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7月, 2025の投稿を表示しています

スウェーデンの教育現場から考える「本当のインクルージョンとは」

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 やっと夏らしい天気になった、スウェーデン・ストックホルムです。このブログでも何度も書いているテーマ「インクルーシブ教育」。検索していただくと、複数の記事が上がってくると思います。「誰もがともに学ぶ学校」は、多くの人々が共有する希望であり、目指す姿であると思います。スウェーデンも、「みんなの一つの学校」を目指して、インクルーシブな教育に挑戦してきました。数年前にこの取り組みを振り返って30年といわれていたので、様々な教育改革とともに、インクルーシブな教育の推進を行ってきたといえます。しかしながら、数年前より、その理念がかえって子どもたちの学びを妨げているのではないかという声が現場から上がり始めました。今日はこの少し複雑な問題を考えてみたいと思います。 1.「同じ教室にいること」だけでいいのか?  スウェーデンでは、1990年代以降、特別なクラスを減らし、どんな障害がある子どもも通常学級で学ぶ方針が強くなりました。この前提には、知的障害と自閉症(2010年まで)のある生徒は、特別支援学校に通うことができたという事実をお伝えしておくことも重要かと思います。2011年以降は、知的障害のない児童生徒は、通常学級で学ぶこととなっており、知的障害がある生徒は、通常学級か特別支援学校かの学びの場を選ぶことができます。このスウェーデンのシステムの根底には、やはり「すべての子どもたちは同じ空間、教室の中で学ぶべき」であるという信念、理想があります。重要なのは、この信念と理想は、学校だけではなく、保護者や社会にも強くあるという点です。しかし、スウェーデンでは、 制度としてのインクルージョンは進んでいるけれど、教室の中で、その子が何を感じ、どれだけ参加できているのかは、また別の話である という声も聞こえ、社会的インクルージョンなど、インクルージョンをいくつかの側面に分けてみると、必ずしも、場をともにしているからと言って、インクルージョンではないという見方が強まりました。 2.インクルージョンの捉え方、どこを大切にするか?  インクルージョンの捉え方には、4つの視点があるといわれています。 人権としてのインクルージョン 場のインクルージョン 所属としてのインクルージョン 学びの質のインクルージョン  この中の「場のインクルージョン」は理解がしやすく、語られることが多いのですが、スウェーデン...

どの国の教員も働きすぎ?! スウェーデンの「教員がやらなくていいことリスト」

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 みなさん、こんにちは!少しずつブログの更新をするようになり、コメントをいただけるようになり、大変うれしく思います。本当にありがとうございます。休暇中ですが、臨時職員登録をした成人の障害者のグループホームで働いたり、自営業の方で、お仕事をいくつかいただいたりと忙しくしております。声をかけていただけることに感謝するばかりです。今日は、スウェーデンの教員組合が出した「教師がすべきでない業務」を見ながら、教員がいかに「教える」という本質的業務に遂行できるかを考えてみたいと思います。 1. どの国の教員も業務過多傾向 日本の教員は「ブラックだ」と聞きますし、教員のなり手がいないという現状も見聞きします。スウェーデンでも、教員はあまり人気のある職業とはいいがたいです。スウェーデンは深刻な教員不足だった時期もあったのですが、お給料を改善したり、キャリアアップ制度を作ったりして、持ち直したのも束の間、また別の問題が起きています。日本の教員に比べれば、職務も整理されている感じがしますが、やはり「教えること」以外の業務が多いのは、変わらないと思います。また、この周辺業務と書いた部分の仕事の中に、実は、教える上でとても重要だと思われる部分があるのも確かですし、教員の仕事は、探せば探しただけあるというのが私の経験で、いかに自分でこれはしないと決めるかも重要になってきます。このあたりは、「教師」という職業の特性ともいえるかもしれません。しかしながら、こうした周辺業務をきちんと整理しないとによって、本来の教員としての仕事が十分にできないという現状は、更なる教員の離職を促進してしまう危険性もあり、こうした議論は重要であると思います。 2.スウェーデンの「教員がやらなくていいことリスト」が出た背景 このリストが出てきた背景には、「幼稚園教諭及び教員の業務時間に関する規制と事務負担の軽減に関する調査」というのを国が行ったことにあります。先日、 スウェーデンの義務教区が10年生になるという記事 を書きました。この改革に伴って行われた調査で、就学前クラスで働く幼稚園教諭と教員の授業時間数をどのように規定するかなどを分析して提案することを目的とし、前々から言われている教えること以外の事務作業を削減して、授業や授業に関連する業務に充てる時間を確保していく狙いがあります。特に、よりよい授業をするため...

スウェーデンの若者の4人に1人が「子どもを望まない」と答えた理由とは

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 皆さん、こんにちは!休暇のリズムにも慣れ、風邪をひいて大変だったのですが、咳が出る以外は、だいぶ良くなってきました。今日は、少子化に関するニュースです。数日前より、ウプサラ大学で行われた研究をもとにした、スウェーデンの最新調査に関するニュースが気になっています。今日は、この子どもを望まない若者の増加について、お届けしたいと思います。 1.ウプサラ大学で行われて最新調査とは 4人に一人が子どもを望まないという結果をもたらした今回の調査は、スウェーデン最古の大学、ウプサラ大学で行われました。ウプサラの産婦人科を訪れた596人女性を対象に行ったアンケート調査で、回答した女性の平均年齢は、24歳でした。ウプサラは大学の町だけあって、回答した人の多くは学生であったということで、この点は、今回の結果を理解するのに重要な点でもあるように思います。 2.調査結果は? 既に書いていますが、4人に一人の女性が、「子どもを望まない、わからない」と回答しました。2014年は10%だったそうなので、たった10年の間に14%も増えたことになります。もう少し詳しく見ると、8%が「子どもを望まない」、16%が「子どもを持つかは不透明」と回答しており、これを合わせて4人に一人と報道されたようです。「子どもを欲しい」と回答した人の割合を比べると、2014年は91%なのに対して、今回は75%なので、すごく減った印象を受けます。子どもを望む多くの人は、平均すると2人の子どもを望んでいるとのことでした。この調査では、このほかにも、コンドームを使う人が減ったこと、大半の人が性交渉の同意を強く感じると回答をしたともあります。 出典: ウプサラ大学プレス記事 3.スウェーデンの最近の出生率は? こんなニュースだと、最近のスウェーデンの出生率が気になりますよね。福祉国家で育児休暇などの様々な支援もある北欧スウェーデンですが、残念ながら、出生率は下がり続けています。2024年の統計が最新版になりますが、出生率は、ここ22年で最低となっており、2024年に生まれた子どもの数は、98500人。前年度と比べると1600人減っています。ここ数年の減少の影響は、既に私が働いてる教育界では大きく受けており、今年は、学校や就学前学校の統合や閉鎖のニュースが多く聞かれました。一人当たりの女性が生涯に産む子どもの数も減り続けており、...