2023年12月31日日曜日

ストックホルム市の教育予算削減 その2

  前回に続き、2023年回顧録ということで、ストックホルム市の教育予算削減についての投稿になります。その1はこちらを

3. 組合を含む会議による人員削減プロセス

 その1の2で書いたのですが、教育予算削減の関してのリスク分析が行われ、それと並行して、かなりのスピードで行われたのが、人員削減を法律や決まりにのっとり、できる限り透明に行うために、普段は月1の関連会議が頻繁に行われました。といっても、私はこの会議には出席しないので、はっきりと内容などを書くことはできないのですが、この会議は、職員側の代表として、組合の係りの職員が出席します。うちの学校の場合、教員は教員組合で、この当時は2組あり、それに加えてアシスタントなどは所属する組合があり、その代表が出席します。そこに、ほかの組合の代表がいれば入り、校長や副校長、経営担当者などが、会議を行っていました。多いときは週1くらいで行っていたような記憶があります。もしくは、長い会議を行っていたような気がします。この会議で、雇用する側されている側双方の理解を図り、できる限り迅速に行うことで、削減される人は、ストックホルム市内での配置換えを申請し、秋学期からほかの学校や職に移ってもらうということになります。

 この過程で私たち全職員が行ったのは、ストックホルム市の職員としてどこで何年働いたかという確認書類にサインをすることです。この雇用年数の短い人から削減対象になるので、間違いがないようにという配慮です。生徒数650人ほど、職員は、100人ほどいるので、作業としてはそれなりに時間がかかるものでもあります。そして、削減対象の人が決まり、この最終決定の会議が行われたのが、4月頭だったと思います。


4.リスク分析会議

 私たち全職員が行ったのが、リスク分析会議です。スウェーデンの学校では、1年に1回職員アンケート調査が行われ、その結果に基づいて、職場の改善プランを立てます。これに基づいて作られた改善プランに加えて、今回の職員削減、教育予算削減がどのようなリスクをもたらすか、影響を与えるかを書いていきます。それ用の用紙があり、項目に従い、リスクのあるなし、その程度などを話し合い書きます。これを各グループでしました。私は、支援学校の先生たち、9人と行いました。今振り返ると、あの会議は、生徒のアシスタントとも行うべきものであったと感じますし、先生だけで行うと、職種が違うので、リスクが低いとしたものも、生徒のアシスタントにとっては、大きかったりと、思うところはいろいろあります。このリスク分析会議の結果も上記の関連会議で話し合われます。


5.人員削減による職員の転職

 最終的には、何かしらの事情による転職も含めるとかなりの人数がやめ、支援学校では5名のアシスタントが市内の配置換えとなりました。全校では、おそらく10名ほどだったのではと思います。近隣の学校の中では最も多い数であったと地方紙にも取材されました。支援学校は、誰も読んでいないかもと書きながらも、やっぱり、ブログでは書きにくいような事件や発言が相次ぎ、疲れました。これだけが原因ではないのですが、副校長が辞職し、直属の上司が不在となったことにより、私の仕事も増えました。

 そして、夏の休暇中に転職しますという報告が数名あり、また体調不良などで休む職員も出て、ふたを開けて秋学期になったら、職員不足で新たに雇用開始という始末に。。。これもあるあるで、スウェーデンのように学校に雇われる場合、自分で決めて転職できるので良いと思う反面、こういう事態になると、ほかのところに移っていく職員が出ます。今書いていてもため息が出ますが、それぞれ個人の事情があるのですし、仕方がないことです。仕方がないで済まされないのが、私のアシスタント、秋学期開始から秋学期終了まで残っているのは、なんと1名。5名中です。全員がやめたわけではなく、ほかのクラスの事情から、できる職員を配置換えさせたりしているので、ほかの先生は何でOKしたのかといわれましたが、ほかのクラスの窮状もほかってはおけないし。。。ここには書く気力も起きないような出来事もあり、二転三転し、今の職員で何とか春学期を乗り切りたいと思っている次第です。

6.1クラスの生徒数の増加

 人員削減で何がおこったかというと、基礎学校を含めて、1クラス当たりの生徒数が増えました。うちの学校は、ストックホルムでも1、2を争う大規模の支援学校ですが、クラス数は7クラスと少なく、全国の支援学校の先生と話すと、いかに1クラスの生徒数が大きいかがおわかります。基礎学校も生徒の出入りがありますが、例えば、1クラス減らしたので、その分1クラス当たりの生徒数が増えるという状況になります。ただ、基礎学校は支援学校以上に生徒の出入りがあったりするので、クラス自体を減らすことは珍しくないのです。近隣の私立の学校などに席が空くとそっちに数人移っていくというのもめずらしくないです。

 ということで、減らされた職員で人数の多いクラスを見ることになり、私の場合、軽中度の知的障害の重複障害児を見ているので、上記のように職員の入れ替わりも激しく、人員も削減された中での秋学期は大変でした。そして、こうして言葉にすると、「私よくがんばりました」と振り返ることは多いのですが、心から自分をほめてあげたい。


 ということで、このあたりで、教育予算削減に関わる回顧録を終え、2023年のブログを終えたいと思います。もっと、書きたい事実やシステムなどもありますが、それはまた別の機会に。


 皆様、今年も私の更新頻度の少ないブログに足を運んでいただき、本当にありがとうございました。インスタグラムに挙げた今年の選りすぐりの9枚の写真とともに、皆様の大晦日が穏やかなものとなり、幸多き2024年となりますように心から願っております。

 


 

2023年12月30日土曜日

ストックホルム市の教育予算削減 その1

 私はストックホルム市の教員、公務員をしています。スウェーデンの公教育に関わって、もうすぐ20年になろうとしていることに驚きを隠せません。日本の方と話が合わないことがあるのも当然だと思いながら、昨日の今年の振り返りで、さらに振り返っておかなくてはと思ったのが、教育予算削減です。せっかく、現場で働いているのだし、このブログ、もう読んでいる人はほとんどいないのだし、現場から見た事実を書こうと思う。表面的な情報は、ネットでいくらでも見つけられる時代だし。ということで、時系列に、記憶をたどって、スウェーデン、首都ストックホルム市の教育予算削減の影響を振り返ります。

1.2023年1月、教育予算削減の第一報が入る


 ちょうど1年前になりますね。年が明けるとスウェーデンでは春学期が始まります。学期初めの初日は職員の研修日です。その日は私は振り返ると、ヘッドティーチャーとして、今やっている全国の支援学校との共同プロジェクトのスタートを切る会議を前の副校長と計画し、2時間の研修会議を受け持っていました。というのは、良い方の記憶で、このころから、風向きが怪しくなってきていました。スウェーデンの学校での予算削減の影響を受けるのは、今回が初めてではなく、前に勤務していたストックホルム郊外の小さな市や少しだけ勤務した市でも働いていた10か月の間、ずっといかに予算削減に対応するかという会議でした。このあたりが、日本でもそうなのかなと、この夏の帰国で日本の先生と議論したいところですが、お金が削減されるという予算計上が出されると、市から校長会などを通じて校長に連絡が入り、そん後の学校の会議は、この内容でほぼ一色になります。

2.2023年2月から始まった、教育予算削減に関するリスク分析


 記憶が正しければ、うちの学校の定例水曜日大会議(学校中の先生が集まって30分の会議がある)にて、詳しい説明を受けました。どのくらいの削減で、どう影響をうけるのかなど。記憶しているユニークな説明は以下の通り。

  • ストックホルム市の予算が厳しいのは世界情勢や物価高もあるが、スルッセンの工事にお金が予想以上にかかってしまったこと。もちろん、この理由は公では言われませんので、冗談半分でいわれる事実であると私は認識していますが、時折出てきます、この話。。。スルッセンとは、ストックホルムの旧市街とその隣の島を結ぶ地域で、数年前から開発が行われています。写真は借りてきたものです。


  • 政権交代の影響も当然ですが、出ました。日本の学校で働いていた時は若かったし、立場も講師だったし、と振り返るのですが、スウェーデンの学校は、政治に強く影響を受けると常々感じています。この辺りはきっと日本でもいっしょなのかなとか想像しながらも、ここまで直結している感じは受けないのですが。スウェーデンの選挙は4年に1回なので、2022年の選挙でストックホルム市は、赤緑路線になりました。スウェーデン社会民主労働者党側です。これにより、教育福祉への予算が増えるかと思いきや、選挙公約は実現することなく、各学校は予算削減の対応に追われることになりました。こうした政権交代の余波は、基礎自治体でも出るもので、互いに交代を理由にするというか、方針転換というか、いろいろと思うことはあります。
  • 私の勤務校は、ストックホルムの予算配分に関する移民や難民の多い地域リストの真ん中くらいなので、一応予算が余分につきます。この加配分の予算が曲者で、例えば、学校の人気が上がったり、頑張って9年生の成績結果をよくしたりすると、生徒が増えたり、これらのランクが上がったりして、なんと、加配金が減るのです。まあ、当然と言えば当然ですが、今年のように、何もしていなくても、物価がも上がっていくし、普通にしていてもお金がかかるのに、予算削減では、慌てるのも仕方がないです。
  • 学校で削減できるところは、実はそんなにないのです。学校運営って、いろいろ削減できそうであまりできない。一番削減してその成果が出やすいのが、人件費。スウェーデンは特に人件費にお金がかかる国でもあるので、この人件費をいかに削減するかによります。といっても、うちの学校はなかったけど、購入ストップがかかった学校も多くて、フェイスブックなどで、そんな就学前学校などの情報も流れました。ランチにかけるお金が少し減らされたり、遠足の時は、必ずジュースだった飲み物が、お水に変わったりと、様々な削減対策も練られているという印象を受けました。

ということで、人件費が削減されるという報告がされ、会議以降、組合と学校の関連会議を通じながら、削減される人のリスト作成が始まったのです。これと並行して、各グループで、これらの削減による「リスク」の洗い出しが始まりました。


と、書き出すと、思っている以上に私の2023年に影響を与えているという印象をうけます。仕事は日中の多くの時間を過ごしますしね。これに加えて勉強と家族と、子どもがいればこどもと、私たちの人生は、生きているだけでまるもうけといったさんまさんの言葉を思い出します。ちなみに、私はいまるさん好きなんです。犬好きのいまるさんのインスタをフォローしては、うちの2匹を眺めています。と、長くなったのでこれくらいに今日はしておきます。ではまた~!

2023年12月29日金曜日

2023年を振り返り

  2023年も残り数日となりました。AIに年の瀬に書くとよいブログのテーマを提案してくださいと頼んだら、ちゃんと素晴らしい候補をいくつか挙げてくれ、その中から、今年の出来事や成果を振り返り、新しい年に向けての抱負や目標を語る記事を書きたいと思います。今年は、年初めから波乱万丈で、私のSNSをフォローしてくださっていた方は、ご存じの通り、ツイッターは閉鎖し、Youtubuチャンネルは休止、このブログは不定期更新、かろうじてインスタグラムが更新され、連動してフェイスブック更新という感じで、アウトプットが少なめの年でした。そんな2023年の締めくくりにまとめる今年の出来事は以下のようになるかなと思います。

1.特別支援教育士(Specialpedagog)資格習得

 2023年の大きな出来事は、やはりこちらになるかと思います。長らくとるか取らないかと、うだうだしていた資格をついに取り終えました。一区切りついた感はありますし、最後の論文書くのが大変でした。二人で書く予定が、途中から一人で書くことになり、書き始めたと思ったら、義理の父が心臓発作で倒れ、その後亡くなりまして、もうあきらめようかなと思ったのですが、何とか書き終えて卒業したという、こうして振り返ると、なんてことない感じですが、実際には大変でした。

 資格習得をして何か変わったかというと、何も変わっていません。この資格で働ける仕事に転職しようというプランや起業しようという考えはありますが、今受け持っている生徒たちを卒業させたいのと、学校でかかわっているプロジェクトは終わらせたいという思いもあり、現状維持しています。特別支援学校で働いているので、学んだ知識は日々に生かしつつ、今後を考えていこうと思っています。

2.世界情勢と財政削減の影響を深く受けた1年

 2023年は、世界情勢の不安定さ、それにより財政削減の影響を深く受けた年であったと振り返ります。職場は、ストックホルム市の予算により、年明け早々に人員削減の影響を深く受け、それに伴う会議や対策に追われました。夏前には、かなりの数の職員が削減され、その余波を秋学期は深く受け、仕事量も心労も多かったと振り返ります。こうした世界情勢などの影響は、ニュースなどを通じて自分が思う以上に、心身に影響を与えているのだと実感した1年でした。

3.今後の人生を深く考えた1年

 人生はよいこともそうでないことも起こりますので、私も今までの人生でいろんな事件や出来事に出会いました。それでも、ここまで健康であること、生きているということを考えた年はなかったように思います。パートナーが長らく病気であることに加えて、義理の父の死、自分も年齢相応に衰えを感じ、人生も折り返し地点を超えて、先を見ていくことが重要になってきて、同僚や友人との話もそんな内容が増えました。人生は長いようで短く、いかに残りの人生を生きていくかと考えながら、自分がそんな年齢になったのだと深く感じました。

4.感謝の多い1年

 2023年はつらいことが多い年であったと振り返り、残り数日となり、内心やれやれと思っています。年の瀬にこんな風に思う年もあまりなかったように思いながら、それでも、今振り返りながら感謝の多い年であったと思います。年の初めに「ふたりぱぱ」のYoutubeに出演したことから、何人か新しい出会いをいただきました。ああして声をかけてくださる方がいることに感謝です。つらいなあといえる友人が数人いて、必ず話を聞いてくれます。仕事に行けば、楽しませてくれる生徒がいて、同僚がいます。新しく来た副校長にも感謝されることが多く、同僚たちにも恵まれています。パートナーは、なかなかよくなりませんが、それでも二人で何とかやってこれれています。愛犬は、一進一退でどうなるかわからないのですが、それでも一緒に年越しができそうです。義理の父の形見であるもう片方の犬は、その様子が義理の父に似ていて笑えます。今日は、日本からプレゼントが届き、涙です。書き出したらきりがない感謝の多い年です。このたくさんの感謝を何かの形で誰かに返していけたらと思う限りです。

5.アウトプットの少なかった1年

 今年は、アウトプットが少なかった1年であると振り返ります。上半期は、特別支援教育士の論文に追われ、SNSシャットダウンでしたし、義理の父の死とパートナーの病気でなかなか心に余裕がなく、マスター論文を書こうと四苦八苦して、結局アウトプットのあまりできない1年でした。アウトプットは時間がない時こそするべきかなと思いなおし、とりあえず、新しいことを始めるよりは、インスタグラムとブログを有効利用していくのがいいかなと、ほぞ細と、どちらも更新しています。マスター論文は、遅々として進まず、どうなるかわからない状況なので、書き終わったらという甘い夢は捨てようかと思い始めています。2024年は、2月の終わりにオンラインでインクルーシブ教育について話すというのが入っているのと、夏に日本帰国、連続学習講座、視察依頼など既にいろいろ入っているので、日本語の練習も含めてアウトプットを増やしていこうと思っています。


こんな感じかなと振り返っています。AIは新年の抱負や目標ものことでしたが、長くなったし、このあたりで終わりたいと思います。昔のブログから移行した記事が200くらいあって、それを読み返しながら、昔を振り返り、リライトしてあげてこうと思います。初心を今一度思い出し、気分も新たにしていきたいと思う年の瀬です。皆様の年の瀬が穏やかで笑顔あるものであることを願っております。



義理の父の忘れ形見、シーズー犬のピモです。フィンランド語で「きれいな女の人」というような意味だと聞いています。

2023年12月10日日曜日

2022年のスウェーデンのPISA学習到達度調査の結果考察

  今学期も残り僅かになり、私も疲れを感じるノーベル章授賞式の日曜日です。今週は、2022年のPISA学習到達度調査の結果が公開され、スウェーデンの教育界では大きなニュースとなっています。せっかくスウェーデン語もわかりますし、学校庁のメディア向け報告や様々なニュースをまとめて考察してみようと思います。


1. 学校庁がまとめたPISAの結果

 スウェーデンの学校庁がメディアを集めてPISAの学習到達度調査の結果を発表したのが火曜日でした。そこで発表されたのが以下の結果です。
  • スウェーデンの15歳児の数学的リテラシーと読解リテラシーが低下した。科学的リテラシーは前回と同位。この結果は、多くの他国と同様の傾向にある。
  • 数学的リテラシーと読解リテラシーは、2012年の「PISAショック」の時と同じレベルまで低下した。
  • スウェーデンの15歳児の数学的リテラシー、読解リテラシーと科学リテラシーの結果は、OECD平均を上回った。
  • スウェーデンの学校教育の均等性は悪化した。OECDレベルではあるが、スカンジナビア諸国に比べると劣化している。
順位を以下の表から見ると、数学的リテラシーは、日本が1位でスウェーデンは、18位です。読解リテラシーは、日本は2位で、スウェーデンは14位。科学的リテラシーは、日本は1位で、スウェーデンは17位です。スカンジナビア諸国を比べると、フィンランドとデンマークはスウェーデンより良く、ノルウェーとアイスランドはスウェーデンより悪いという結果になっています。

2.2012年のPISAショックの記憶

 スウェーデンの2012年のPISAショックの記憶は私も思い出すことができるほど、大きなニュースでした。あの2012年並みまで、今回は結果が下がったということで、またまた、スウェーデンの教育界は揺れそうです。少し、2012年と比べて結果を見ていきます。

 数学的リテラシーは上記の図にあるように、2012年にドーンと落ちた後回復傾向にあったのですが、今回またドーンと落ちました。

 読解リテラシーも、同様の結果です。せっかく回復したのに、それがまた落ちたということですが、学校庁側はこれを新しいトレンドとかショックという風には言いたくないようで、そんな感じがいたるところで読み取れます。2012年のあの大騒ぎとその後の様々な対策を考えると、教育現場にいるものとしては、落ち着いて情勢を見てもらった方がいいように思いますが、危機感も持ってほしいところです。

3.今回の結果の要因

 今回のPISAの結果の悪さの要因は、コロナ禍の影響があるというのが、スウェーデンでも、多くの諸外国でも言われています。スウェーデンの結果も多くの諸外国と同様の傾向にあるということも、学校庁が繰り返し話します。ただ、国内外の研究者や現場からは、これに関して冷ややかな意見も聞かれます。スウェーデンは、コロナでも学校を閉鎖しませんでしたし、それを第一要因とするのはどうかという感じです。また、ほかの国も低下したのだからというのは、国の説明としてはいまいちのようにも感じます。このあたりのコロナの影響は、想像するしかないのですが、学校を閉鎖していたら、もっと結果が悪かっただろうという見方もあれば様々です。

 スウェーデンは、学校教育は基礎自治体が運営自体は行っているので、なんとなく、そちらへの責任転嫁のような感じも読み取れ、私もどうなんだろうかと思ってしまいます。今回の結果が今後どのように学校教育に影響を与えていくのか、気になるところです。早々と出てきた案が、学校での携帯電話の使用の禁止。あとはやっぱり、就学前からのスウェーデン語の強化などです。

4.排除率は?

 2018年のpisaの時に大きな問題となったのが、スウェーデン語や障害などを理由に排除された生徒の割合でした。2012年のショックから、2015年でなんとか持ち返したので、それを下げないためにも、また、あの時よく言われたのが、ほかの国はスウェーデンよりも生徒を排除しているのだからというような感じの話でした。今回もこの点については注目されています。学校庁によれば、各学校において、スウェーデン語の問題や障害によって、pisa対象生徒であっても、適切に各学校で判断が行われ、できる限りの対象15歳児が今回のpisaを受けたとのことです。以下がその排除率に関する図になります。2018年よりも、少し減った程度で、結果に配慮するほどではないとのことでした。



 このpisaのテストは、各個人の障害などにテストを合わせることができないので、障害がある場合などは、免除という形で結果から排除されます。どこの国も行っているのですが、図を見ると、デンマークの排除率が今回は高めです。


 もっと詳しく見ていくといろいろあるのですが、今回の結果のまとめとして学校庁が出したものは、
  • コロナの影響が大きいこと
  • 近年の移民や難民の増加の影響は、今回の結果の低下の説明にはならないこと
  • これまでの前向きなトレンドはなくなったこと
  • 学校教育の均等性がさらに悪化したということ
と上げています。書きたいことは多いのですが、長くなりましたので、このあたりで。今回は、少しだけ、ピサの結果をまとめてみました。いろんな記事が次々と出ていて気になります。また、少しずつご紹介できればと思います。

全ての情報は、学校庁のものです。




2023年12月5日火曜日

スウェーデンの特別支援学校の教育も様々

 私は、現在スウェーデンストックホルム市の公立の基礎特別支援学校で勤務しています。これまでに、2つの基礎自治体の基礎特別支援学校で働いた経験があります。学校見学は、いくつも見てきているので、それなりに国内事情は知っているのではと思います。スウェーデンでも、学校によって教育の仕方や特色には違いがあり、それは、在籍している生徒のニーズに合わせてというのが、大きいように思います。今の学校で行われていない、前の学校で行われていた内容で思い出すのが、例えば、「車いすダンス」の授業。車椅子利用の生徒が多かったので、車いすダンスは、人気がありました。金曜日の最後の授業が車いすダンスだったときもあり、みんなでダンスを踊って終える1週間は、楽しかったなあと思いだします。生徒たちも笑顔がいっぱいで。

 一番長く勤めていた学校は、まだ経済的に余裕があった時代で、ICTの先生が特別支援学校専任でいて、その人が行ってカラオケの授業もありました。衣装まで変えてノリノリでやっていたことを思い出します。ああいう授業もやっぱり特別な先生がいるからこそできるものという感じがします。

 あとは、「アフリカ太鼓」の授業。どんなふうにたたいても楽しめるアフリカ太鼓を、職員でみんなで音楽博物館に学びに行って、授業に取り入れてと、思い出します。同僚たちと楽しんでいたなあと思います。

 今の学校は、基礎学校と併設していて、その良さはありますが、経済的に一緒に運営されているので、たまに疑問に思うこともあるのが事実です。また、いつかそんなこともかければと思います。



2023年12月3日日曜日

世界障害者デーと車椅子と雪

 今年のスウェーデンは、早々と雪が降り、ストックホルムのあたりも雪で真っ白です。11月は日照時間も少なく、薄暗い日が続くので、この雪の白さは心を和ませてくれます。しかしながら、困るのが、車椅子での移動です。

  雪道って、本当に大変です。特に、こっちでは、滑り止めに土と砂利を混ぜたようなものをまくので、それが余計に車椅子の移動を困難にします。先週も、特別支援学校の高校のオープンハウスへ出かける予定でしたが、キャンセルし、再来週も特別支援学校の高校に行く予定なのですが、どうなることかと思っています。

 今日は、国際障害者デーです。あまり注目されることがない日のように感じるのは私だけでしょうか。その歴史は、実は割と長く、1982年12月3日に国際連合総会において、「障碍者に関する世界行動計画」が採択されたことを記念して、1992年から毎年国際デートして12月3日に国際障害者デーを設けています。スウェーデンでは、年によっては、デモが行われたりとするのですが、今年は、そんな話も聞いていません。雪のために車いすでのデモが難しいためかなとか勝手に思っていますが、こうした国際デーに注目して、少しでも障碍者問題の理解や促進を行っていくことは大変重要であると思います。

 

美しい雪景色と太陽です。


2023年10月28日土曜日

スウェーデンの知的障害児の研究 インクルーシブ教育とは何か?

  お久しぶりです。秋学期の折り返し地点に到着し、来週は秋休みです。教員は一般的には、秋休みは月曜日から水曜日まで働きます。私は、ここまで、とても労働力が多かったので、副校長が月曜日に特別にお休みをとるようにと、火曜日と水曜日の勤務になります。スウェーデンの教員は、この秋休みに到達することが大きな目標というか、ここまでこれば、今年度もなんとか行けるという感じがするという感じです。秋休み後は、個人面談をやり終えると、あとはクリスマス休暇に向けて、成績付けなどのラストスパートに入ります。おっと、話がずれました。

 今日は、スウェーデンの知的障害児の研究を振り返りながら、知的障害児にとってインクルーシブ教育とはと、少し考えてみたいと思います。今週の火曜日に、こちらの知的障害者団体が行ったオンラインの会を聞いての感想と振り返りになります。あと、うちの学校は、今年度より、学童の大きな改革をして、支援学校と基礎学校の学童を一緒にしたので、その中で思う、インクルーシブ教育の在り方を今一度考えてみたいと思いました。

1.スウェーデンの知的障害児教育の歴史を振り返る

 スウェーデンの知的障害児たちは、歴史的に長く「分離教育」をされてきました。優性思想も強かったスウェーデン、知的障害児・者に対する差別や迫害の黒歴史は、多くあります。年月でいえば、約150年ほど分離教育をしており、今の学校システムも、分離教育であるというのが、スウェーデンの認識です。知的障害児の中でも、特に中重度で、「学ぶことができない」とされてきた子供たちは、「医療」の一環として、長く広域行政体によって管理運営がされてきました(訳100年)。

 そんな歴史を変えたのが、1968年。この年に、やっとスウェーデンのすべての子どもたちの就学の権利が確立されました。日本では1979年がよく言われますので、スウェーデンは、それよりも11年早いのですが、決してすごく早かったとか、ずっと教育を受ける権利が保障されていたということではないのです。やっと、すべての子どもが教育を受けられるようになったのですが、その教育は、医療が管轄していたこともあり、福祉と医療が色濃くでた教育でした。そして、1990年代になって、教育が基礎自治体に移ります。これもとても大きな背景であり、その影響は、今でも強く受けています。私は、「広域行政体(医療)」から、「基礎自治体」に移ったことにより、管轄が「教育省、学校庁」に移ったことはよかったと思いますが、運営・経営が基礎自治体であることは、今のインクルーシブ教育や教育の形に大きな影響を与えていると感じます。

2.スウェーデンの知的障害児教育学校の特徴

 私が働いているスウェーデンの特別支援学校は、日本の特別支援学級のように基礎学校にくっついており、運営も同じ担っています。スウェーデンの支援学校は多くがこの形をとっています。スウェーデンの特別支援学校は、知的障害がないと受け入れてもらえないので、知的障害児教育学校であるということになり、日本ではそのように紹介されいることも多いように思います。

 このスウェーデンの知的障害児教育学校の特徴として挙げられるのが、職員の多さです。教員一人当たりの生徒数もですし、生徒のアシスタントがいますので、職員が多い、大人の多い教育です。クラスも、小さめのクラスが多く、一クラスに生徒が12人以上いるのは、全体の訳10%であり、多くのクラスが生徒数2名から5名です(約45%)。私の今年の受け持ちのクラスは、生徒数9名で、とても多いと感じています。先生一人で教えるには、限界があり、副校長にも相談したところです。これに加えて、今年の財政削減に、アシスタントの質と問題は山積みです。

 有資格者が少ないのも大きな特徴で、資格保有者は14%といわれています。そのほかの先生は、教員免許は有しているけど、支援学校を教える資格を有していない人が多いです。また、スウェーデンの支援学校は、先生以外の職員が多く入っているというのも大きな特徴かと思います。あとは、教育課程が支援学校用のものになっており、基礎学校の年間授業時数と比べると、家庭科や音楽、手仕事などの授業時間が多いというのも支援学校独特です。

3.スウェーデンの知的障害児研究

 そんな現場を主にした研究がどのくらい行われているのかというと、残念ながら数は多くありません。私は、スウェーデンの支援学校教育に関わって長いのですが、たまに出るくらいで数は多くありません。もちろん、学生が書くレベルのものは毎年一定数でますので、ここでいう研究は、博士論文や研究者が出すものとなります。近年叫ばれているのが、知的障害児の教育現場での研究です。数年前に出た博士論文で、家庭科の授業のものや、昨年出た手仕事のものなどが、これに当たります。そのほかになってくると、生徒の声を集めて研究したものや、卒後などの研究もあります。

 そんな研究の一環になるプロジェクトに今参加していて、スウェーデン全国の学校が集まって、研究者3名とともに、支援学校の現場について3年プロジェクトで研究しています。この話もまたいつか書けたらと思います。


 
 最後に、インクルーシブ教育とは、というところについて思うのは、こうした分離教育を歴史背景に今があるスウェーデンでは、なかなか理想と現実が追い付かないことも多いように思います。おそらく日本でも同様かと思うのですが、インクルーシブ教育というと「同じ場所にいること」や「同じ活動をすること」をイメージする人もまだまだ多くて、参加や、所属感というのはとても重要であるのですが、その子供を主としてみたときに、それは本当にインクルーシブ教育なのかと思うことは、時々あります。特に知的障害がある自閉症の子供などは、その子が持つニーズと特性により、その子の気持ちはもちろん私たちにはわからないことも多いのですが、本当に、教育に関わるものが想定した「所属感や参加の可能性」を「認識して、意欲をもって活動」できているかは、判断が難しく、周りの大人、教育者が保護者の気持ちが先走っているのではないかと思うことも多いのです。


と、ここには書けないこともあるのですが、ほかにも組織的、構造的な問題も多くあると感じます。と、このあたりで、久しぶりのブログの投稿を終えたいと思います。皆様よい週末をお過ごしください。

 ちょっと、宣伝です。以下の本に、スウェーデンの性教育の実践を書かせていただきました。是非!



2023年8月11日金曜日

スウェーデンの特別支援教育とインクルーシブ教育を繋ぐ「生徒の健康チーム」制度 オンラインの会

 今日は、第16回日本語教育と特別支援教育を繋ぐ会のお知らせです。7月に第1回として「スウェーデンにおける外国ルーツの子どもの支援1 新規入国の子どもへの支援」について話をさせていただきました。2回目は、新規入国ではない、外国ルーツの子どもの支援がどうなっているのかを、特別支援教育のシステムを含めてお話しさせていただきます。興味がある方は、是非ご参加ください。申し込みなどは、以下のPeatexのサイトからになります。詳しい内容もそちらをご覧ください。



2023年7月22日土曜日

AAC:補助代替コミュニケーションについて学ぶ会のお知らせ 限定5名無料オンライン開催

  今日は、オンラインの会のお知らせです。


 8月11日金曜日、日本時間の18時30分より20時までの予定でオンラインで開催します。このブログを読んでくださる方の中で、参加してみたいなという方はご連絡ください。

 私を入れて、最高7名の少人数の会で、参加される方は、自己紹介と顔出しができる方に限らせていただきます。特に後半部分の対話の部分を大切にしたいと思っています。質問などありましたら、お気軽にお問い合わせください。



2023年7月13日木曜日

個人アシスタントが付くスウェーデンの障害者

 スウェーデンには、「個人のアシスタント(Personlg Assistant)」という制度があります。今日はこの個人アシスタントについての旧ブログの記事をリライトします。個人アシスタントは、身の回りの介助が必要な障害がある方が利用できる制度で、子どもでも大人でもその必要に応じてつきます。どんな障害でも着くというわけではないですし、どのくらい(何時間くらい)つくかなども、個人によって大きく変わります。日本からの問い合わせが時々あるスウェーデンの制度です。

1.LSSという法律

 スウェーデンには、Lagen om stöd och service till vissa funktionshindrade (LSS)という法律があります。その頭文字をとって通称LSSと呼ばれ、現在の福祉国家スウェーデンの福祉制度を代表する法律です。個人アシスタントの制度も、この法律に基づいています。この制度は、1993年にできたもので、障害を持った人々が様々な援助や支援、サービスを受ける権利を書き記したものです。この法律に基づき、各市にある社会福祉局が中心とする、LSS担当者(社会福祉士やそれに類似した資格を持った人がなっていることが多い)がその内容を見定めていき、障害者に対する様々なサービスが決定していきます。

2.LSSで受けられる福祉支援

 個人アシスタントの福祉支援以外にLSSで受けられる福祉支援には、施設への入居、ショートスティ利用、障害者用のタクシー利用(移動支援)、付添人の利用などがあります。障害がある人とその家族がLSS担当者との面談を経て、本人の希望やそのニーズに応じたものが提供されます。

3.個人アシスタントの削減傾向

 個人アシスタントは、90年代に行われたスウェーデンの福祉改革の中でも先進的なもので、大変画期的なものでした。多くの肢体不自由の障害がある人々にとって、この制度を利用することによって、同年代の人々と同じような暮らしを可能としました。しかしながら、当初の想像よりも多くの人々がこの制度を利用するようになり、また、制度を悪用する人も出るようになり、だんだんと財政的に制度を維持していくことが難しくなり始めました。そのため、数年前より、個人アシスタントの申請の際の審査が厳しくなったり、時間数が削減されるようになりました。

このブログの中でも、2016年に個人アシスタントの削減傾向について取り上げたものがありますので、ぜひご一読ください。(ブログの歴史を感じます。😊)

個人アシスタント削減傾向 (2016年の投稿)

 過去ブログの内容をさらにさかのぼると2011年にも、個人アシスタントを申請した人のうち、4分の1以上の人が却下されているというものがありました。この2011年当時のものを振り返ると、却下の大きな要因は、「保護者の責任」という点からのものでした。子どもに障害があろうがなかろうが、保護者には18歳までの責任があるので、その責任という点から、個人アシスタントの申請が却下されたり、希望の時間数の許可が下りないというものです。個人アシスタントの制度自体が、障害により身の回りのことが自分でできない場合につくものであるので、このあたりの解釈も判定する人や時代の流れによるところもあるように思います。といっても、家族特に保護者の負担は大きいと思うんで、支援援助が必要な人にしっかりと届けられることを願うばかりです。

4.学校についてくる個人アシスタント

 すべての個人アシスタントではないですが、学校についてくる個人アシスタントもいます。多くの場合、呼吸に関する支援援助が必要な場合は、個人アシスタントの付き添いが認められていると感じます。こうした支援の判定は、各基礎自治体の担当者が個々の障害とニーズなどを総合的に判断して決定するので、こうだという一律の基準はないのですが、簡単な医療行為は学校で職員が行うので、呼吸にかかわるものになると個人アシスタントが1名もしくは2名ついているように思います。

5.個人アシスタントと暮らす障害者の生活

 個人アシスタントと一緒に障害者が暮らす生活は、スウェーデンでは一般的です。この制度ができて、20年以上がたち、こうした個人アシスタントとの暮らしは、障害の重度さもありますが、コミュニケーション方法が確立されている人に適しているといわれています。私の教え子にも、こうした個人アシスタントとの生活をしていた人がいますが、個人アシスタントが働かず、うまくいかなかった話もあります。後見人などがしっかりとしていて、常に目を光らせていればいいのですが、そうでない場合はなかなか難しいのです。

 過去のブログにある人の例を書いていましたので、それをここにも書いておきます。29歳の女性、ストックホルム郊外で個人アシスタントとともに一人暮らしをしています。アシスタントは数名おり、入れ替わり立ち代わり彼女が一人暮らししているアパートに仕事としてきます。このお方は5年前の24歳の時に独り立ちし、それまでは、実家で暮らしていました。両親は、いつか独り立ちをしてほしいと願っており、学校を卒業してから他の家族などと一緒に勉強会を開き、どのように独り立ちを実現するか考えてきたとのことです。この例で私が過去ブログに書いているのが、この女性の恵まれた環境というもので、彼女の母親は、もともとは集中治療室専門の看護士で、その当時はそういった関係の先生をしている方でした。多くの個人アシスタントには、女性の二人の姉妹も含まれており、そのうちの一人がアシスタントの総括責任者をしているとのことでした。こういった家族の支えは、やはりこうした個人アシスタントがうまく回るかの大きなカギになることは、北欧スウェーデンでもよく見聞きします。実際に引っ越して独り暮らしをするまでには、約2年かかったそうで、地域のハビリテーリングや基礎自治体の担当者がかかわって、アパートを住みやすいものにと変えていったようです。母親が自分の仕事もあきらめず、娘のためにも自分の人生を歩んでいってほしいと願い、尽力した結果であるともありました。

 こうしたスウェーデンの個人アシスタントの制度を利用して、自立した生活を送ることを可能としている福祉システムは素晴らしいものであると思います。親は親の人生を、子はこの人生を送れる社会というのは、決して福祉制度のみで生まれるものではなく、その釈迦にある文化や歴史、考え方に基づいており、スウェーデンの今の形も長い歴史の中にあります。日本でも今後様々な議論とともに、日本の形が生まれてくることを願っています。

以下は過去のブログで、日本の本を読んだ時の感想になります。

ヘルパーさんとアシスタントの質 (2018年の投稿)

以下は、2022年に全障研の岐阜支部で「私たちのじりつをさぐる ~自助・共助・公助論を超えて」でオンラインで講演させていただいたときに、ご紹介させいただいた方が個人アシスタントとともに暮らすアパートの映像です。




2023年7月2日日曜日

生徒の意見から学校名称が変わったスウェーデンの特別支援学校

  今日は2023年7月2日。スウェーデンの特別支援教育の歴史において、記念すべき日です。今日からスウェーデンの特別支援学校の学校名称が変更になります。

今までの名称:Grundsärskolan

今日からの名称:Anpassade grundskolan

になります。

1.これまでの名称は?

 スウェーデン語を開設すると、Grundsärskolanの「Grund」は「基礎」で、「skolan」は学校になります。いわゆる小中学校は、この二つの文字をとって、「Grundskolan(基礎学校)」と呼ばれます。特別支援学校はこの間にGrundsärskolanという言葉が入りました。この「sär」が、差別的で、否定的なイメージが強い言葉とされてきており、スウェーデン語での響きと意味がとても悪かったのです。その昔は、障害のある子どもや人々のことを「馬鹿者」と呼んでいた国でもあるので、こうした差別的な意味の言葉が使われている歴史を恥じ、改めて来た歴史があります。この「sär」も「別にされた、変わった」というような意味合いで、特別支援学校に通う生徒のこと「särbarn」と呼んで虐める、さげすむというのも一般的だったのです。こうしたことから、自分が特別支援学校に通っていることを話したがらない、言わない生徒も多くいます。

2.新しい名称は?

 新しい名称は、Anpassade grundskolanといいます。「grundskolan」は、基礎学校という意味で、これまでと同じです。これに「Anpassade」という「対応した」という言葉が新たに付けられました。今回の名称変更に伴い、全ての特別支援教育系の学校の名前が変更になりました。

Grundsärskolan → Anpassade grundskolan (前出)
Gymnasiesärskolan → Anpassade gymnasieskolan (対応した高校)
Komvux som särskild utbildning på grundläggande nivå och komvux som särskild utbildning på gymnasial nivå→ Komvux som anpassad utbildning på grundläggande nivå respektive på gymnasial nivå (成人教育機関の基礎学校レベルの特別な教育と高等教育レベルの特別な教育も同様に名前が変わりました。)

3.変更のきっかけは?

 今回の学校名称変更のきっかけは、実にスウェーデンらしいものでした。特別支援学校で学んだラスムスさんとレオさん(名称変更が決定した時に21歳と19歳)は、学校の名前が嫌いで、それを理由にいじめられていました。上記のようなsärbarn」と呼んで虐める、蔑むというのは、残念ながら私も見聞きすることで、よく問題になっています。そんな日常から、レオさんが14歳の時にい、名前を変えるべきであるという訴えを始めたのです。住んでいた地域の新聞がこのことを取り上げ、そして、その当時の教育大臣に訴えました。これがきっかけとなり、まずは、学校名称変更に関する調査が始まりました。そこから、変更決定までに要した年月は5年、1年間の準備期間を経て、今日2023年7月2日より正式に名称が変わりました。

4.名称変更によって実際に何が変わるか?

 今回の名称変更は、学校の名称が変わるということによって、人々の意識が少しずつかわっていくという意味があります。しかしながら、今回の変更によって大きな変化があるわけではないというのが一般的な見方です。一つの変化が人々の気持ちや考え方を少しずつかえていくのです。この名称変更の大きな意義としては、国の文書や本、人々が使う言葉すべてが、新しいものになり、古いものを使うたびに、なぜ変更されたのかということが話題となり、人々が考えます。この一人一人が改めて立ち止まって考えるという行為こそが、重要なのです。

5.ほかの変更は?

 今回の変更ともに、今まで使われてきた「Träningsskola トレーニング学校」という名称が削除されます。また、知的障害のスウェーデン語の名称も「Utvecklingsstörning 」から、「Intellektuell funktionsnedsättning 」に変更になります。


 このようなスウェーデンの歴史的な変化は、常に今生きている社会の動きに対応し、そこに生きる人々の声を聴くという点で、大変すばらしいと思います。今回の名称変更が、今後のスウェーデンの特別支援学校の更なる発展に与える影響は計り知れません。私がかかわっている大学と連携したスウェーデン全土の支援学校の先生とのプロジェクトもこの流れを受けたものです。今後のスウェーデンの支援学校、特別支援教育にも目が離せません!



学校庁のホームページより















2023年7月1日土曜日

通常学級の中から特別支援教育を

  時間に余裕がないとじっくりとお話を伺うということがなかなかできず、ご連絡をいただいても、対応できないことが多かったのですが、夏の休暇に入り、個別にいろいろと話を伺う機会をいただき、いろいろと思うことがあります。その中から、今日は、通常学級でも行われるべき、特別支援教育というものについて、少し考えたいと思います。

1.日本の特別支援教育の始まり

 私が日本の大学で学んだ頃は、まだ特別支援教育ではなく、学んだ学科も、教育学部にあった障害児教育学科でした。学校も特別支援学校ではなく、養護学校と呼ばれた時代で、岐阜県内の養護学校で働いてから、スウェーデンに来ました。今の特別支援教育は、私がスウェーデンに来てから始まりました。少し調べてみると、「特殊教育」と呼ばれていたものが、「特別支援教育」という名前になり、2007年より正式に実施されるようになったようです。私がスウェーデンにやってきたのは、2001年ですので、その6年後ということになります。

2.子どもの権利条約

 通常学級を含むすべての教育において特別支援教育をという流れは、スウェーデンとあまり変わらないというのが、私の印象です。1989年に「児童の権利に関する条約」通称、「子どもの権利条約」が出ます。この条約は、日本でも、かなり定着し、内容はともかく、名前を知らない人は少なくなってきているのではと思います。この条約の中に、

障害のあることもについて可能な限り社会への統合が行われること、および、教育・訓練の機会をりようできるようにすること (第23条)

というのがあります。スウェーデンでは、住んでいる地域、生まれたところで、生活し、学び、成長していけることの重要さがうたわれ、訓練のために違う施設に通うのではなく、普段通っている就学前学校の中で支援を受けること、地域の学校に通うことなどは、この条約により、かなり変わったと感じます。

3.障害を持つ人々の機会均等化に関する基準原則

 次に、1993年になると国連の第48回総会にて、「障害を持つ人々の機会均等化に関する基準原則」が採択されます。この決議では、障害のある子ども、青年、成人について、初等教育、中等教育、中等教育狩猟後の教育委における統合された場での教育の機会均等の原則が取り上げられ、その認識を深めました。これを受けて、今のインクルーシブ教育の大元ともいえる、サラマンカ声明につながります。

4.サラマンカ声明

 忘れてならないのが、1994年、スペインのサラマンカで行われた「特別なニーズ教育に関する世界会議」です。この会議で宣言された「サラマンカ宣言」は、スウェーデンでも大きな影響を与え、今の学校教育の形を作る基盤となりました。この会議で採択されたのが、「特別なニーズ教育における原則、政策、実践に関するサラマンカ声明と行動の枠組み」です。これがインクルーシブ教育の流れを世界的に生み出したものとなります。サラマンカ声明は、大きな意味と意義があり、影響を与えましたが、条約ではありません。世界的にインクルーシブな流れを生み出し、そのための国際的な枠組みを生み出した点では大変な功績であると思いますが、現場が変わっていくには長い時間を要する、要したというのが実感です。

 サラマンカ声明の中で、特に大きな影響を与えたのが、やむをえない理由、明確な理由がない限り、全ての子ども、児童を普通学校に入学させること、ともに学ぶことを、強く謳っていることです。これにより、スウェーデンでは、聾学校は残りましたが、盲学校は廃止されました。聾学校が残った理由は、手話が一つの言語であり、英語で学ぶ学校があるように、手話で学ぶ学校があって当然であるという考えから残りました。人工内耳の普及により、多くの子どもは、地域の学校で学びますが、今での国内に聾、聾重複の子どもを対象にした学校が残っています。手話の言語としての位置づけも強化され、高校で手話を第2言語として学ぶことも可能になっています。サラマンカ声明が掲げた内容は大変意義があり、私も今一度、読み直してみようと思います。

5.障害者権利条約

 そして、2006年の障害者権利条約も忘れてはならない条約です。スウェーデンは、2008年11月13日に批准し、2009年1月14日より効力を発生しています。日本は、署名はしたのですが、批准したのは2013年、2014年より効力を発生しました。



おそらく流れは、国際的な動きを受けていますので、日本もスウェーデンも変わらないのですが、スウェーデンの方が、動きが速かったところもあります。動きが多少早かったスウェーデンでもやはり難しかった、難しいのが、いかに通常学級の中で特別支援教育を行うか、その概念を普及させていくかという部分であったと感じます。スウェーデンでは、「生徒の健康」という名前で、「教室の中から、生徒の健康を(特別支援教育を)」と始めたのを思い出します。これは予想以上に意識が深まるきっかけとなったように思います。また、機会があれば、詳しく書きたいと思います。生徒の健康について知りたいという方は、ぜひ私の本を読んでいただければと思います。




ストックホルムの市庁舎は、今年誕生して100年を迎えました。






2023年6月28日水曜日

世界の幼児教育の今

  夏の休暇に入る少し前、久しぶりに日本語のオーディオブックを聞き始めました。私は、Audibleが気に入っています。今年度は、本当に忙しくて、秋学期も春学期も仕事と勉強に追われていたためか、聞きたいオーディオブックは、穏やかな文学・フィクションを好む傾向にあるようです。もう何冊も聞いたのですが、それらの本から思うのは、描かれている子どもや若者が、勉強というものに追われ、苦しんでいる姿が多いなあというものでした。スウェーデンでも、子どもや若者の勉強疲れは珍しくありません。それでも、夏の休暇でのんびりしていると、スウェーデンの子どもたちよりも、日本の子どもたちが置かれている状況は、自己肯定感を高める、自己を確立する過程を複雑なものとしていると感じます。

 前回の投稿で、スウェーデンのインクルーシブ教育最新情報ということで、自治体国際化フォーラムの「世界の幼児教育の今」の寄稿記事を紹介しました。この特集は、様々な国の幼児教育の今が書かれていて、大変興味深いです。そこから、少し思うことを書いていこうと思います。

1.中国の宿題と学習塾の禁止

 中国の宿題と学習塾の禁止は、スウェーデンの宿題論議に通じるところがあり、興味深いです。スウェーデンは議論には何度もなっていますし、宿題を実際に無くした学校もありますが、国を挙げての政策は出しておらず、中国の宿題の制限時間や小学1・2年生の宿題禁止は、驚くとともに、実際にはどうなっているのだろうかと思いました。学習塾は、スウェーデンにはなく、家庭教師に近いものはありますが、一般的ではありません。宿題の支援や援助は学校で行っており、私の勤務校でも、そういう時間が設けられています。中国の脱学力重視は、少し意外な感じもしましたが、学力や学歴という意識が強い国では、こうした国を挙げた考え方の転換をしていく必要があるだろうとも思います。

2.韓国のヌリ課程

 韓国の幼児教育の今も興味深い。ヌリ課程と呼ばれる、「新しい世の中(ヌリ)を切り開く子どもたちを育てていく願いの込められた課程」が目指す人間像が描かれている。(2019年の改定にて)

  • 健康な人
  • 自主的な人
  • 創意的な人
  • 感性豊かな人
  • 共に生きる人

の5つが明示されたそうである。これらの目指す人間像は、当然のことながら、小中学校で目指す姿とリンクしたものであり、スウェーデン、日本における目指す姿と重なるものであると感じます。言語化されて理解の難しい内容ではないけれど、現実的に現場でどのように教育実践を行い、子どもたちを育てていくかは、かなり難しいとも感じます。そこには、目指す姿に向かって、具体的に何をしていかなければならないか、何をしていくかを、ともに働くものと一緒に現場で話し合い、作り上げていく必要があり、難しいところだと感じます。

3.フランスの義務教育年齢の引き下げ

 フランスでは、義務教育年齢が引き下げられたという内容が載っています。確かイギリスも同様のことをしたと記憶しており、同様の議論は、スウェーデンでも頻繁に聞かれます。理由も、今回の特集に書かれていた内容と一致するところで、勉強についていくことができない数%の子たちをどうするかというのは、どの国でも問題とされているのだと感じます。これ以外にも、フランスで行われた政策を、スウェーデンでも取り入れたらどうかという議論は聞くので、今後もフランスやヨーロッパの諸外国の政策には注目したいところです。


4.日本の事例より思うこと

 日本の事例も取り上げられており、鳥取県幼児教育センターと信州幼児教育支援センターの話が載っています。日本は、少子化の影響を今後さらに受けていく中で、幼児教育という枠の中でいかに連携を深めていき、そこにある専門性のある知識や経験を生かしていくかが、その地域のカギになるように思います。地域によっては、小学校といった義務教育や、幼児の保健医療とつなげていくことで、限りある経済的、人的な支援を有効活用しつつ、未来の子どもたちの健やかな成長を協力し合いながら作り上げていくことができるのではと感じます。


 

 今回は、特集を読んでの感想を少しですか、まとめました。興味深い特集ですので、ぜひ、皆様もご一読ください。




2023年6月27日火曜日

スウェーデンのインクルーシブ就学前教育最新情報

  3月に、自治体国際化フォーラムの「世界の幼児教育の今」という特集の中で、スウェーデンのインクルーシブ就学前教育の最新事情を書かせていただきました。本文は以下のリンクより、読むことができますので、ぜひ、ご一読ください。

 北欧共生社会スウェーデンのインクルーシブ就学前教育の今


  2019年に書かせていただいた、以下の記事も今でも大変よく読まれているようで、うれしく思います。

スウェーデンに学ぶ、幼児教育の最前線「インクルーシブ教育」

 

 

2023年6月26日月曜日

スウェーデンの外国ルーツの子どもの支援 オンライン講演会のお知らせ

  夏の休暇の時間に余裕がある間に、スウェーデンにおける外国ルールの子どもの支援に関して、2回に分けて、お話をさせていただきます。数年前から活動に少しずつかかわってきた、日本のNPO団体「HATI JAPAN」が行う、日本語教育と特別支援教育をつなぐ会の代5回と16回になります。詳しい内容と申し込みは、こちらのリンクより。


  何年か前にも一度お話をさせていただいたのですが、その時に話しきれなかった内容を今回は2回に分けて詳しくお話しする予定です。第1回目の7月8日は、新規にスウェーデンに入国してきた子どもに対する支援をお話しします。2回目の9月9日には、新規入国ではない子供たちの支援の様子をお話しする予定です。

 スウェーデンの場合、特別支援教育の中に、日本語教育を含めた移民難民の児童生徒が抱える困難さも含まれています。これは、特別支援教育が、「障害」という枠の中ではなく、「その子が持っている力を最大限に伸ばすことができない状態」において行われるものであるという考えによります。

 今回のオンライン講演会では、スウェーデンの教育システムをあまり知らない方にもわかりやすいようにお話ししながら、どのようにスウェーデンでは、移民や難民の子どもたちに対応しているかをご紹介しますので、興味のある方はぜひ‼


祝!スウェーデンの特別支援教育の資格、習得

  お久しぶりです。夏の休暇に入りましたので、また、ブログを少しずつ更新し、スウェーデンの福祉と教育情報を発信していきたいと思います。


 夏の休暇には、先週の火曜日から入りました。スウェーデンは今が一番いい夏の季節なのですが、私はこの時期花粉症がひどく、室内にいる方が体調も気分もいいという、何とももったいない感じです。


 この半年というか1年、ブログもあまり更新しず、友人などのお誘いも断り、なんとか、スウェーデンの特別支援教育の専門資格を習得しました!🎉ストックホルム大学の特別支援教育の専門学部で、Specialpedagogという資格を習得しました。二人で書く予定の卒論を一人で書くことになったのが2月。2月の結婚記念日には、お祝いの歌を電話で歌ってくれた義理の父が心臓発作で倒れ、3月の終わりに急死し、あきらめようかと思ったけれど、何とか書き上げ、卒業できました。


 学校の仕事も、本当に忙しく、いろいろご連絡をいただく皆様には、十分な対応ができないことも多くあり、大変申し訳なくも思います。


 夏の休暇の間は、少しずつ、スウェーデンの教育や福祉情報を発信していきますので、ぜひ、質問や感想などお寄せください。写真は先日上った市庁舎の塔からのスウェーデンストックホルムの眺めです。


 


2023年2月19日日曜日

ふたりぱぱのYoutubeにゲスト出演しました

 皆様、お久しぶりです。いかがお過ごしでしょうか。私は、いろいろありまして、大変忙しくも充実した毎日を送っています。こんなに忙しくなるちょっと前に、連絡をいただきまして、ふたりぱぱのYoutubeの動画の撮影をしました。その第1弾が公開になりましたので、ご紹介します。リンクはこちらから


話もお上手で編集もさすがプロだなという感じです。実は今年に入って、いろんな方から連絡をもらうようになりまして、コロナが終わったなあと感じつつ、こうした動画はまず、概論を見てもらうにはいいのではなと思っています。収録前に、視聴者の方から質問を募集されたそうで、質問数が多かったので、60にまとめてくださり、それに答えながらでした。パートナーも上手にまとまっているとほめてました。スウェーデンの教育に興味のある方はぜひ!


2023年1月6日金曜日

東京大学インクルーシブ教育定例研究会:1月29日開催「文科省調査、発達障害8.8%をどう理解すればよいか」

  先日、「東京大学バリアフリー教育開発研究センターの12月のインクルーシブ教育定例研究会」の動画を見た感想をブログでまとめました。その時に、次回のお知らせ届いたら、ここでも紹介しますと書きました。今日、次回の開催の予定が届いたのでこちらでもご紹介します・次回は、1月29日9時から11時開催で「文科省調査、発達障害8.8%をどう理解すればよいか」というテーマで、講師は石川憲彦先生です。詳しくは、こちらのリンクより、申し込みサイトに飛べますので、ぜひ、ご覧下さい。無料で、いつもすごく内容が濃い、おすすめの会です。今回も申し込み殺到しているようで、増席されて2000席になっています。私はライブで見れないのですが、いつもちゃんとアーカイブを送ってくださるので、海外でも安心です。是非皆さんも一緒に勉強しましょう!



なかなか知る機会がない、スウェーデンの中絶の歴史

      この投稿は、旧ブログの投稿をリライトして、再投稿しています。

2022年7月16日に、初の単著「医療・福祉・教育・社会がつながるスウェーデンの多様な学校~子どもの発達を支える多職種協働システム」を刊行。是非ご一読を😊


 今日は、過去のブログの中から、スウェーデンと中絶の歴史について書こうと思います。過去ブログは閉鎖してなくしてしまおうと思ったのですが、長く書いていて、私にとって貴重な情報が多かったので、少しずつリライトしてアップしています。

1.スウェーデンで中絶が可能になった年

 スウェーデンで中絶が一般的にできるようになったのは、そんなに昔ではなく、1975年です。この1975年に中絶法ができ、中絶が自由にできるようになったそうです。統計が少し古いのですが、過去ブログによると、2008年の統計によれば、女性1000人当たり、24.4人の方が中絶しているそうです。その時多かった地域は、ゴットランド、ストックホルムとその近郊といったところです。この数字は、2008年当時、ヨーロッパでもトップに位置する多さだったそうで、しかも若者の中絶率が高かったそうです。これ、2023年の今の状況を知りたいなあと思います。あれから15年たっていて、予防啓発のプログラムも展開されたので、おそらく、下がっている、下がっていてほしいと思っています。

2。2009年以降に行われた対策とは

  ちょうど過去ブログの内容が、その予防啓発の内容でした。行われる予定だった内容は以下になります。

  • 性教育の見直しと徹底。中学、高校の指導要領に明確にその内容を明記し、教員は性教育の教科の研修をうけ、教育するための教育をうける。
  • 生徒の健康のチームの位置づけ避妊用具などの知識研修をうけた職員を配置。
  • ピルなどの避妊にかかる費用を25歳以下の若者は200krの年間自己負担であとは、補助がうけられる。
  • 学校で緊急用のピル(性行為の翌日に飲むことによって妊娠を阻止することが可能なもの:説明が不足していたらごめんなさい。)の配布。
  • 性教育をSFIという移民のためのスウェーデン語学校でも付属して行うようにする。

 上記のうちの、いくつかは、達成していますし、性教育の今はこちらをご覧ください。

世界で最初に性教育が取り入れられた、スウェーデンの性教育の最新情報2022年版!」

3.詳しいスウェーデンの中絶の歴史

1975年:第18週までの中絶の自由が法律で認められる。特別な理由が認められれば、第22週まで中絶が可能。これ以前は、特別な理由がない限り中絶はできませんでした。

1996年:中絶法の改定。妊娠第12週以降に中絶した場合には、会話によるセラピーが義務付けられる。

2001年:患者記録に関する法律の改定。これにより、中絶がした人のパーソナルナンバー、住所、国籍などの記録が無くなり、日本の厚生労働省にあたるSocialstyrelsenが統計を取ることができなくなりました。理由は、中絶を行った女性に対する批判の元とならないようにするためだったそうです。

2007年:外国の女性がスウェーデンで中絶をすることが可能となる。

2009年:中絶した人の記録の開始が提案されるが、国会で却下される。

2013年:日本の厚生労働省にあたるSocialstyrelsenが行っていた独自の中絶に関する統計が中断される。

2014年:Socialstyrelsenが2013年の中絶に関する統計を発表する。しかしながら、統計の取り方が以前と異なるために、比較をすることは不可能。

 (2015年のブログにあったもので、その後の歴史はまた今度書きたいと思います。)

4.中絶と障害児

 過去のブログを読むと、スウェーデンでは、2011年以降、中絶した人の記録をしなくなっているようで、これ、もう一度確認したいところです。その時にすでに、記録を残しておくべきだという意見があったようで。お隣の国デンマークとフィンランドでは、中絶をした人の記録が残っており、その後についても追跡調査ができる環境にあります。こうした記録は、スウェーデンでは、終末医療と特別な医療などにはあるようです。このため、スウェーデンの中絶に関する研究や知識の多くは、お隣フィンランドのものなどが多く用いられているとあります。スウェーデンでは、中絶が恥ずかしいもの、恥であるという感覚があるからこそ、こういった記録を取らない方向にあるのかなと想像します。しかしながら、中絶に関わる様々な問題をより詳しく研究し、多くの人々に広めていくためには、こういった記録を集めて分析することは重要であると思います。

 私が中絶に関心がある大きな理由が、女性の権利のみならず、障害児だとわかると中絶される傾向があること、出生前診断に関心があることも大きな理由です。生命の始まりから考えれば、女性の権利のみならず、胎児の権利、人の権利は何かというところにまで思いが行きます。スウェーデンの優性思想や出生前診断については、また別に書きたいと思いますが、中絶の大きな理由に、障害児があることは事実です。

スウェーデンユースクリニックの様子


 2009年7月19日と2015年2月10日の投稿をリライトしたものです。

2023年1月5日木曜日

スウェーデンのキャリア教員、ヘッドテーチャーの仕事とは

 以前こちらの投稿で少し書いたのですが、私は、ストックホルム市、そしてスウェーデン最大の特別支援学校でヘッドテーチャーをしています。以前も6年間していて、学校を変わって2年間していなかったのですが、(その間に本を書きました!私の本はこちら。)また、昨年の秋からキャリア教員、ヘッドテーチャーをしています。前の学校よりも何倍も大きく、基礎学校と一緒になっており、ヘッドテーチャーの仕事は、支援学校と基礎学校なので、仕事は多岐にわたります。専門分野は、「生徒の参加と影響、安心した学校生活を送る」という民主主義と価値教育の基盤を築く大変重要なところです。やりがいものすごくありますが、責任と仕事量も半端ないです。今日は、そんなスウェーデンのヘッドテーチャーの仕事について紹介します。おそらく、スウェーデンでヘッドテーチャーしている日本人は、私だけなので、貴重な生の声かなと(笑)思います。

1.ヘッドテーチャーとは

 仕事の内容は、少し古い投稿ですが、2016年のものがこのブログにありますので、そちらもぜひ。「スウェーデンの教員のキャリアアップ制度、第一教諭の現状
 こんな仕事と、簡単に言えたらどんなにいいだろうかというのが実際で、仕事の内容は、学校ごとに違えば、人それぞれで、その学校の今年度大切な内容に即して仕事の内容が決まります。私の勤務校は、5人のヘッドテーチャーがいて、生徒の安全、デジタル化教育、数学、特別支援教育、健康と運動の5つの分野を受け持っています。この5人の先生は、国の予算から毎月5000クローネお給料が上乗せされます。これ以外に、ストックホルム市は、独自の「発展教員」もいて、こちらは、学校の予算で月に2000クローネ付き、うちの学校は、上記の5分野に言語分野がついて、6つの発展領域グループのどれかを担当します。この学校内のグループは基礎学校と支援学校の全ての先生が所属して、縦断的に活動し、学校を発展させていきます。

2.キャリアが積みにくい教員

 教員は、一度先生になるとなかなかその後のキャリアが積みにくいといわれています。大学院にいくとか、副校長や校長になるという道はあるのですが、その間がなかなかないのです。教員から、次のステップが大きすぎるということから、スウェーデンでよくあったのが、先生をやめて違う職業に移る人で、教員不足を解消するために、2010年の学校改革の時に導入されたのが、このキャリア教員でした。ストックホルム市は、以前より「発展教員」みたいなキャリア教員が導入されていたのですが、その予算は、各学校に任されていたので、学校の経済状態によっては、いない学校も多かったのです。このヘッドテーチャーは、国から予算が付くので、どの学校も何名か雇用することができるようになりました。

3.自分で決める転職

 スウェーデンの教員は、日本のように定期的に学校を変わったりしないので、自分で、転職を決めます。キャリアを積むというわけではないかもしれないのですが、今の現状を変えたいなと思うと、違うタイプの学校に変わったりすることはよくあります。雇用は、その学校のこの教科や学年という風になるので、変わるときに、今度は、中学年を教えるとか、自分で決めることができます。私も、今の学校に変わる前は、ストックホルムの中くらいの基礎自治体の6年生までの学校併設の支援学校で勤務してみて、私は大きな学校の方があっていると思って、今の学校に移ったので、キャリアではないですが、自分で決めることができる良さがあります。

4.研修の準備

 スウェーデンの学校は、年間に何日か学校が休みになり、(学童はやっています)先生が研修をします。これらの研修日の担当をするのも、私たちの仕事になることが多いです。秋学期の秋休みは、大きな研修を各グループが全校に行いました。その準備も大変でした。来週の月曜日も研修日なので、その準備を今しています。今回の内容は、今年から3年間行う、全国の支援学校と大学との連携プロジェクトで、こちらは私のメインの仕事でもあるので、休み中もこつこつと準備をしていました。こうした研修の準備もだいぶ慣れましたが、こうした会議はあまり時間が取れないので、毎回毎回が大変貴重であり、いかに計画をしっかり立てておくかがカギとなるので、やっぱり毎回緊張します。


ブログでは、スウェーデンの学校でどのように発展プロジェクトなのがされているのか、また、報告していけたらと思います。

 


 


2023年1月2日月曜日

AAC:拡大代替コミュニケーションとは

 この投稿は、AACについての投稿をまとめて、リライトして、再投稿しています。


 新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。2023年が皆様にとって素晴らしい年となりますように願っております。

 今日は、過去のAACについての記事をまとめて書こうと思います。私は、AACの普及活動をしているスウェーデンの非営利団体のボードメンバーとしても活動しており、新年に何を書きたいかなと思ったときに、やはり、AACについて書きたいと思いました。以下はホームページなのですが、オランダのAAC協会が作ったAACについてのインフォメーションビデオが見れます。言葉はオランダ語で、字幕はスウェーデン語なのですが、是非ご覧いただければと思います。

スウェーデンのAAC協会のホームページ


AACを各言語で書くと次のようになります。

英語:AAC:Augumentative Alternative Communication 

スウェーデン語:AKK: Alternativ och Kompletterande Kommunikation 

日本語:拡大代替コミュニケーション

じゃあ、この「拡大代替コミュニケーション」はいったいどんなものなのかと、簡単に言うと、「私たちが普段使っている話し言葉の代わりとなったり、補助したりすることで、誰もがコミュニケーションをとることができる」ものです。多くの人は普段「自分は言葉が話せて素晴らしいなあ」と思うことはあまりないかもしれませんが、「言葉が話せる」ということは、とてもとても素晴らしいことなのです。この「言葉を話すこと」が何らかの理由で難しい場合であっても、地球上の全ての人には、意見表明権があり、コミュニケーションをする権利があるのですが、言葉を話せないとこうした権利がないがしろにされる、そこにいないかのように扱われることは、残念ながら、珍しくありません。スウェーデンの特別支援学校で重度の重複障害児の教育を長らくおこなってきましたが、福祉の国スウェーデンでも、私の生徒たちは、悪気はないけれど、忘れ去られているという経験を何度もしてきました。だからなのか、自分たちから声を上げることを続けていかなければと思って、いろんな人と繋がりながら、団体に関わりながら活動を続けています。

コミュニケーションをする権利は、人間の基本的な権利の一つなのです。スウェーデンでよく言われる、私の大好きな言葉にこんな言葉があります。

「Alla kan inte tala, men alla kan kommunicera. 

(すべての人が話すことはできないけれど、

すべての人がコミュニケーションをすることはできます。)」

その人に合ったコミュニケーション方法が確立され、その方法を習得する機会が保障されていけば、どんな人もコミュニケーションをとることができます。このことにより、社会への参加の機会を持ち、広めていくことができ、より人間らしい、豊かな生活を誰もが営むことができるのです。


生徒の一人が使っていたコミュニケーション機器。

このブログでAACについての記事はいかになります。

AAC拡大代替コミュニケーションの種類

スウェーデン・ウプサラ広域行政体の「支援のための手話」を学べるサイト

かなり過去の投稿になりますが、

PODDを学んだヨーテボリ研修

コミュニケーション福祉センターでの会議


日本でこのAACについて広めていく活動をいつかしたいと思っています。日本ですでに活動している方や興味がある方、ぜひ、ご連絡をくださるとうれしく思います。このコミュニケーションが権利であるということ、もっともっと伝えていきたいと思っており、何か今年はできたらいいなあと思う新年です。