2022年8月5日金曜日

本で知ることができない、スウェーデンのインクルーシブ教育とは【2017年版】

この投稿は、2017年2月26日と27日のものを更新して、再投稿しています。

 このブログで、最も多くの方が読んでくださった投稿の一つが、この「スウェーデンのインクルーシブ教育」についてです。今の情報に書き直すのも一つかなと思ったのですが、インクルーシブ教育の変遷として、この投稿をオリジナルで残しながら、読みやすい形に直し、「2017年」とタイトルに入れることにしました。情報は、2017年現在のものになります。最新の2022年情報も今後新たに投稿したいと思います。


1.スウェーデン語のインクルーシブ教育とは

 スウェーデン語で、インクルーシブ教育のことを「Inkludering(インクルデーリング)」 と呼ぶのが一般的です。インクルーシブ教育の行われている学校を「Inkluderande skola(インクルデーランデ スクーラン)」と呼んだりします。

2.スウェーデンのインクルーシブ教育の定義とは

 どんな学校のことをインクルーシブ教育と呼ぶかというと、2013年に出された特別支援教育専門機関によれば、
  • 様々なレベルでの帰属感、共通意識がある
  • たった一つのシステムであること(「普通の」生徒と「そうでない」生徒に分けたシステムでないこと)
  • 共通、同等の民主主義があること
  • 生徒たちの参加があること
  • 「違い」が良いものとして捉えられていること
とあります。上記のことが普通のこととして行われている学校がインクルーシブ教育を行っている学校ということになります。

3.スウェーデンの学校はインクルーシブ教育を行っているの?

 実際にスウェーデン中がこういう学校なのかというと、「そうです」と即答できない難しさがありますが、スウェーデンのインクルーシブ教育は、一人一人の子どもが持っている能力を最大限に伸ばすことができる、学びと発達の権利を保障したインクルーシブ教育の形であると思います。しかしながら、特別支援学校があり、知的障害があるかないかによって分離されたうえで、親の希望により、基礎学校の学びが提供されていることや、特別学校という聾・聾重複の学校がある(盲学校はない。)ことにより、解釈の仕方によって意見の分かれるところであると思います。スウェーデンの学校教育システムについてはこちらをご一読くだささい。

4.スウェーデンで最もインクルーシブ教育が進んでいる就学前学校

 統計などではなく、私の印象ですが、スウェーデンで最もインテグレーションが進んでいるのは、就学前学校、いわゆる幼稚園や保育園に当たる幼児教育・就学前教育だと思います。以前に書いたパラサポWEBの「スウェーデンに学ぶ、幼児教育の最前線インクルーシブ教育」もぜひご一読ください。

 小さい頃は、住んでいる地域で、みんなで同じ場所で過ごすという考えが浸透しており、自宅近くの就学前学校に通います。都市部で重度の障害がある場合は、特別な就学前学校がある場合もありますので、そこに通う選択肢もあります。また、就学前学校の中に自閉症のクラスがあったり、子どもの人数を減らしたクラスがあったりもします。入園が決まると、その子どものニーズに合わせて、職員の配置がされたり、公立の就学前学校であれば、コミューンの特別支援教育の専門教員が時折きて、職員指導などをしている場合を多く見受けます。
 日本のように「療育」という感じの保育を行なっておらず、日本の都道府県レベルに当たるラーンスティングによって運営されている「ハビリテーリング」という機関が障害を持った子どもたちの家庭や就学前学校でのサポートにあたります。


5.特別支援学校はあるの?

 スウェーデンにも、日本の特別支援学校にあたる「基礎特別支援学校」があります。スウェーデンの学校教育システムについてはこちらをご参照ください。スウェーデンの特別支援学校の多くは、基礎学校と呼ばれる日本の小中学校に当たる学校と同じ敷地内にある場合がほとんどであり、「場の統合」は行われています。私が働いている学校は、スウェーデンの首都ストックホルム最大の特別支援学校になりますが、見学に来る方の印象は、日本の「特別支援学級」のイメージをもたれると思います。スウェーデンのインクルーシブ教育と特別支援学校については、「発達と学びの権利を守る、スウェーデンの特別支援学校とインクルーシブ教育」の投稿をご一読ください。

6.特別支援学級や通級学級などはあるの?

 基礎学校には、何かしらの理由でクラスで学ぶことが難しい生徒のための「少人数の学習集団」があります。2011年の学校改革の後、スウェーデンでは、しばらく、こうした少人数の学習集団のような特別なクラスを設定はしない学校が一般的になりました。これは、2010年に出た学校法の解釈の問題とされ、現在は、少人数の学習集団は一般的です。この学習集団で学ぶ生徒は、知的障害がない、何かしらの理由で母体級で学ぶことが難しい生徒になります。また、このクラスに最初から所属することはできず、所属クラスでの様々な合理的配慮によっても、共に学習することが難しい場合に、こうしたクラスで学ぶことになります。

7.スウェーデンのインクルーシブ教育で大切だと言われていること

 スウェーデンのインクルーシブ教育で重要だとされるのが、「個人がどのように感じているか」という部分です。
  • 帰属意識が感じられる
  • 仲間の一員としての実感がある
  • それぞれの個性、障害を含めた違いを可能性、良いものとして見ることができていること
以上の点が特に重要であると言われています。これに加えて、こうしたインクルーシブ教育を実現するためには、学校に関われる人々がインクルーシブ教育を実現するという熱意を持つことであると言われています。個人の感情、気持ちに深く関わるのですから、やはり、それを変えるのは、人々の熱意、やる気が重要なのでしょう。法改正が行われ、学校も変化していますが、そこにいる人々が知識を持ち、気持ちが変わらない限り、インクルーシブ教育がそれなりの形で行われるということは難しいのであると思います。

8.スウェーデンの学校のインクルーシブ教育を支えるしくみ


 スウェーデンのインクルーシブ教育を支えるしくみが、学校法によって、スウェーデンの全ての学校に設置義務のある
「Elevhälsa (生徒の健康)」です。クラスの中に問題を持った子どもがいると、まず、「Extra anpassningar (不可的調整)」が行われます。これには、例えば、机の配置やグループ関係、読み上げ機能などのITの使用と言ったような配慮が含まれます。
 こうした付加的調整にも関わらず、状況が改善されない場合には、専門家チームである「Elevhälsa 生徒の健康チーム」でで話し合いが行われます。そこから「åtgärdsprogram(改善プログラム)」というプログラムが組まれ、更なる特別な支援や援助が行われることになります。この改善プログラムは、2016/2017年度の小中学校に通う生徒のうちの5.6%が受けました。( Skolverketの資料より)改善プログラムが組まれる際には、保護者にも連絡され、家庭と連携して行っていきます。
 生徒の健康チームには、必ず特別支援教育の専門教員がおり、こういった生徒たちの対応を個別もしくは、担当教員と当たっています。専門教員は、取り出し型の教育を行ったり、クラス担任に教室の中でどのような支援、援助を行うと良いかというアドバイスをしたりします。このほかに、特別支援教員の大きな役割が、早期発見にあると思います。小学0年生から、これらの教員により、簡単なテストが定期的に行われ、言語面で遅れがある子を見つけ出し、早期に援助を行うということが行われています。こちらも大体の学校にどのような流れでするかというのが決まっているので、いつか紹介できればと思います。


 スウェーデンのインクルーシブ教育を17年間見てきて感じることは、生徒個人にとって最良と思われる形、子どもの最善を常に模索して行うことに重きが置かれており、全ての子どもに発達と学びの保障をしながら、インクルーシブ教育を時代に合わせて発展させている点でしょう。


4 件のコメント:

  1. ありがとうございました。だんだん輪郭がつかめてきました。
    1点、ろう学校の件ですが、これは権利条約の議論でも対立があった部分です。ろう学校には、独自のろう文化を維持するコミュニティの拠点としての役割があるので、すべてインクルージョンというのは違うという議論でした。また、カナダのBC州ではフルインクルージョンが採用されているという日本語のブックレットも出版されています。
    ぼくはインクルーシブ教育と特別支援教育について以下のように考えているのですが、
    『特別支援学校は障害者権利条約とはなじまない』
    http://tu-ta.at.webry.info/201604/article_3.html
    Reiko S さんの意見を読んで、フルインクルージョンという場での合理的配慮の手法を特別支援と呼ぶというのもありかと思いました。

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  2. tu-taさん コメントありがとうございます。そして、ブログを読んでいただき、ありがとうございます。聾学校のこと、私も大学で同じような話を聞きました。tu-taさんのコメントを読んで、前にお会いした日本の研究者の方が言われたことをおもいだしました。私が説明をした際に、それは特別支援ではないと言われたのですが、スウェーデンでは、それは合理的配慮で、それは特別支援だというような「区分」や「名前」が重要視されることはなく、教育現場で行われる支援、援助として捉えられるので、不思議に思ったことがありました。スウェーデンの教育学部では、特別支援教育に関する授業の時間がかなり少ないことが問題になり、ここ数年は、文部科学省に当たる国の機関や、特別支援教育の専門機関が様々な対策を出して、基礎学校の一般教員の知識向上を図っています。日本で、この名前、合理的配慮や特別支援といった部分にこだわる理由があるのでしょうか。例えば、合理的配慮では予算が降りないが、特別支援なら出るといったような。。。上記のブログの記事を読ませていただきました。思ったのが、スウェーデンの分離統合型、インクルーシブ教育は、福祉国家の思想、理念があるからではないかと私は思っているのです。こっちの人々は、福祉のお金で面倒を見てもらう側であり、もう片方が、そのお金を納める側であるといった、この形を継続してきたスウェーデンという国では、この形が、それぞれ個人の生き方を支え合えるインクルージョンの形として見ていると。日本は、このようなはっきりとした形での線引きをしておらず、そうなると、フルインクルージョンの学校教育を求めると膨大な教育費がかかるのではないかと想像するのですが、どうなのでしょうか。スウェーデンでよく言われるのは、重度の障害を持った生徒がインクルーシブされるには、まだ、受け入れ側の準備が整っていないと言われます。長くなりました。こうしたコメントをいただくと、大変勉強になります。ありがとうございます。

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  3. 日本での増え続ける知的の支援校・支援級の在籍者数のデータです。
    http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2015/06/08/1358541_01.pdf 
    支援校の在籍者数は9pにあり、H13の2倍以上に増加。このように増え続けているのは知的の支援校だけ。
    15pには支援級の在籍者数の推移もありこちらも増加。インクルージョンではなく分離が進行中っていう感じです。大きな原因は文科省がやるきがないからということでしょうが、その結果として、普通級に余裕がなく、エクスクルーシブになってるからではないかと思うのです。

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    1. tu-taさん
      コメントをありがとうございます。なかなか返事がかけず申し訳ありませんでした。
      増加していますね。インクルージョンではなく、分離が進んでいるようですね。この知的の支援校をでて大人になっていく人々の将来がどうなるかによって大きな差が出るように思います。社会に溶け込み、生産性が生まれればいいのですが、どうでしょう。この増加に合わせた社会制度の見直しが必要になってくるのではと思います。どのくらいこういった支援学校の生徒数の増加が話し合われているのかきになるところです。いつもコメントありがとうございます。

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コメントをありがとうございます。