんあると思います。日本のように私立だから高い学費というのはスウェーデンではなく、 学校は無料 であるため、学校に通うことはできます。が、そうした「付属」部分にお金をかけられるか、かけられないかは、大きな差になってくるのでしょう。  住む地域によって学校がきまっていると、住む地域の地価があるので、それなりに割り振られた家庭の子どもが付き合うことになってきます。そういうのを飛び越して学校を選び通っているのですから、仕方がないといえば仕方がないのでしょうが、精神的に落ち込む子どもがいるのは残念ですし、本来ならば、伸ばせた力がこれによって伸びなくなるというのは残念なように思います。     それにしても、何でスウェーデンでこうした学校選択の自由化にいたったのだろうかと考えてみました。私が思いつくのは、 ...

スウェーデンの学校選択自由化が招いた悲劇

スウェーデンでは、 1990年代 に 「学校選択の自由化」 が行われました。1992年からは、公立と私立の学校の両方で選択の自由ができるようになりました。2012年の今、あれから 20年 がたち、これに対する 批判が多く聞かれるよう になりました。5月に入り、Skolverketという学校関係を扱っている機関も、学校選択の自由化のレポートを出し、それを批判したので、新聞でも大きくかかれるようになりました。  学校を自由に選択できることは、民主的であり、聞こえはとてもよいのです。この問題は、ここ数年よく聞かれるようになり、学校選択自由化に対する調査を行うべきだという声があったのです。政治家がこれを阻止しようとしたらしいのですが、結局調査は行われることになり、その結果が出できたのかなと思っています。  スウェーデンの学校選択自由化での問題をまとめてみたいと思います。 1.学校間の差が大きくなった。スウェーデンの学校の均等性がなくなった。  学校が自由に選べることになり、保護者の教育レベル、教育的関心が大きな意味を持つようになり、また、保護者が外国人であるかないかも大きな意味を持つようになりました。関心の高い親は、子どもが生まれた時点で小学校の順番待ちに並ばせるくらいの気合の入った方もおり、そこまでいかなくても、より良い学校に入れるためにがんばります。学校に入学してからも、クラスの雰囲気や教員、移民の子どもの人数などなどを理由に、学校を変わっていく子どもが大変たくさんいます。   私が聞いた例などは、こんな感じ。ストックホルム郊外の学校。スウェーデン人の子どもが多く通っている比較的落ち着いた学校だったそうです。それを聞いた移民の保護者が自分の子どもを通わせます。数名のうちはいいのですが、だんだんと増えてくると、スウェーデン人の親たちが自分の子どもを違う学校に変えていくと。たいていの場合は、ストックホルム市内の有名な学校などへ転入させるらしい。一人学校を変わると、それに伴って、数人のお友達たちが一緒に学校を変わっていく。  こういった話はよく聞くもので、学期途中でもお構いなしで席さえあけば、次々と生徒が転出転入してくるという現状に、教員は困ってしまう。上記では、スウェーデン人の親と書きましたが、これは、移民の親も同様で、熱心な移民の親も、自分の子ど...

スウェーデンの教育の弱点とその未来

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長かった秋学期も来週の3日間で終わります。スウェーデンの特別支援学校の教員として働き出して4年目になり、今学期はかなり余裕がありました。振り返っても、子どもたちの成長や発達が目に見え、満足感があります。  さて、今日は、 スウェーデンの教育の弱点 という、なんとも大きな題で少し書きたいと思います。  ここ数年、叫ばれているスウェーデンの教育の崩壊、新聞で教育関係の記事を目にしない日のほうがめずらしいほど、教育の今後について叫ばれています。新しく報道され、大きく取り上げられたのが、私立の学校が多額の利益を上げていること。これについては、また別で詳しく書こうと思います。ここまで、いろいろ言われるのですし、実際に働いていても目にしているのですから、スウェーデンの教育に問題が多くあることは事実です。その中でも特に今のスウェーデンの教育の大きな弱点だと思う点が、やはり、 くじびきのようなもんだ という点です。???と思った方、いると思います。詳しく書くと、 まず、生まれた時点で子どもたちはくじ引きを引いている感じです。 どんな親のもとにうまれたのか、 その親はスウェーデン人なのか、外国人なのか。 そして、お父さんお母さんは、大学卒なのか、高卒なのか、もしくは、学校を出ていないのか。 といった感じで、これに続き、 スウェーデンのどこの地域に住んでいるのか、 どんな幼稚園にいったのか、 どんな小学校にいって、どんな先生が担任になったのか。 どんな高校にいったのか。。。。。 といったくじ引きとでもいえるようなこれらの条件により、その後の自分の教育が変わり、能力がかわり、人生が変わってしまいます。 日本人からすると、そんなの当たり前と思われる方、いるかもしれません。でも、こちら、スウェーデンでは、この点に関して、ものすごく理念というか考えが深くあり、教育の考え方に、 どの子どもも、親の能力や経済力などにかかわらず、平等に最大限の能力を伸ばす権利がある という考えがあり、これに基づき、教育は無償になっており、学校教育も評価なども含めて全国的に平等であるべきであるという思想、発想に基づいて教育が成り立ってきていました。国の教育には、その大きな無限の力があると考えられているのです。...

スウェーデンの数学教育が伸びない理由

スウェーデンの数学教育に多くの予算がかけられました。先日のニュースや新聞で大きく取り上げられていましたので、ご存知の方も多いかと思います。  スウェーデンの数学教育というと、私が知っている限り、あれではだめだろうなあというものでした。簡単に説明すると、 自主学習型の数学教育 といえます。教科書があり、それを個人でこなしていくという形の授業が主流で、自主学習といえば聞こえがいいが、数年で子どもたちの間の能力の差はものすごく広がってしまいます。たいていの教科書が、数学Aから始まり、B,C,Dとあがっていくのですが、同じクラスにAの教科書の子どもとDの教科書の子どもがいたりして、傍目に見ても大変だろうと思われる授業が展開されていたりします。 ただ、ここ数年数学能力の低下について大きく取り上げられ、また、スウェーデンの教育は、最低限度を教える形をとっているので、数学教育のあり方も徐々に見直され、少人数であったりするなど、多少の変化は見受けます。 教える側としては、この自主学習的な教科書主導の教え方だと、分かりませんと10人に手を挙げられたら最後で、授業は成り立たなくなるので、私は、あまり好きではありません。また、一度つまずくとその部分で数学が嫌いになってしまうのもネックだと思います。 これらの数学教育のあり方の影にあるのが、やはり、資格を持っていない先生が多いことが原因ではないかと私は個人的に思っています。教育法だとか教授法だとか教育実習だとか、教育課程ならではのものを学んでいない先生が数学を教えるとなると、それにあった方法になってしまうのではないかと。 これを裏付けるような恐ろしい数字が新聞(SVD20110830)に載っていました。 2005年の統計ですが、 高校の数学教師の有資格者(免許あり。)率は、35% 6年生から10年生まででは、          40% 1年生から5年生まででは、           64% これ、すごいかも。と思いました。子どもの年齢が高くなると資格者率が減っていくのは、おそらく、大学の理数系を出た人たちが、教育法などをあまり気にしなくてもいい若者相手に教えている結果かなと勝手に想像しています。 資格がないから、悪い先生とはいいませんが、それでも、教育方法などを学んで実習...

教育効果があがらない理由 in Sweden

スウェーデンの教育が低下傾向にある話は何度も書いてきました。PISAの統計でもその調査ごとに結果が低下していっています。これに関して、組合が行った調査があり、そこから、少し話をしていきたいと思います。  教員1000人に行った調査によれば、近年教育効果があがらない、結果が出ない理由は、 1.職員(教員)の減少 52% 2.教員が教える形での授業の減少 23% 3.そのほかの要因 4.学校選択の自由化 というように出ています。  この傾向は90年代に入っておきたものらしいですね。スウェーデンの教育は90年代に大きく変わりました。何が変わったかというと、 94年に出されたカリキュラム 学校選択の自由化 私立学校の自由化 学校が地方公共団体レベルの運営になった なとでがあがります。ここで、書き連ねてもこんなに多くの変革をしてきたのかと思わずにはいられません。これにより、吉と出たか凶とでたかが今問われているというところでしょか。 ひとつずつ見ていくと、1の教員の密度についてですが、それまでの、高度成長期から経済の波が変わり、教育にお金をかけられなくなったことにより、教員や学校職員にかけられるお金ががたっとへったようですね。これに追い討ちをかけるように、国が支配していた学校を地方公共団体レベル(コミューンレベル)にかえたためにお金に余裕がなく、今のような金、金、金の学校になってしまった。。。教員が増えて、人の手、目の数が増えれば、もちろん、ぎりぎりでついてきている子どもたちや障害のある子どもたちに手が回るようになり、最終的に教育効果があがってくるだろうとも思えます。 2の教師が行う授業が減ったというのは、スウェーデンの教育は、グループワークや自主学習に力をいれたために、いわゆる一斉授業が減り、これにより、個人の能力に頼りすぎて、できない子はよりいっそうできなくなり、できる子は退屈になったというような感じでして、これも、今後見直しが必要な点だと思われます。 3のほかの要因というのは、詳しく書かれていないので飛ばします。まあ、カリキュラムが悪いとか、いろいろありそうですが。。。 4の学校選択の自由化、これは、特に都心部では大きな問題を巻き起こしていたりします。田舎はそんなに選...