2022年12月31日土曜日

スウェーデンのインクルーシブ教育の歴史ダイジェスト版!

この投稿は、旧ブログのインクルーシブ教育に関する投稿の中の歴史に関連した内容をまとめて、リライトして、再投稿しています。

発達と学ぶ権利を守る、スウェーデンの特別支援学校とインクルーシブ教育」に続き、「スウェーデンのインクルーシブ教育の歴史ダイジェスト版」を、旧ブログの投稿をリライトしながらご紹介していきます。

1.1968年、全ての子どもに教育を受ける機会が与えらる

 世界でも有数の福祉国家スウェーデンでも、障害がある子どもや大人の権利獲得は、常に戦いの道のりでした。日本と同様に、学ぶ権利をはく奪された時代は長く、「馬鹿者」と呼ばれて、生まれると施設に預けらえていた時代もありました。そんなスウェーデンの歴史の中で重要とされるのが、1968年。この年に、やっと、すべての子どもに教育を受ける機会が与えられました。日本より11年早く制度化されましたが、この時点では、私の生徒たちの教育は、社会庁の管轄で、ほかの学校と同様に学校庁の管轄になったのは、1990年代になってからです。この歴史により、スウェーデンの特別支援学校は長らく医療や福祉の分野が強く、教育や特別支援教育色が薄いところがあったのですが、ここ10年で大きく変わったと思います。

2.インテグレーション「場の統合」

 インクルーシブ教育が叫ばれるようになる前、ちょうど私が大学生だったころは、インテグレーションという「場の統合」が注目される時代でした。スウェーデンでは、上記の1968年以降、1970年代や80年代は、この場の統合が盛んにおこなわれ、ノーマライゼーションの動きとともに、スウェーデンは「大型施設」を廃止しました。現在のスウェーデンでは、ほかの国で見られるような障害者だけが集められた大きな施設は存在しません。特別支援学校は、例外や民営の学校を除き、基礎学校と呼ばれる小中学校に併設する形になっており、支援学校の組織は、学校全体の1割以下が望ましいといわれています。これらは法制度されているものではないので、国内に支援学校単体で立っているものももちろんありますし、その存在が問題視されることもあります。

 この「場の統合」の歴史は、私は重要であると思っていて、日本の支援学校のように遠く離れたところにあるということはなく、多くのスウェーデン人たちが、小さなころから学校の中にいろんな子どもがいたことを思い出します。社会の縮図としての学校として、この場の統合は大きく、高校でも同様で支援学校の高等部の職業コースができる限り、高校の職業コースと同じ場所に設置され、可能な限りともに学ぶように工夫されています。

3.スウェーデンのインクルーシブ教育の始まり

 では、どこがスウェーデンのインクルーシブ教育の転換期かというと、2010年の学校改革です。スウェーデンはサラマンカ条約も障害者権利条約も批准しており、子どもの権利条約にいたっては、国内法になっています。なので、一人一人の権利を守り、持続可能なインクルーシブ教育を模索し続けています。大きな変化があった点を以下にまとめます。

  • 特別支援学校へは知的障害のある子どものみ入学可能となったこと。それまでは、知的障害がない自閉症などの発達障碍児も入学が可能であったが、特別支援学校は知的な障害があることが、医療、社会、心理、教育の4判定で明白である生徒のみが入学の権利が与えられる学校という風にかわりました。これにより、普通学級で面倒が見れないから、特別支援学校という流れ、特に移民難民のスウェーデン語ができないから、支援学校という流れはなくなりました。
  • 生徒の健康チームという、専門職の集まった特別支援教育のための組織が法的に制度化された。これにより、何かしらの理由で、最低限度の到達目標に到達しない危険のある生徒は、専門的な支援や援助が受けられるというシステムが構築されました。
  • 2011年のカリキュラムは、集められたカリキュラムといい、同じ場所でいろんなカリキュラムを教えることを可能としたものになりました。私は、授業するときに2つのカリキュラムを併用して教えています。これにより、同じ場所で学んでいても、その子にあった教育内容を提供できるようになりました。

4.盲学校の廃止と、聾学校

 スウェーデンは、盲学校がありません。上記の学校改革の流れで、盲学校は廃止され、盲児が入学する場合の支援を国の特別支援教育庁が行います。例外は、聾学校になります。聾学校は、国の管轄で今も残っており教育が行われています。スウェーデンでは、手話は一つの言語として1981年に認められており、手話で教える学校は聾学校、英語で教える学校は、インターみたいな感じで、学校が残っています。聾重複の子どもは、親が国に8か所ある聾学校か近くの支援学校かを選びます。

5.インクルーシブ教育の議論

 2010年が転換期なので、あれから10年以上たち、実はスウェーデン、インクルーシブ教育というと、すごく反応が悪い場合も多いのが事実です。特別支援学校にかかわる人々は、歴史的に何度も、支援学校廃止の議論をしてきた話をします。今まで、いろいろ議論したけれど、たいていの人がインテグレーションのイメージが強く、難色を示します。過去に行われて国の大きな調査でも、支援学校廃止反対派が多く、スウェーデンでは、現在でも支援学校が一つの学校形態として残っています。

 これに加えて、2010年以降、スウェーデンでは、登校しない子どもが増え、その理由の一つとして、知的障害のない発達障害児に対する支援の薄さがあげられます。2010年の改革の時に、知的障害のない自閉症児は基礎学校に戻され、それまでよく見られた少人数の学習集団も減らされたために、教室の中でやっていけない生徒たちが増え、それらの子どもたちが不登校になったと考えられています。これがインクルーシブ教育の議論に大きな影響を与えたことは言うまでもありません。それまでのスウェーデンの制度もかなり問題で、特別支援学校には、障害判定が降りていない子も「反対のインテグレーション」という名前で通っていたこともあり、先生が面倒見切れなくなると、生徒を移動させていた時代もあり、訴訟になったこともあります。そんなことを考えると、法制度は正しかったと思うのですが、急に普通学級に戻された生徒も、受け入れるように言われたりする教師側も大変だったと思います。

6.基礎学校で、特別支援学校のカリキュラムを学ぶ支援学校対象生徒の増加 

 スウェーデンは、知的障害の有無でまずは分離をしているということで、私が、分離統合型インクルーシブ教育と説明することもあります。知的障害がある生徒は、支援学校への入学の権利が与えられますが、入学しなければいけないということではないので、基礎学校で学んでいる生徒も多くいます。これまで支援学校対象児が基礎学校で学んでいる割合は、12%くらいだったのですが、徐々に増え、今は20%前後まで担っています。これらの生徒は、基礎学校の教室で、支援学校のカリキュラムのどちらか(2つあります)に沿って学んでいます。これにより、学び発達する権利を保障しながら、基礎学校という場の中で学ぶインクルーシブ教育を実現しています。


 昔は、「スウェーデンでは、さぞかし、インクルーシブ教育が進んでいるでしょう」と質問されると、そんなことはないと答えていましたが、あれから、10年、スウェーデンは、「社会の変化に合わせ、個人の願いを聞きながら、子どもの持っている力を最大限に伸ばすことができるインクルーシブ教育」を行う基盤があるということができます。また、その実現をしている学校や現場も多くあり、そのよい例に学びながら、よりよりインクルーシブ教育、そして、共生社会を目指していると感じます。また、数年後に、この投稿をリライトしたときに、さらなる発展したスウェーデンの姿をかけることを願って、2022年最後の投稿にしたいと思います。数あるブログの中から私のブログに足を運んでくださった皆様本当にありがとうございます。

ストックホルムにある国の特別支援庁


(旧ブログの2009年5月12日、2009年7月15日、2012年9月9日の投稿をもとに、リライトしました。)

2022年12月30日金曜日

スウェーデンで教員をする私が見聞きする、フィンランドの教育とは

 この投稿は、旧ブログの投稿をリライトして投稿しています。

2022年7月16日に、初の単著「医療・福祉・教育・社会がつながるスウェーデンの多様な学校~子どもの発達を支える多職種協働システム」を刊行。是非ご一読を😊


 引き続き旧ブログからのリライトをしていこうと思います。旧ブログは、夏の休暇の時に記事を移行させてなくしてしまったのですが、放置してあった時もかなり多くの方が訪問してくださったようで、感謝しかありません。ありがとうございます。何年たっても興味深いと思う内容を少しずつリライトして再投稿していこうと思います。

 今日はお隣、フィンランドンの教育についてです。フィンランドの教育は日本でも大変有名になりましたよね。コロナ前はものすごい数の訪問者があったとも聞いています。

1.フィンランドの公用語は?

日本ではあまり知られていないかもしれませんが、フィンランドの公用語は、フィンランド語とスウェーデン語なのです。なので、フィンランドの道路や観光表示は両方の言語でされています。フィンランドでは、1919年に独立した2年後からこの2つの言語を公用語としてきています。1970年代に入ってからは、フィンランドの学校では高校と同様に7年生から9年生でスウェーデン語を必修言語としたそうです。この投稿は2010年にしたもので(12年前ってすごいと思ってしまった。)その当時の調査では、多くの人がスウェーデン語を必修言語とするのはどうかという意見をもっていたようです。いったいどのくらいの人がスウェーデン語を母国語としてを話しているのかというと、約290,000人、人口の約5%だそうで、今調べてみてもこの数字にあまり変化はないようです。

2.スウェーデン語話者が多い地域とは?

 多くのスウェーデン語話者は、オーランドという島に住んでおり、スウェーデンよりの海岸沿いに住んでいる場合が多いので、オーランドや、ヴァーサなどは有名です。そんなにたくさんの人が使っているわけではないようで、流れ的には、上記にも書いたように、学校でのスウェーデン語の授業はやめたいという方向にあるのは理解できます。あれから10年、この議論どうなったのだろう。スウェーデンは、フィンランドとNATO加盟に向けて動いていることもあり、今年は、フィンランドとスウェーデンは、場所的に近いということだけではなく、国同士としても今まで以上に強固な関係を新たに作り出したと感じます。

 この言葉の問題は、国の憲法に定めてあるだけあって、スウェーデン語でどこでも授業をうけられるとか、医者にかかるときは、スウェーデン語が使えないといけないとかで、ただ、やめるとかやめないという議論ではなかったと記憶しています。

3.男女平等の進んだ大学教育

 過去の投稿によると、12年前は、フィンランドの大学教育が一番男女平等だったようです。フィンランド、オランダ、ノルウェー、アメリカ、オーストラリアで行われた調査結果で、大学教育レベルの男女平等について調べたら、フィンランドが一番平等だったというもの。フィンランドのような小国は、男女かまわず力のあるものを伸ばすことによって国力を上げていく必要があると書かれていたようです。今の状況はわかりませんが、この考え、そろそろ日本も取り入れるとよいかもしれないと思います。少子化が叫ばれて既に20年とかになり、一向に改善される気配はありません。こうなると、日本は、人口が少なくてもやっていける国に変えていく方が変実的なのではと思います。スウェーデンは北欧最大の国ですが、それでも、日本の人口よりはるかに少ないです。でも、ちゃんと国としてやっていけるので、人という価値について今一度考えなおして、10年、20年後を見据えて国づくりが必要ではないかとおもいます。

4.北欧といってもかなり違う教育

 日本から見ると、北欧という大きな地域で見られることが多いのですが、実は教育の在り方はかなり異なる部分があります。私の個人的な印象ですが、ノルウェーはやり方をあまり変えない傾向があるのに対して、スウェーデンは変更していくスピードが速く、そのスウェーデンの様子をうかがいながら、よい結果を出したところをまねしていこうとしているのがフィンランドみたいな感じです。ここ数年は、残念ながら、フィンランドから聞こえることは、「スウェーデンのマネしなくてよかった」的な発言です(泣)。スウェーデンは、フィンランドの良いところを取り入れていて、近年大きく変わったのが、小学校の3年生までにできる限り早い段階で、支援を増やすというものです。これにかかわって、読み書き計算保障もされました。

5.カリキュラムの違い

 過去ブログの投稿に、「フィンランドの学校のカリキュラムは、賢くて実践的な内容になっており、合理的な目標が掲げられており、相対的に明確な用語で表現されている。」と。この発言は、ルンド大学の先生の発言で、こまではっきり書かれるとスウェーデンのカリキュラムがいかなるものか、頭を抱えたくなります。この2022年秋学期より、カリキュラムの改定が行われ、こうした意見や批判を取り入れたのだろうと思うのですが、今回のものは、より、教える内容が整理され、評価の段階も前よりもわかりやすくなりました。そして、フィンランドの低学年で重要視されているのが、読解力だそうです。かなり重要で力を入れているそうです。今もかな。今のフィンランド教育事情もいつか書けたらと思いますが、いつになることか。。。

6.学校生活の違い

 フィンランドの子どもたちには、月曜日から木曜日まで宿題が出るそうです。(注2011年の情報)そして、学校はたいていの場合、午後の14時には終わるそうです。14時に終われば、十分に放課後の自由時間がとれ、運動をしたり遊んだりできるし、日本の子どもたちとは異なる日常を送っていると想像できます。過去ブログですでに、フィンランドの全ての学校がそうではないかもと書いているし、多少今の情報とずれるところがあるかもと思いますが、ご了承ください。

 スウェーデンの場合、宿題はかなり先生によって個人差があるように思います。宿題と一言でいっても、どんな内容かにもよるので、このあたりは詳しくは比較できないですが、宿題を出さないという議論もされましたが、今は宿題はできる限り教科の先生で連携を取り、一度にたくさんにならないようにするといった工夫はされていますが、なくす方向は聞かないです。学校の終了時間にはあまり差がないように思います。高学年になるとスウェーデンでは、もう少し長い時間やっているとは思いますが、この新聞の記事でははっきりと学年など詳しく書いていないのでこちらも比較しにくいです。ただ、どちらにしても、学校の時間は明らかに日本よりも少ないと思います。低学年などは12時に終わったりします、3年生でも金曜日などはかなり早い時間に終わります。スウェーデンが学校併設の学童保育が12歳まであるので、子どもたちは学校には残っています。このブログにも学童についての投稿があるのでぜひ。

 7.補習授業の充実

 次に補習授業の充実があげられていました。フィンランドでは、きちんとしたシステムが作り上げられており、それにより、進度の遅れている子どもを取り出して援助し、早いうちにその遅れを取り戻すことができるシステムがあるとのことでした。これは、この投稿から10年、スウェーデン真似しています。フィンランドほどシステム化していないように思うのですが、「宿題のヘルプ」という日が週に1から2日設けられていることは、どの学校でもめずらしくなくなりました。数学ヘルプの日が別にあったりと、日本の塾のようなシステムがあまりない国なので、こうした活動が、学校や学校外の団体などが図書館などで行うなどして、行われるようになりました。
 
 過去ブログには、以下のような記述もありました。
「この前、日本から来てくださったお客様が、フィンランドで研究をされている方で、興味深い話をしてくださいました。フィンランドの低学年のクラスでは、クラスを半分に分け、(確か、、、)隔日で12時までの日と14時まで授業をする日に分けてあり、午後は少人数で勉強をするとのことでした。いいシステムだよなあと思いました。低学年はたいてい12時くらいで終わるので、その終わる日を変えることにより、少人数での授業が可能になるのだから、やりやすいよいシステムではないかと思ったのです。これも、補習授業のシステムの中の最も初めのものであるのだろうと予想します。
 
 あんまり子どもの生活自体は代わりがないように思うのですが、ちょっとした工夫がされているのがフィンランドだなあと思いました。このちょっとが大きな差を生むんだろうなあとは、つくづく思う今日のこの頃です。
 

8.数多くある選べる高校の職業コース

 スウェーデンであまり知られていないフィンランドの教育システムとして上がっていたのが、たくさんあり、選べる高校の職業コースでした。これも、スウェーデン、見習う価値あるかもと書いていました。高校の教育の在り方が、スウェーデン何度も議論されていますが、あまり変わり映えしないようにも思います。今の数字が知りたいところですが、この2011年の新聞によれば、フィンランドでは、15歳の若者の50%が職業コースを選ぶそうです。詳しくどんなコースがあるとは書かれていませんでしたが、幅広い職業訓練課程があり、魅力的なコースがたくさんあるとのことでした。そうなると、本当に大学進学を希望し、理論的な教科を学びたい生徒のみが大学進学コースに進学するとなるようですね。昔の投稿には、いろいろ高校情報を書いていたのですが、情報が古い可能性が高いなあと思って削除しました。また、スウェーデンとフィンランドの高校事情もいつかご紹介できればと思います。

9.先生が人気のある職業

フィンランドでは教師はなりたい人が多い職業であるのに対して、スウェーデンでは、なり手がない、人気のない職業なんです。日本も先生人気ないですよね。残念です。ここは、とても重要なところで、教育って、人材が命ですから(泣)。フィンランドでは、5人から10人の入学希望者が1席を争うのにたいして、スウェーデンでは、入学希望者が少なく、教員養成課程はがらがら。。。入った学生もやめていくので大変だとか。。。(2011年の数字)フィンランドでは教員養成課程に入るためにかなりの高得点が必要になるのにたいして、スウェーデンでは、入学を希望すれば入れるような状態。。。そうなれば、教師の質に大きな差が出て当然ともいえます。あれから10年たち、あまり状況は大きく変わっていませんが、多少教員養成課程の希望者が増えたこと、お給料があがったので、先生に戻った人もいるということで、先生足りないですが、状況は多少改善されました。
 
フィンランドの教員養成課程に入る人材は、高校の成績、③で少し紹介した筆記試験のようなものの成績、インタビューを含む入学試験によって選ばれるそうです。インタビューではもちろん教師に向くか向かないかを見るそうです。これをまねたのか、一時期、スウェーデンの教員養成課程で、試験的に適性検査してましたが、導入するにはいたりませんでした。

10.スウェーデンが力をいれてきた教育とは

 過去ブログの投稿は、新聞記事をもとにしたもので、その中にスウェーデンの教育が力を入れてきた内容があげられていました。
  • 作業の仕方
  • 支援器具の向上
  • 自主的な学習
  • グループでの学習
  • パソコンを使った学習
 
上記のような内容は確かにスウェーデン発達しています。で、こういった学習方法だと、教師は、教師ではなく、「スーパーアドバイザー」的な存在になり「教えるという能力」よりもほかの能力が求められます。そうこうしているうちに、教員が教員でなくなってしまい、いわゆる「授業」ができなくなってきてしまったかとありました。現在はやはり見直されて、授業の形についての研修などもあったりとして、かなり変わったように思います。前の生徒の自主性を重んじる参加型学習とともに、講義型学習の力もつけてきたスウェーデンの学校は課題も多いですが、学ぶところもたくさんある学校教育をしていると感じます。

 
フィンランドとスウェーデンの国境沿いの小さな町より


この記事は、旧ブログの2010年1月14日と4月8日、2011年6月24日、25日、28日の投稿をリライトしたものです。


 
 

2022年12月29日木曜日

専業主婦がいない男女平等の国、スウェーデンの女性たち

 この投稿は、旧ブログの投稿をリライトして投稿しています。

2022年7月16日に、初の単著「医療・福祉・教育・社会がつながるスウェーデンの多様な学校~子どもの発達を支える多職種協働システム」を刊行。是非ご一読を😊

 学校も休みに入り、1週間。友達に会ったり、出かけたりと楽しく過ごしている反面、やらなければいけないことがなかなか簡単に終わる内容でない今年の冬は、心は少し焦ってし舞う感じです。とりあえず対策として、FacebookとTwitter を休止しました。文章を書く練習も考えるとブログを残すことにしました。それにブログは、だらだら時間を費やすことはなのでよいのですが、Facebookなどは、どうしても逃避行動増えてしまう、弱い私です。

 さて、今日は、旧ブログから、専業主婦とスウェーデン関係の投稿を読見直すと、同僚たちと話した内容など興味深いなあと思います。タイトル通り、スウェーデンには、専業主婦という選択肢はありません。男女平等が当たり前であり、女性も男性と同じように働いて、税金を納めて一人前という国です。今日はそんなスウェーデンの専業主婦事情についてです。

 1.昔は、スウェーデンにもいた専業主婦

 スウェーデンにも専業主婦がいた時代があります。だいたい、今60代になるくらいの世代の方は、「母親が専業主婦だった」というのは珍しくありません。もう少し上の方だと、「私は専業主婦だったけど、働き始めた」というような話をされる方もいます。その時代には、専業主婦が存在し、家事を家庭内労働として行い、税金の控除もありました。この制度は無くなり、「いつ無くなったのか」という友人の説明をそのまま訳すると、

「政府が主婦も外で働くべきだと思ったときになくなった。」

とのことでした。専業主婦だったという人の話を聞くと、あの頃はよかったという印象を受けるので、福祉国家というと聞こえはいいけれど、みんなが働き納税するという基本姿勢がそんなに簡単物でもないということを感じます。これに関連して、やっぱり選択肢があれば、家にいたい人はいるんだなあと感じることはあります。

3.中立国と戦争と専業主婦

 第2次世界大戦後、ヨーロッパの多くの国々が国内の復興に力を注いでいた時期に、スウェーデンは、中立国であったために、国内の工場などはそのまま残っており、戦後すぐに工業などを復活させることができました。こうした戦後の混沌とするヨーロッパの中で、北の果ての貧しい国であったスウェーデンは、チャンスを生かして、今の国を築いてきました。その陰には、専業主婦の在り方も関わってきたといわれています。

3.スウェーデンの家事と専業主婦

 スウェーデン人に聞くと、専業主婦は、その昔、洗濯機も掃除機も何もない時代であれば必要性があったが、今のような便利な時代には、夫婦で協力して行えばいいという声をよく聞きまます。もちろん、スウェーデンでも家事や子育ては大変だという話もしますし、私も同感ですが、しかしながら、ここはスウェーデン。例えば、夕食はソーセージとパスタとか、冷凍食品とか普通ですし、洗濯も気候からして、毎日必ずしなければならないというものでもなく、掃除も基本的に週1という家庭も多いように思います。ちなみに週1の掃除は金曜日にする家が多いです。なので、夫婦で協力しあえば十分仕事と両立可能です。残業の習慣もない国ですし。

 育児休暇は、お父さんかお母さんのどちらかがとり、両方一緒に取ることはありません。(出産直後などのはあります)なので、私の同僚の女性などは、お父さんが育児休暇で家にいるときは、夕飯からすべてやってもらうということで、楽だとはなしていました。共働きの時は、どちらが作るかもめたとも。うんうん、あるあるだなあと聞いていました。


4.女性の就業率は?

2009年の女性の就業率は以下のようになっています。就業率の高い順に、(EU国内)

  1. デンマーク 74%
  2. スウェーデン 72%
  3. オランダ 71%
  4. フィンランド 69%
  5. エストニア, イギリス、オーストリア 66%

とありました。他の国では、ドイツ 65%,フランス 61%、スペイン 55%などなど。一番低かったのは、マルタの37%でした。EU非加盟国では、アメリカ66%、アイスランド80%、日本60%とありました。

 以下の統計が2020年のものなのですが、日本の女性の就業率は、70.6%となっており、働く女性が増えています。スウェーデンも増えている感じですが、数%ですね。

男女共同参画局のホームページより

  今の時代では、働くことは当然のことになり、だからこそ、ライフワークバランスなどがしっかりとれないと難しい時代になっているのでしょう。そこには、国の制度からによる改革も必要ですが、ともに、自分はどうしたいのかという、自己の中での考えを明確にすることも大切であると感じます。

 5.専業主婦がしたい人もいる

 日本は、専業主婦がまだ存在するという話をすると、「そんな国に住みたかった」という率直な感想を口にする同僚もいます。少し、最初にも書きましたが、家にいたい人、仕事をしたくないと思っている人ももちろんいます。そうした人たちは、自分の中で折り合いをつけて、生活していくのに必要なだけのお金を稼ぎ、人生を謳歌している人もいるし、こういう国なので、学生に戻って勉強をしてみる人もいます。そこでも語られるのが、税金だからなあという話で、常識がある方たちは、無駄に税金を使わないという話はされますし、ちゃんと働いて税金を納めて、国に貢献しようという話もよく聞きます。

6.戦うスウェーデン女性たち

 その昔は、隣の農場の娘と結婚させて農場を広げていたとか、いわゆる政略結婚もあり、子どもは女より男の方がいいと言われていた時代もあったスウェーデン。「スウェーデンは世界で一番女性に優しい国らしい」という話をすると、スウェーデン人女性たちは、冷静に、「それは、育児休暇や子どもの看護休暇などの制度の面よね」といいます。スウェーデン女性たちは、力強く、「今のスウェーデンがあるのは、多くの女性が頑張って勝ち取ったもので、昔に比べればよくなったけど、まだまだ改善すべきところは多い」と話します。男性にできることは女性にもできると、常に思って努力しており、この根性と気持ちが大切なのだと感じさせられます。誰かが作ったわけではなく、スウェーデンの女性たちが作ったのが今のスウェーデンで、そこには、専業主婦という選択肢はなく、男女ともに働いて税金を納め、国を支えるという女性の強い姿勢があります。



今回は、 2009年5月13日、7月13日、10月19日の過去のブログをリライトしています。



2022年12月28日水曜日

東京大学バリアフリー教育開発研究センターの12月のインクルーシブ教育定例研究会

 冬休みに私がしたいことの一つが、たまりにたまっている動画を一つずつ見ていくことです。オンラインの会で、アーカイブ配信があるものは、できる限り申し込んでおき、見れるときに見て勉強しています。その中の一つが東京大学のバリアフリー教育開発教育センターが行っているオンラインのインクルーシブ教育の勉強会です。時間が合えば、ライブでも参加しますが、時差もあり、最近は動画を後で見て勉強しています。無料でここまでの内容を定期的に行うことは容易ではないと思うので、いつも素晴らしい内容に感謝して勉強させてもらっています。まだ、参加されたことがない方は、是非試しに参加されてみるとよいと思います。次回の案内があったら、インスタとブログでも紹介しますね。

 今回は、12月のインクルーシブ教育定例研究会の動画を見ての感想や思うところを少しまとめて記録しておこうと思います。12月4日に行われた会のテーマは、

「来年度からのインクルーシブ教育はどうなる?4.27通知について文科省の人に聞いてみよう」

東京大学バリアフリー教育開発研究センターのホームページより

でした。この会は、4月に出された文部科学省からの「特別支援学級及び通級による適切な運用について」という通知をもとにしたもので、文部科学省の初等中等教育局特別支援教育課長の山泰造さん、障害当事者の保護者を2名のか招いての勉強会でした。思うことはたくさんあったのですが、5点、動画を見て数日たった後に書いているので、少しうろ覚えのところもありますが、記録して共有しますので、感想などあれば、是非。

1.インクルーシブ教育は「場の統合」どまり

 話を聞いていて、説明が、これって「場の統合」どまりだよね、っと思うところが何回かありました。その説明では、本当にインクルーシブ教育なんだろうかとか、分離教育の考えが根強いなあと思いました。インクルーシブ教育は、理念が重要というか、基盤となる考えがしっかり理解され、共有されることが重要だと思っており、その面からもどうなのだろうかと疑問を持ちました。場の統合を考えるなら、特別支援学校は、小中学校の中、もしくは隣にするといいと思います。

 あの4月の通知ですが、この通知のみしか知らないのですが、通知と同時に何かしらの手立てが打たれたのならば、説明にあったような通知の意図が理解できますが、その通知だけなら、こうして大きく話題になる理由もよくわかります。スウェーデンなら、この通知とともに、きっと、対応策も出されたような気がしてなりません。もちろん予想ですが。。。

2.児童生徒数減少にも関わらず、増える特別支援教育対象児

 これは何度もメディアなどで取り上げられていますが、児童生徒数が減少しているにも関わらず、増加しているのが特別支援教育対象児。スウェーデンでも同じ減少があり、全児童生徒数の20%を超える子供たちが支援教育の対象児となり、これは、普通教育に問題があるとされ、大きな教育改革が行われました。通常学級の教育を大きく変え、支援教育の対象児が減るようにされたのですが、日本もこの時期にあるように思います。この時の改革のことは、もう5年以上前に読んだままなので、もう一度読み直してみたいと思っています。今の日本の現状であれば、通級指導と支援学級を見直し、その分の予算や人材で、普通学級の生徒数を減らすことや、学校で教える内容を見直すなどもあるかなあと思います。

3.仲間と学ぶ大切さ

 もっと、子供たちが持っている力を信じてもいいのかなとも思いました。仲間と学ぶ大切さが議論の中でも出ており、感想の中でも書かれていましたが、近年の私がかかわっているスウェーデンの教育でも、コラボティブラーニングの価値が言われています。このコラボティブラーニングを特別支援学校レベルで研究しているかたもいて、「人間はソーシャルな生き物」という、ともに学ぶというのが、どんなに障害が重くてもあると実感しています。分けて必要に応じて教えるという通級のありかたは、スウェーデンの研究者によれば、縦つながりの社会性であり、子供たちには、横つながりの社会性がもっと必要なのかもしれないと思いました。スウェーデンでよく言われるのが、人ひとりが関係を持てる、人間関係をそれなりに築ける数というのは限りがあり、あまりにも多い人数でクラスが形成されている日本は、その母体数を減らすだけでも、異なった人間関係作りがみられるようになると思います。

4.特別支援教育が特別でなくなり、教育となる

 スウェーデンにある議論に、特別支援教育自体をなくす、特別な教育なんてなくて、教育があり、その中に、支援が必要な子供たちの教育があるという考え方で、この方針をとっている大学は、教育学部の中に支援教育関係が入っているところもあります。それとは逆に、特別支援教育を別個にしている大学もあり、ここにも考え方の違いがあります。そうした流れを見ながら、大学で学び研究していると、できる限り、教育と特別支援教育の境目が低くなり、わからなくなればなるほどよいのではと思います。理念の話に戻れば、ここは重要かなと思っており、教育に関わる人は、特別支援教育は違う人が行うという考えではなく、教育の中にあり、ある程度までは、すべての教員が知識を持つべき時代になっていると思いまし、理念や概念はしっかりと教員養成課程で学ぶべきものであると思います。


5.特別支援教育コーディネーターや支援員の活用

 私が今とっている資格は、特別支援教育コーディネーターのようなイメージの資格で、内容は「インクルーシブ教育者」に近いものであると思いますが、資格を取るためには、スウェーデンは、基礎教員免許を持ち、その資格で3年以上フルタイムで働いたのちに、入学できるコースで1年半、もしくはハーフなら3年学んでとれる資格です。そこで学ぶ内容も興味深いのですが、また別で紹介したいと思いますが、それと比べると明らかに、日本の資格は付焼刃的なイメージがあり、活用不足なのではないかと思います。支援員などの方と合わせて、学校の中の教員以外の役職や大人を有効に活用していくことが重要であると思います。

スウェーデンは、特別支援教育士などの専門職も多いですが、高卒の方が多い、生徒のアシスタントなども多くいて、教員ができる限り教えることに集中できる環境が目指されています。

と、書き出したら、きりがないので、このあたりでおしまいにしておきます。ちょっと残念なのが、当事者保護者がいつも同じ方で、ほかの人の例もそろそろ聞きたいかなあと思いました。それでも、これだけの内容をアーカイブで学べることに感謝です。


2022年12月27日火曜日

スウェーデンの性教育で重要とされること9項目をご紹介!

 前回の「世界で最初に性教育が取り入れられた、スウェーデンの性教育最新情報2022年版」の続きです。この内容は、教員組合で行われたオンライン講演会の内容をまとめて勉強したものを皆様と共有させていただいています。このオンライン講演会は、評判通り、本当に良かったです。今回は、彼が講演の最後にまとめた内容をもとに書いていきたいと思います。

1.広い視野、意識を広げることが重要

 話の中心でとても印象的だったのが、「普通、常識、規範」についてです。スウェーデン語では、「Norm」というのですが、私は、文脈によって訳を多少変えながら使うこと、理解することが多いです。取り上げられていたのは、「社会的規範、普通」対「法的規範」についてでした。法的な規範は、どの国でも明確で、スウェーデンでも然りです。これに対して、社会的な常識や普通となると、その国や社会、持っている文化、育った環境などなど、五万とあります。それでも、若者たちに聞くと、(私もだけど)「みんなと一緒、普通がいい」と思います。そんなときの、普通やみんなと一緒ほど、実は不確定なものはないのですが。普通について考え、自分のことについて考え、そうした自己内省を行うことで、意識や物事に対する認識を高めていくことは、本当に大切な性教育の根幹です。

2.話す機会を増やす

 性教育発祥の地スウェーデンでも、性について話す機会は少ないといわれており、どのように、性、セックス、体、自尊心、同意といった内容について話す機会を増やしていくかは大きな課題です。スウェーデンの性教育では昔から、3つの三角形(以下の写真)で話されることが多く、教科の中で教える、日常生活の中で出る疑問を拾い上げる、テーマに沿って取り上げる話されます。どの機会も大切で、学期に一回行われる内容では決してなく、常に行われるべき、価値教育の一環となっていることが重要です。
Skolverkt より

3.避妊についての知識と精神的不健康の予防

 スウェーデンでは、若者の精神的不健康は大変大きな課題です。そうした精神的不健康の予防と避妊や体についての知識をしっかりと教えることは重要です。こうした内容は、性教育全般とともに、「なぜ、学校で教えるのか」という疑問が、実はスウェーデンでもあります。いろんな考え方があるので、当然ですよね。そんな個人のプライベートなことを学校で教える必要があるのかというものです。しかしながら、プライベートを教えるわけではなく、知識を教えるのであり、決して、教員が自分のプライベートな話をする必要もなければ、生徒が自分の話をする必要もないのです。プライベートなことを話さなくても、個人的に話すことはでき、話したくなければ、「同意」に立ち返り、話さないという選択肢が教える側にも、生徒側にもあるのです。

4.セックスについて話すことを普通にしていくことが大切

 セックスや性や体について話すことを、もっと日常的に普通にしていくことが重要であるとも。なかなか話しにくい内容であるというのは、もちろんで、家庭で教えることが可能ならいいが、親だとなおさら話しにくいこともあると思います。話しやすい、聞きやすいようにするためのアイデアとしては、事前に、最初に質問や疑問を集めておくという方法です。最近はデジタル化が進んでいるので、そのような形で集めてもいいし、昔ながらの紙に無記名で質問や疑問を書いてもらい、集めて置き、それをもとに話をするというのもよいと思います。これにより、教師側もその場で答えにくいものも、じっくり考えて準備できる良さがあります。

5.やっぱり、少ない支援や援助

 性教育の分野は、やはり、まだまだ支援や援助が少ないといわれています。そんな中でも、優秀なのが、ユースクリニックが運営しているUMOというサイト。特に、自由に質問できるとこがよくて、若者が若者に聞くところと、若者が専門家に聞くという2か所あり、様々な質問や疑問が寄せられています。このサイトは私もよく見ます。こうした、安心してう情報を得ることができるサイトがあるというのはほんとに素晴らしいです。

UMOのサイトより

6.練習が結果や知識を生み出す

講演の中ではどのように授業をしたらいいかなどの具体的な提案ももちろんありました。短い講演で本当に内容が濃い!先ほどの、質問疑問を生徒から集めるというのはもちろんですが、例えば簡単な授業として、黒板に「セックス」と書き、そこから対話をしていくという方法。年齢によっては、「第2次性徴、体毛」などもいいのではと。言葉にして、話す中で学ぶことって多いですよね。あとは、「普通ってなんだろう」とか。テーマで学習するなら、例えば「同意、HIV、人間関係、家族、規範、インターネット、感情」などもよいのではということでした。そんなテーマ学習の時の具体的な方法としては、短めの講演を聞く、映像やPODDを見たり聞いたりして話し合う、本を読む、文章を書く、質問やケーススタディをするというもので、どの方法をとったにしても、最も重要なのは、「対話」であると。言葉にして、話し、人の意見を聞き、自分の意見を考えるといった行動が大切ですよね。話はずれますが、だからこそ、学校教育を常に点数化して順位やテストで見る教育は、問題が多いとも思います。


まとめとは別に最後に3点ご紹介して終わりたいと思います。

7.生徒の健康チームとの連携の大切さ

 スウェーデンの学校には生徒の健康チームというのがあります。こちらについては、私の本を読んでいただければと思います。この生徒の健康チームとと、いかに連携していくかは、私のヘッドテーチャーとしての大きな責任でもあります。学校医、学校看護師、心理士、学校社会福祉士、特別教育士との連携と協働をしながら、医療、心理、心理社会、特別支援教育の分野の取り組みを学校教育に生かしていくことはとても重要です。そこには、健康の促進的部分と予防的な内容が大きくかかわってきており、教師が行えない部分や、行いにくい部分などを連携しながら補足しあっていくということが重要になります。

8.ポルノが教える内容になったこと

 今回の改定で大きく変わったのが、「ポルノ」が教える内容に入ったことです。これは、大きな変化で、この点を大きく議論したものがいくつも出ました。今回の講演では、子どもオンブズマンが様々な研究をまとめて出した2021年の報告書の要点をもとに話がされました。これだけでも、投稿できる内容ですが、いかに簡単にまとめます。

  • 男子の方が女子よりもポルノに抵抗が低い。
  • ポルノ見ることによって、暴力行為やポルノの模倣が増えるという事実的関係性はみられなかった。(一部の人を除いて)
  • 若者たちは、ポルノは本当のセックスを映したものではなく、誰かが作ったものだという認識があるが、そこで見られる「体」には、ルッキズムの影響があり、これがいいからだというイメージが出来上がる危険性がある。
  • 大人が批判的ににポルノについて話すことは、若者たちが大人に話す気をなくさせ、話し方には注意が必要。
  • ポルノを見すぎる傾向は、精神の不健康に関係する。
以上でした。この報告書もいつか時間があったらじっくり読みたいです。

9.よい性教育とは

 最後に、よい性教育に含まれるとよい内容が提案されましたので、その紹介をしますね。

  • 生徒の健康チームとの連携と協働
  • 生徒の声を聴き、願いを取り入れる。
  • 規範意識を考える。
  • 教科に交えていく。
  • 明確な方針とフォローアップ(校長の責任)

以上でした。長くなりましたが、私のヘッドテーチャーとしての役割にもかかわる内容で、勉強しておきたかったので、今回の講演は本当に良かったです。感想などありましたら、ぜひ!


2022年12月26日月曜日

世界で最初に性教育が取り入れられた、スウェーデンの性教育最新情報2022年版!

教員組合のウェブ講演会での内容が、すごくよかったと教職員間で話題になっていたので、期限が切れる前に見て勉強しておこうと思いました。その内容を記録して、皆様と共有できればと思います。

スウェーデンの性教育最新情報2022年

1.性教育と呼ばなくなった、スウェーデン

スウェーデンでは、「性教育」という言葉は既に使われていません。2022年7月1日より、

「Sexualitet, samtycke och relationer:セクシャリティー、同意と関係」

に変更になっています。それまでは、もう少し日本の「性教育」に近い名称「Sex / och samlevnad」が用いられていました。この名称変更は、カリキュラムの改定とともに行われました。数年前から、この改定に向けていろいろと動きはあったのですが、実際に変更となると、現場でも戸惑う部分はもちろんありました。

2.「同意」の難しさ

「同意」というと「はい、いいえ」と「どちらでもない」という選択肢で話がされそうですが、子どもや若者は、その「はいといいえ」の持つ意味や、結果までを理解しているか、決定をする自分を理解しているかなど、様々な問題があるという話が、まずは、印象的でした。

 話をされた方は、「Kalle Norwald」さんという性の専門家の方でした。彼が出した本がこちらです。

この表紙の絵にも意味があるそうで、「この話は、話せるのか、話せないのか、赤信号なのか、黄色信号なのか、自分の中でどうなのか」と振り返る、そういう意味合いもあるという話とともに紹介され、教師でも生徒でも、この話はしてもいいのか、ちょっと嫌なのか、正直になることは重要であると思います。私もスウェーデンで教えてきて、この自分の中で話せるか話せないかの判断をすることは重要だと思っていて、話せないと感じることは、正直に生徒に「今は話せない、今度ちゃんと準備してから話します」と話すようにしていますし、いいたくないことは、「話したくないので話しません」といいます。ここにも「同意」とは何なのかということを考える基盤があるなあと思って聞いていました。

3.なぜ、SEXを時間割にいれるのか(学校で教えるのか)?

なぜ、学校で教えるのか、もうこれは、まずは何といっても「知識を与える」に限ります。知識は何物にも代えがたい宝となります。彼も面白おかしく、生徒たちはとても知りたがっていると。うん、そうなんです、生徒たちはとても知りたいけれど、誰に聞いていいのかわからない場合も多いし、聞きにくい内容だからこそ、学校で教える意味があります。

二つ目は「自尊心が強化される」と。自尊心が高まれば、精神的に健康に過ごせる若者が増え、大人も増えていきます。わかりにくいことやいいにくいことを、どんなふうに言葉で表現するとよいのかを学ぶことによって、生徒たちは、言葉を習得していき、より良い表現ができるようになり、自分と物事に対する意識を育てることができます。ご存じのように「言葉は力」になります。

そして、この自尊心をしっかり育てていくことで、「若者たちの将来と現在の人との関係づくりに寄与」することができると続けます。そして、偏見を減らし変えていくことができるというのも、学校で教えることの大きな意味であると思います。

4.1955年に世界で最初に性教育を取り入れたスウェーデン

タイトルにも書きましたが、性教育を取り入れた最初の国は、スウェーデン。1955年に始まり、長い歴史が今を作り上げています。この1955年のときから、性教育は様々な教科の中で取り入られるべきであるとされてきました。日本から、時々、性教育の授業を見たいというご連絡をいただきますが、実は、とても難しい。性教育という授業があるわけではなく、歴史、生物、価値教育、社会、家庭科、宗教などなどの教科の中で様々な形で教えています。その昔の性教育は、スウェーデンでも「リスク」について教えることが多かったと。おそらく多くの方が納得されると思うのですが、いかに危険を回避するかということに焦点を当てた、リスクについての内容が中心だった時代があります。


講演の内容はまだまだ続きますが、ここでまずは、第1回を終わりたいと思います。続きは、「常識、何か普通なのか」という話から広がっていきます。


みんなのねがい 世界の風 最終原稿完成

  この半年間、「みんなのねがい」という全国障害者問題研究会の雑誌で「世界の風」という連載をしてきました。今日はその最終原稿が完成しました。半年間何度もメールでやり取りをしてくださった担当の方には、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。

 「みんなのねがい」は、1970年に創刊された歴史のある雑誌で、障害のあの人やその家族、実践者など、様々な人々の願いを伝えることができる雑誌です。残念ながら、私は毎月購読はしておらず、スウェーデンには、3冊あるのみです。この雑誌での読書会をされている方がいたり、メールで感想があったりと、この本の良さは、いつも遠くから感じています。



10月号のみんなのねがい

みんなの願いのホームページから、1月号の特集ページがあり、そこから、私の世界の風をPDFで読むことができます。見本誌を無料で送ってくださるので、興味を持たれた方は、ぜひ、連絡をしてみてください。

最終回は、最後にふさわしい内容になったと思います。願いを持ち、それを言葉にできるからこそ、そこから変えていけるように思います。あなたの願いはなんですか。あなたが生きている世界や社会に願うことは何ですか。


いつか皆さんとそんなお話ができることを楽しみにしております。






2022年12月25日日曜日

スウェーデンのクリスマスの風物詩、大きなわらのヤギ

  皆様、クリスマスをいかがお過ごしでしょうか。私は、無事に秋学期を終え、冬休みを満喫しています。秋学期は、ヘッドテーチャーになったり、学校検査庁が来たり、新しいプロジェクトに参加したりと本当に目まぐるしく過ぎていきました。Twitterやインスタグラムでは少し紹介したいのですが、ブログできちんと文章化していきたいと思います。どのくらいできるかはわからないのですが、ブログの良さは、やはりある程度の文章が書け、残っているという点だと思うので、頑張ります。

 今日は、先日公開されたScania Japan のGriff in Magazine の私の記事のご紹介です。本当に久しぶりに記事を書かせていただきました。内容は、スウェーデンのクリスマスの伝統、イェブレの大きなわらのヤギについてです。私は何度も訪れたことがあるこの町、この大きなヤギが燃やされずにクリスマスを越せるかは、私のクリスマスの最大の関心かもしれません。詳しくは以下の記事をどうぞ!

サステナビリティにも配慮したスウェーデンの12月の風物詩、イェブレの藁のヤギ


この藁の大きなヤギの様子は、ソーシャルメディアでも見ることができます。ぜひ~!


 皆様もよいクリスマスを!

2022年11月26日土曜日

スウェーデンの学校教員の秋学期、9月中旬からを振り返る


 お久しぶりです。最後の投稿が9月18日なので、なんと2か月放置😅。最後の投稿で書いたのですが、今学期より、ヘッドテーチャーになり、大変忙しくしておりました。今日も忙しいのだけど、ふとブログのことを思い出し、更新をと思いました。というくらい、ブログのことを思い出す時間もないほど、充実した毎日を送っていました。
 
 今週は、ストックホルムは大変な大雪に見舞われ、大騒ぎでした。そんな大雪も落ち着いたある日の夕方の様子です。私はこうした冬景色が大変好きです。

 

 更新しなかった間のニュースを3つ。

1つ目は、うちの学校に学校検査庁が来ました。スウェーデンの学校には学校検査庁があり、その調査は、「いくよ」という連絡が突然来ます。その連絡がきたのは、私がヘッドテーチャーになってすぐのことでした。副校長との会議の際に、まだ極秘だけどと教えてもらったのが、訪問の6週間前。そこからが大変でした。提出書類は、2週間後には出さないといけないので、その準備を手伝い、訪問前の準備に、会議に、自分のクラスや授業などの日常業務をこなし、とにかく、会議をしているか授業をしているか、その準備かという日が続きました。訪問は、11月の半ばにすでに終わり、結果がおそらくクリスマス前には来るのではといわれています。

2つ目は、ヘッドテーチャーの専門分野の取り組みと会議の準備でした。スウェーデンの学校は10月の終わりに秋学期があり、うちの学校は、1泊2日の宿泊研修でした。ストックホルム郊外のスパホテルに全職員で宿泊し、研修でした。その中で研修を受け持つことになっており、その準備をもう一人の先生としていました。こちらもなんどか好評に終わりました。また詳しく書きたいと思います。

3つ目は、特別支援教育士の勉強で、今年は最終学年。ちょうど、今最終論文を書き始めたところです。9月10月と研究法を取っていて、今は一緒に論文を書くスウェーデン人の方と一緒に下書きや論文方法を考えているところです。

と、こんな感じでした。今週は大雪の中、三社懇談を行い、こちらも大変でしたが、何とか終わり、ほっとしている今日です。明日は第一アドベント、いよいよクリスマスまでカウントダウンです。


 もう少し頻繁に更新をしていきたいと思いますので、よろしくお願いします。






2022年9月18日日曜日

スウェーデン・ストックホルムの公立学校のヘッドティーチャーになる

 この投稿は、旧ブログと過去投稿をリライトして投稿しています。

2022年7月16日に、初の単著「医療・福祉・教育・社会がつながるスウェーデンの多様な学校~子どもの発達を支える多職種協働システム」を刊行。是非ご一読を😊


 あんなに、ブログを頑張って書こうと思っていたのに、あっという間に1か月😅。もう少し定期的に投稿しないとなあと思いながら、書いております。足を運んでくださった皆様、ありがとうございます。

 何をそんなに忙しくしていたかというと、新学期が始まったというのも、もちろんなのですが、実は、スウェーデンストックホルム市の公立の最大の特別支援学校の、ヘッドティーチャーになりました。日本だと、主任教員とかいろいろあるのかなと思います。スウェーデンには、10年ほど前に導入されたキャリアアップ制度があり、種類は、2つ。

Förstelärare:ヘッドティーチャーと私は訳をしています。手当が月5000krつきます。

Lektor :講師という感じで、こちらは、最低でもマスターを持っていないといけなくて、月10,000krつきます。

 この他に、ストックホルム市は、「発展教員」みたいな名前のもありますが、これは、市独自のもので、他の市にはありません。私が今回なったのは、上記のヘッドティーチャーです。2年前まで勤めていた学校で6年間、ヘッドティーチャーをしていたので、まさかの復帰。辞めた時は、もうなるつもりなかったので、まさか2年で復帰するとは、しかもストックホルムの公立学校で、夢にも思っていませんでした。

 うちの学校には、ヘッドティーチャー何人もいますが、支援学校には今までいなかったので、今回は支援学校初となり、夏前に学校内公募がありました。かなりの数の先生が応募したので、まさか私がなるとは思っていなかったので、びっくりです。同僚たちに勧められて応募したのですが、まあならないだろうというのもあって、なってみて、ちょっとびっくりすることもありました。学校組織が大きいので、仕事も多岐に渡り、既に以下の内容を行っています。

  • 小中学校と合同の学校内の発達グループの一つ「安全グループ」のリーダーをもう一人の先生とペアーで行っています。生徒が安全に安心して学校生活を送るために活動する大変重要なグループで、小中学校と連携して、インクルーシブで多様な学校を目指してきた私にとっては、本当に素晴らしい役目をいただきました。といっても、実はこの役目があるとは知らなかった私。同僚の一人は、これが嫌で応募しなかったと。。。うん、私も知っていたら、ちょっと引いたかも。。。
  • 支援学校内の先生の会議のリーダー。内容を副校長と考えて、準備して会議を仕切ります。今学期のメインは、もうすぐやってくる学校検査庁の視察に向けての準備を含めたもので、前にやったことありますが、やっぱり、大変です。
  • スウェーデンの国内の研究者と参加学校と共に行う研究プロジェクト。こちらは、12月がスタートで、ストックホルム、マルメ、リンショーピングと会議の出張付きというもの。
とりあえず、今は上記の物だけですが、おそらく違う仕事も入るので、臨機応変に対応です。ちなみに、これらの仕事に対する充てられた時間はなく、月5000krの手当てで我慢するというものなので、本当に学校の発展が好きじゃないとやっていられないというのが多くの先生のお言葉です。


これ以外にも、私の学校は、近隣の支援学校とのネットワーク会議もあるし、2年目ですが、転職してよかったかなと思っています。また、特別支援教育士のコースも最終学年。クラスメイトとなんとか終わらせようと声を掛け合って、頑張っています。

 本当は、スウェーデンの選挙のことやいろいろ思うことはあるのですが、月2回は更新できるように頑張っていきたいと思います。写真は、8月の終わりに生徒と一緒にいったスカンセンのイベントにあった、選挙の投票練習ができるブースの様子です。





2022年8月19日金曜日

緊急告知!今週末オンラインイベント登壇!

  昨日8月18日に、新年度がスタートしました。今年は、学校外からの生徒の転入が私のクラスはなかったので、のんびりとした初日でした。そんな、新年度開始の週末に、こちらのイベントに登壇します!告知が少しおそくなりましたが、

植林をエンタメに!!第29回世界マグロプロジェクト 8月20日(土)21日(日)ツナがるオンラインイベント」


 私は、8月21日日曜日の日本時間16時、スウェーデン時間朝9時より登壇し、

「医療・福祉・教育・社会がつながるスウェーデンの多様な学校の現場から~人間の権利、全ての子どもの権利が守られる社会をめざして」


というテーマで45分話をさせていただきます。本の内容や紹介と共に、なぜ、スウェーデンで教員をしているのかということや、特別支援教育に関わるようになったきっかけ、今後への思いなども含めて話をできたらと思っています。


参加費は、植林プロジェクトに寄付されるこのイベント、本当に興味深い様々な分野で活躍する人の話を聞くことができます。是非、ご参加ください!


2022年8月13日土曜日

スウェーデンの学校の年度始めとは:ストックホルム公立学校2022/2023年度版

 この投稿は、旧ブログと過去投稿の年度始めの投稿をリライトして投稿しています。

2022年7月16日に、初の単著「医療・福祉・教育・社会がつながるスウェーデンの多様な学校~子どもの発達を支える多職種協働システム」を刊行。是非ご一読を😊

 木曜日に新年度が始まりました。ストックホルム市の公立学校は、たいていの場合、新しく採用された先生は10日にイントロダクションがあり、11日が全職員のスタートで、来週の木曜日18日より生徒が登校します。過去の投稿を読みながら、こんなことを新年度に思っていたんだなあと振り返っています。ということで、今日は、スウェーデンの学校の年度初めについてです。


2か月の夏の休暇明けの職場とは

 例年の投稿を読むと、やはり2か月弱も休むと、仕事開始の前は憂鬱になり、始まると、身体が慣れるまで大変でとあります。仕事が始まる憂鬱さは、ここ数年はあまりなくなりました。同僚の先生が話していたけど、仕事が始まるとみんなに会えるというのが楽しみと。私も同感で、毎日会っていた同僚たちに、2か月全く会わないので、こうして休み明けに会えるのは本当にうれしく思います。


校長の色が出る新年度の幕開け

 新年度の内容には、校長の色ともいえる、願い、教育への思いが出ると感じます。勤務した学校数はあまり多くないのですが、校長は変わっているので、結構な数の校長と働いてきました。校長がどんなふうに新年をキックオフするかは、大変興味深いです。

 初日の朝は、ホールでウェルカムサンドイッチとコーヒータイム。全職員が自由に話をしてお茶を飲む時間がありました。久しぶりに会う同僚たちとあいさつをして雑談で開始しました。その後、校長の新年度に当たっての話を聞きました。5年目の今年は、今までの4年間を振り返り、どんな風に学校が成長と発達を遂げてきたのかという話を聞きました。彼女の学校への思いが伝わり、素晴らしい話でした。やはり、リーダーというのは、ビジョンを明確に伝えられるかというのが重要だなあと思いました。休憩を挟んで、各学部に分かれて話が続きました。支援学校は、新任の副校長が着任したので、彼女の話を聞き、組織についての話がありました。午後は、引き続き、各学部での会議があり、全体会議、クラス会議、教員の会議(アシスタントはアシスタント会議)とありました。


ストックホルム最高の夏日に、キックオフ!

 スウェーデンの学校や企業は、キックオフと呼ばれる、スタートのイベントを行うことが多いです。私の勤務校も毎年キックオフがあり、今年も昨年と同じ、フランスのボール競技ペタンクを楽しみ、パエリアを食べて、年度始めをお祝いしました。以下は写真です。すっごく気分の良い夏日で、暑かったですが、みんなでしゃべって、遊んで、飲んで、食べて、最高の1日でした。



カギは時間割

 新年度のカギは、時間割です。何につけても時間割。なのに、今年は、担当者が変わったので、時間割が遅れており、来週の頭にしかわからないと(泣)。噂で流れてきたのは、体育の授業とプールの日が同じになっていると。生徒たちの体力的かもたないので、それは問題だと。この時間割は、0学年から9年生まで、基礎学校と支援学校の両方が同じ学校で動くので、変更が難しく、1年間これで動くことになるので、すごく重要です。どうなることか。。。


 こんな感じで新年度が始まりました。今年は、同じ学校で2年目なので、昨年に比べるとかなり余裕があります。楽しく学びの多い1年になるように頑張りたいと思います。




 

 

 

2022年8月10日水曜日

2か月弱の夏の休暇でも、なり手がいないスウェーデンの教員不足問題

 この投稿は、旧ブログの教員不足問題に関する投稿と共に、新たに書いて投稿しています。

2022年7月16日に、初の単著「医療・福祉・教育・社会がつながるスウェーデンの多様な学校~子どもの発達を支える多職種協働システム」を刊行。是非ご一読を😊


 教員のなり手がいない、担任なしで4月スタート、教員採用試験の倍率が過去最低といった声が日本から届きます。「解説!スウェーデンの学校の先生の労働環境~8週間弱の夏の休暇の秘密」だけ読むと、教員はさぞかし人気のある仕事だろうと思われた方もいるかもしれません。しかし、スウェーデンも日本と同様に、教員のなり手がいない、教員不足の国です。教員のなり手の減少は、おそらく世界的な流れではないかと想像しており、その要因は様々なものが考えられると思います。今日は、旧ブログの教員不足に関すると投稿と共に、2022年夏のスウェーデンの教員不足についてです。


スウェーデンの教員不足はいつから?

 旧ブログを始めた時には、既に教員不足に関して書いていたので、2008年には報道されるほどの問題になっていたと思います。2010年の学校法改訂と学校改革により、教員免許制度が導入され、教員不足問題は、「教員免許有資格者不足」というより明確な問題となり、現在の日本の状況に似ていると思います。

なぜ、スウェーデンで教員は人気がない職業なのか?

 複数の理由があると思います。スウェーデンでよく言われる理由を以下にまとめます。

  • スウェーデンで教員になっても儲からない、もとが取れない。スウェーデンでは、大学の授業料は無料ですが、学生は、生活費や教科書代などを学生支援金と共に、学生ローンを組んで自分で支払います。18歳になると成人となり、基本的に親が面倒を見るということはなくなる文化です。教員はプログラムにもよりますが、3年半から5年半かかり、その間に背負うことになるローンに見合うお給料が、先生になってももらえないという状況でした。同じくらいの期間学ぶ、例えばエンジニアとか法律家に比べると格段にもらえるお給料が少なかったのです。今は少し改善されています。
  • 労働環境が厳しい。夏の休暇は長く素晴らしいのですが、学期中の労働環境は厳しく、事務仕事も増え、成績や評価、特別な支援や付加的調整、保護者対応、いじめや差別、不登校などへの対応など、勤務時間内に仕事を終えることが難しくなり、ワークライフバランスが取りにくく、精神疾患を患う先生が多くなりました。幼稚園教諭・就学前学校教諭や特別支援学校の教諭に限れば、身体的体力的な部分により敬遠される場合もあります。
  • 「教える」仕事に集中できない。上記のようにいろんな仕事が増え、週の授業時間数が増えたり、受け持ちの生徒数が増えたりしたことにより、授業の準備や授業後の処理に時間が十分とれないことにより、教師という仕事に魅力を失う。
  • キャリアアップの道が少ない。学校組織には、キャリアを積んで自分の専門性を磨いていくシステムが少なく、ある一定期間教師をすると、管理職になるしかなかったため、管理職はちょっとと思うと、別の仕事に転職し教職を離れてしまいました。

スウェーデンの教員不足解消の政策は?

 スウェーデンの民主主義による福祉国家を維持していくためには、学校教育の質は欠かせません。学校教育、特に公教育だからこそできる、「将来国を担う納税者」になる子どもや若者に、この国の根本的な基盤となる民主主義の重要性、全ての人が持つ人間としての価値、参加して影響を与えていく個人などを伝えていく必要性があります。それを行えるのは、きちんと学んできた質の良い教師であり、その教師のなり手がいない国というのは、将来が危ぶまれるのです。そうした危機感を持って、スウェーデンでは、教員不足解消のために様々な政策を行ってきました。以下がそのいくつかになります。

  • お給料をアップした。教員のお給料を同等レベルの大学卒の職業と同じ程度に段階的に挙げてきました。国が、教員免許有資格者向けのお給料アップの財政出し、基礎自治体によって方法は少し変わりましたが、日本円で3~8万円ほどは一気に上がったと思われます。スウェーデンの教員は、個人給与設定なので、お給料がみんな違います。この時にやり方もスウェーデンらしくて、またお給料については別で書きたいと思います。その後も教員組合が頑張ったこともあり、教員のお給料が管理職や大学の教員に近づき、教員に戻る人も増えたというニュースもありました。
  • 労働環境の改善。労働環境を様々な形で改善し、今も続いています。大きな改革は、合理的配慮や特別な支援が必要な場合の改善プログラムのシステムを変えて、教員の書類作成の時間を大幅に削減しました。労働庁に訴える教員や学校も増え、労働環境を見直す学校や基礎自治体が増えました。私も「しなければいけない仕事」について、話し合う会議があり、参加しています。これは常に教師側が「自分の労働環境・みんなの労働環境」として組合と共に取り組んでいく内容です。
  • キャリアアップの道を作った。昔はなかった第一教諭や講師というキャリアップの道を作りました。
  • 無免許の先生や外国の教員免許を有する人を対象としたプログラムを作った。学校で働きたい、既に働いている人対象の国の支援を拡大して、有資格の拡大を行いました。既に働いている人には、働きながら学べる支援をしました。
  • 教員養成課程の見直しと新人教員のメンター制度の導入を行いました。これについては、また詳しく調べて、いつか書ければと思います。いろいろと問題もあります。

教員不足は解消されたのか?

 こうした政策により、教員不足は多少改善され、大学の教員養成コースへの入学者も増加しました。教員が足りない状況に変わりはありませんが、一度によくなることはなく、地道な国と基礎自治体の努力が必要であると思います。また、私たち教師自身も、教員組合と協力して、声を上げていく、何が足りないのか、現場から変えてくことがとても重要であると思います。

2022年現在の教員不足の状況は?

 学校庁が出している予想では、現在の教員不足の状態は、2035年まで続くと言われており、約12000人の新卒の教師・幼稚園教諭が必要であると発表しています。今年の予想では、今までの予想よりも状況が改善されたという朗報がともに出されましたが、教員組合などは、学校庁が楽観視していると反論し、実際に、状況が改善したのかどうかは、判断が難しいところです。

 以下が、スウェーデンの学校庁がまとめた、2021年から2035年までに必要となってくる教員の予想です。


 これによると、2025年までが最も不足しており、特に必要となってくるのが、基礎学校の先生と幼稚園教諭になります。基礎学校は日本の小中学校に当たり、4~6年生と中学校に当たる7~9年生の教員が特に足りないようです。幼稚園教諭の不足は、また別に書きたいと思うのですが、就学前学校の労働環境を変えない限り、状況は改善しないような気もします。図の中で一番下の紫の部分が幼稚園教諭ですが、将来的に、教員不足が解消されると予想されるところが多い中、増えていく傾向にあります。これには、上記で行われた多くの教員不足の対策が、学校教育を中心に行われ、就学前の教育にはあまり適応されなかったというのも大きいのではないかと思っています。


17年間スウェーデンの教育に関わってきて思うこと

 最後に、17年間スウェーデンの教育に関わってきて思うところをまとめて終わりたいと思います。

  • 教員不足問題を深刻に受け止め、様々な対策を出してきたことは、素晴らしいと思います。国際的に就職もできるようになり、様々な職業がある現代では、教員という仕事が昔ほど魅力がない、人気がなくなるというのは、想像できるところで、今後も国や行政側はその時代に合わせた対策や政策を行っていく必要があると思います。
  • 教員組合の努力と一人一人の教員の責任は大きいように思います。教員組合がとにかくよくがんばっていて、私も何度もお世話になりました。労働環境は、自分たちから言わないとわからないことも多く、個人のきちんと伝える責任は大きいと思います。こういうときに、素晴らしい同僚に恵まれ、共に組合と改善に乗り出すというのも何度か体験しました。
  • 教師という仕事の特性を理解して仕事を楽しみ、多職種で協働連携することの大切さを学びました。教師は素晴らしい仕事ですが、終わりが見えにくい仕事でもあります。まだできることが多くあり、子どもを思えば思うほど、終わりが見えません。そうした職業的特性をよく理解したうえで、他の様々な職種の人々と繋がり、専門性を見極めて、委ねていく、ということは、持続的な教員生活には欠かせないと思います。それが可能なスウェーデンの多様な学校を素晴らしいと思います。
  • 国内で多様な学校の在り方と様々な取り組みが行われています。1クラスの教師の数を増やしたり、一クラスの生徒の人数を減らしたり、アシスタントをいれたりと、フレキシブルに、その生徒・クラスのニーズに合わせて行われていることは、スウェーデンの強みであり、今後さらなる成果を期待するところです。

 まだまだ書きたいことはあるのですが、この辺りにしておこうと思います。細かい課題や問題は山のようにあるのですが、少しずつ書いていけたらと思いますので、また、ブログを覗いていただければと思います。

2022年8月9日火曜日

ジェンダー教育を行う、スウェーデンの幼稚園・保育園

 この投稿は、旧ブログの2009年6月25日のものをリライトして、再投稿しています。


 私は、スウェーデンの就学前学校(スウェーデンの学校システムについてはこちらを)で、3年ほど幼稚園教諭として働いていました。もう10年以上前の話です。その時に見学した就学前学校の写真を紹介します。同僚たちと夕方18時とかにストックホルム郊外の園に見学に行ったことを思い出します。

 その当時は、「Genuspedagogik」という「ジェンダー教育」が注目されており、それを見学研修に行きました。


掲示で、ジェンダーに対する考え方や、子どもたちへの思いなどが書かれていました。


壁の一面に棚がとりつけられており、そこにありとあらゆるおもちゃが写真と共に整理して並べられていました。おもちゃの中には、お人形から、レゴまでなんでもあり、男女を意識させないように、同じ箱にいれられていました。

 これを、昼食後の休み時間になると、まず、お話を読む休憩時間があり、その後、写真をつかって、どれで遊ぶかを決めさせているそうです。その際に、

  • 昨日遊んだものとは遊ばないように、
  • だれとあそぶか、
  • 一度決めた遊びは、少なくとも一定の時間は遊び、後片付けもさせている。

ということでした。こうしてシステム的に行うことによって、女の子も車で遊び、男の子も人形で遊ぶことが1週間のうちにあるということでした。

この幼稚園、環境教育、算数、言語にも力をいれていたし、幼稚園の中もかなりくふうされていました。そんな写真も順番に公開していこうと思います。



写真の棚に並んでいるのは、月曜日から、金曜日の箱です。昼食前のサークルタイムのときに使います。それぞれの箱にテーマに沿った歌や手遊びなどが、それを象徴するものと共に入っています。


さっきの棚の下が、こんな風に各分担、(日本で言う係りのようなものですね。)の掲示になっていました。そこに今日の子どもの写真をはっていくようです。
 

こんな袋やヨーグルトの容器を再利用した、サークルタイムで使うお話や歌の人形などが入ったものもありました。子どもは同じものを何度も聞いたりやったりするのが好きなので、こうしたちゃんと考えて選ばれたものを繰り返して行うというのは、良いシステムだと思いました。


これは、1-3歳児用のクラスだったと思うのですが、積み木が種類ごとに分けて整頓してありました。写真でどこにどれをもどすかわかるようになっており、自分で片付けもでき、算数の図形の基礎にもなるようです。



こちらが、3-5歳児用のクラスでみた図形についての掲示でした。ここの幼稚園は、幼稚園児のための算数の基礎を自然に取り入れようとしていました。


こんな作品もありました。


 スウェーデンでは、勉強の基礎となるものをいかに遊びとくっつけておこなうかというのが大切で、遊びの中で自然に子どもたちが学ぶには、保育者側のしっかりとした考えと計画が必要であると思います。

最後に、これ、トイレットペーパーで作った一人ひとりのお手紙入れだそうです。こちらの幼稚園では個人用の棚に手紙をくっつけたりする場合が多いのですが、落ちて紛失したりいろいろ問題があるので、このようにすることで手紙がはいっているとすぐわかりよいということでした。2022年の今は、多くの保護者への情報は、アプリやデジタル機器を使うことが多いです。

 この園を見学したのは2009年で、もう13年も前になるので、今はきっと大きく変わっているだろうなあと思います。日本からの見学者も受け入れていたので、行かれたことがある方もいらっしゃるかもしれません。また、今のスウェーデンの就学前学校も紹介したいと思います。







2022年8月8日月曜日

解説!スウェーデンの学校の先生の労働環境~8週間弱の夏の休暇の秘密

この投稿は、旧ブログの2010年4月2日と2012年6月1日のものを更新して、再投稿しています。


 8週間弱(7週間と6日)あった夏の休暇も、残り2日半になりました。ということで、今日は、スウェーデンの学校の先生の労働環境を解説!8週間弱の夏の休暇編です。

 今日解説するのは、スウェーデンで私のように「先生」をしている人に適応される労働形態の話になります。学校で働いていても、教員ではない場合は、雇用形態が異なります。


1.スウェーデンの教員の雇用形態

 スウェーデンの教員で最も一般的な雇用形態は、「Ferieanställning (フェーリエアンステルニング=ホリデー雇用」です。この雇用形態は、基礎学校と高校の先生のように学校がある学期中に仕事が集中する職業に適応されます。公立の学校の先生は一般的にこの雇用形態ですが、民営の学校の先生や先生以外の学校で働く人の雇用形態は、スウェーデンの労働者の主流である「Semesteranställning (セメステルアンステルニング=休暇雇用」の場合が多いです。


2.基本週45時間労働をするスウェーデンの先生

 具体的な労働時間は、週45時間労働をしています。(スウェーデンのフルタイムは、週40時間。職種によって組合と雇用主の合意で、40時間以下の場合もあり。)教員は、このフルタイム労働を年度(8月10日くらいから1年間)で計算し、年間1767時間働きます。(組合の合意によって多少差がありますが、1800時間は超えません。)この、1767時間を、最高194日(1年)で働きます。

1767時間のうち、1360時間は学校で仕事をする決められた労働時間、授業時間や会議、準備などで週35時間が一般的です。このうち、月1回程度で入る全職員会議が夕方にあるので、この時間を除いて、34時間くらいになっている場合が多いと思います。

 残りの407時間は、週に換算すると10時間を少し切るくらいになり、教員が家や学校などで、好きなように使える労働時間となります。この労働時間の内容は、何をどこでいつしたか、報告義務は無い(管理職は聞いてもいけない)ので、自由に使えます。必ず、週10時間しなくていけないということはなく、年間で407時間することが重要なので、繁忙期に集中してもよいです。私は、朝早く職場にいって、この時間を利用して集中的に仕事をし、残りを繁忙期に使用するようにしています。


3.スウェーデンの先生の休暇

 上記のように週45時間労働を基本とした年間労働時間で決まっていることにより、以下の休暇がスウェーデンの教員にはあります。

秋学期:秋休み2日が一般的、クリスマス休暇、約3週間弱

春学期:スポーツ休暇5日、イースター休暇、4日、夏の休暇、7週間から8週間

これらの日数は、その年の祝日やイースターの日程などによって変わってくるのですが、時間数はきっちり数えられます。日数にすると土日祝日を含めて、年間171日休みます。

 あと、こうした休暇には、基本的に学校からの連絡はなし、仕事はしないのが普通です。例外は、誰かが亡くなったとか緊急対応事案があった場合です。また、407時間は年間での時間なので、こうした休日に自分で勉強することに充ててもいいことになっています。


4.お給料について

 お給料は、月いくらとなっていて、そのお給料が夏の休暇中も出ます。もらう金額は同じですが、明細書には、夏のお休みの間のお給料は、「Ferieanställning (フェーリエアンステルニング=ホリデー雇用」雇用分のお金と書かれています。もしも、年度途中で転職したりすると、それまでに働いて貯めてあった夏のお給料を一度にもらい、夏の間は(もしも先生として雇用されていると)お給料が減る、もしくはなしということもあるので、もらった分を取っておく必要があります。

 

5.スウェーデンの教員の雇用形態の欠点

 「教員です。」というと、「いいわねえ。休みが多くて。」と言われることがあります。しかしながら欠点もあります。

  • 学期中は、休みがとりにくい。例えば春に日本に2週間帰国とかはしにくい。
  • 学期中に休むと、夏のお給料にも同時に減る。
  • 海外旅行は常にハイシーズン(泣)
  • オーバーワークは自己管理で、交渉をしっかりとしないといけない。(「それはできない」と強く言う自己管理が必要。)

 

6.学校職員のそのほかの雇用形態

 スウェーデンの学校には、教員以外の職員もたくさんいて、上記の雇用形態は「授業をする人」だけしか基本的には適応されないので、そのほかの職種の人は以下のような雇用となります。そういった職種には、校長、副校長、学校看護士、学校社会福祉士、社会教育士、ICTの先生、学童教員、生徒や先生のアシスタント、ランチルームや清掃の人などがあります。


  • 「Semesteranställning(休暇雇用)」で週40時間労働で、年間最低5週間(年齢と共に増える)という雇用形態があります。この休暇雇用の人は、学期途中でも休暇を取りやすいので、校長や副校長は、年度スタートが落ち着いた10月とかに、外国言って遅い夏休みを楽しむ人もいます。就学前学校の幼稚園教諭などに多いのが、この休暇雇用で、週の労働時間が、週35-38時間勤務になっていて、週2-3時間の準備時間がついているというものです。基礎自治体や園で独自の合意を交わしている場合が多いです。
  • 週40時間労働で、毎月のお給料が95%くらいに少し減り、夏休みなどの長期休暇がすべて休みになるという労働形態もあります。学校で働く先生以外の職業で、学校と合意があると可能な雇用形態です。個人の選択で選べるので、同僚なんかをみていると、お給料が多少減ってでも、長く休みたいという人や、他の仕事を夏の間すると言う人などがうまく利用しているように思います。

7.正規雇用でフレキシブルに働ける%雇用

 どの雇用形態であっても、パーセンテージで働くことが可能です。子どもが小さいうちは、いわゆる時短労働の権利も認められており、50%、75%、80%などで働く職員は多くいます。このパーセンテージは、正規・非正規に関わらず可能であり、契約上はフルタイムでも一時的に80%で働くということも可能です。時間数などは、フルタイムをもとに計算するので、50%なら週20時間という風になります。また、病気をした場合に、こうしたパーセンテージを減らして復職する人も多く、その場合は、減らした分のお給料の約80%が保険庁から出ます。


8.労働組合が強いスウェーデン

 スウェーデンは労働組合が強いので、基礎自治体や職種などによって、これらの労働条件に多少違いが出ます。組合加入率も高く、私も教員組合に入っています。組合については、また別で書きたいと思います。


 スウェーデンの学校の先生の労働環境と雇用について解説しました!こんなスウェーデンの先生の労働環境ですが、先生になりたい人は少なく、先生は人気がない職業です。それでも、少しずつ労働環境や問題に対処してきて、足りない教員の数は少しずつ回復傾向にあります。そうしたことも、また書けたらと思います。


 最後に夏のスウェーデンの様子を!








 

2022年8月6日土曜日

平和を願う8月6日、原子爆弾から生き延びた「被爆アオギリ」の歌

  この投稿は、2015年8月6日のものを更新して、再投稿しています。

 
 今日は8月6日、77年前の今日、広島に原子爆弾が投下されました。私がスウェーデンで初めて働いた特別支援学校は、広島県の西条特別支援学校と姉妹校のプロジェクトをしました。詳しい内容は「スウェーデンと日本の特別支援学校の姉妹校プロジェクトを振り返って」をご一読ください。このプロジェクトは、広島県内の全ての県立高校が外国に姉妹校を持ち、交流を行うというプロジェクトでした。スウェーデンと姉妹校になったのは、西条特別支援学校と私の学校、エレブロにある高校の福祉科も姉妹校になったそうです。


 姉妹校プロジェクトを行うまで知らなかった、「被爆アオギリ」という木について、姉妹校プロジェクトの中で教えていただきました。77年前の被爆にも負けずに生き残った木々の中の代表だそうで、平和公園内、原爆資料館東館の北側にあります。このアオギリの樹から、広島県内の学校に苗木が渡されるそうで、西条特別支援学校にもこのアオギリの樹がありました。希望をすると苗木がもらえるようで、修学旅行などで訪れた日本中の学校や世界にも渡されているようです。

 このアオギリの樹のそばで聴ける歌が、「アオギリの歌」です。

 歌は、2000年に広島市のミレニアム記念事業として「広島の歌」を公募し、小学3年生だった森光七彩さんが作詞作曲したそうです。

 「アオギリの歌」


電車にゆられ 平和公園
やっと会えたね アオギリさん
小学校の校庭の木のお母さん

たくさん たくさん たね生んで
家族が増えたんだね よかったね

遠い昔のきずあとを 直してくれる アオギリの風
遠いあの日のかなしいできごと


資料館で見た 平和の絵 
いろんな国の 人々や 
わたしが みんなが 考えてゆく広島を
勇気をあつめちかいます
争いのない国 平和の 灯

遠い昔のできごとを わすれずに思うアオギリの うた
これから生まれてゆく広島を大切に

広島の願いは ただひとつ 
世界のみんなの明るい笑顔


 広島の学校と姉妹校になってわかったことに、広島では岐阜県生まれの私が受けてきた教育にはない形で、平和学習に重点を置いて行われていることです。人類が決して忘れてはいけない、原子力爆弾の投下により多くの尊い命が一瞬にして亡くなったという事実を様々な形で子どもや若者に伝え、世界に伝えていく学習が行われています。8月6日の原爆投下の日に、この歌を聞き、平和記念式典の様子を見て、登校日になっている広島県内の学校で先生方が子ども達と向き合っている姿を想像し、胸が熱くなり、世界の平和を心から願います。

 
 このアオギリの歌、小学生の子が作ったという感じが少し残る、とても素直なメロディーで、広島の願いは、世界のみんなの明る笑顔というのにも心がとてもうたれます。広島の原爆の話などをしようとすると、わたしなどは難しく考えてしまうのですが、この歌詞には、率直な日本語であるからこそ伝わるものがあるように思います。姉妹校プロジェクトをしていたときに、この歌をスウェーデン語に訳して、音楽の先生と一緒にスウェーデン語版を作りました。懐かしく思い出します。
 
 遠い昔の出来事になりつつある、広島と長崎のできごとを忘れずに、全ての世界の人々が平和で暮らせる世界を願い、そのために私ができることを頑張っていきたいと思います。


2022年8月5日金曜日

発達と学びの権利を守る、スウェーデンの特別支援学校とインクルーシブ教育

この投稿は、旧ブログのインクルーシブ教育に関する投稿の中の特別支援学校に関連した内容をまとめて、リライトし、再投稿しています。

スウェーデンのインクルーシブ教育(2017年)」の投稿に続き、「スウェーデンの特別支援学校とインクルーシブ教育」について書きます。

1.入学が厳しいスウェーデンの特別支援学校

 スウェーデンでは、特別支援学校が一つの学校形態となっています。スウェーデンの学校教育システム」はこちらの投稿を是非。この特別支援学校の対象児童生徒になることは、大変難しくなっています。これには、移民や難民でスウェーデン語が十分に話せないといような「間違って、支援学校にいれられた生徒」が増えた時期があり、現在のように入学が厳しくなりました。入学するには、以下の4判定とともに知的障害の判定があり、初めて、特別支援学校対象児童生徒になり、入学することが可能になります。

  • 医師による医療判定
  • 心理学者による心理判定
  • 社会福祉士などによる社会判定
  • 特別支援教育士などによる教育判定

重要なのは、入学しなければいけない」ということではなく、「特別支援学校に行く権利」を与えあれることになります。親の希望が優先されるので、特別支援学校対象児童生徒であっても、基礎学校で、支援学校のカリキュラムに沿って学んでいる子どももいます。

2.「分離統合型」のスウェーデンのインクルーシブ教育

 スウェーデンの知的障害は、知能指数70で判定が出ます。この知能指数70が分け目となり、特別支援学校と基礎学校(普通学級)に児童生徒を分けています。どんな障害を持っていても、知能指数が70を越えると基礎学校で学び、知的な障害がない、自閉症や肢体不自由、視覚障害などの子どもたちは、全て基礎学校で必要な配慮や支援を受けて学びます。

 私は、このスウェーデンのシステムを「分離統合型インクルーシブ教育」と呼んでいます。知能指数70で「分離」して、「統合」する教育というふうに説明しています。スウェーデンの特別支援学校は、2011年の学校法の改訂に基づき、現在のように特別支援学校に通える条件に必ず知的障害があることということを明確に打ち出しました。{それ以前は、知的障害がない自閉症児も特別支援学校に通うことができました。)


3.2コース制のスウェーデンの特別支援学校

 スウェーデンの特別支援学校は、2コース制です。基礎学校(小中学校)の教科に準じた教科学習をする「教科学習コース」と、教科を5領域に分けた「領域学習コース」です。各コースの内容は次のようになります。

教科学習コース:スウェーデン語(第2言語としてのスウェーデン語)、算数、英語、自然科学(理科)、社会科学(社会)、体育、音楽、手仕事、美術、テクニック(技術)、家庭科、母国語(希望者)

領域学習コース:芸術領域、運動領域、言語領域、日常活動領域、社会理解領域。

 教科学習コースは、希望者に成績を出しますが、領域学習コースは、評価のみです。この2コースの生徒は、各コースごとでクラス編成されることもありますし、両方のコースを混ぜたクラス編成もします。私が受け持っているクラスは、混合型なので、常に両方のコースカリキュラムをもとに授業を行っています。


4.多様な学びができるスウェーデンの特別支援学校

 スウェーデンの特別支援学校の大きな特徴は、その子の能力にあった多様な学びができることです。いくつか例を挙げて、その多様な学びを紹介します。

  • 教科学習コースで学んでいるAさんは、英語がとても得意で、英語だけは、基礎学校の同じ学年の生徒と一緒に学んでいます。最初は、特別支援学校のカリキュラムで学んでいましたが、支援学校の到達目標に達したので、今は、英語だけ、基礎学校のカリキュラムで、基礎学校のクラスで学んでいます。
  • 領域学習コースのBさんは、教科学習コースの生徒が一緒の混合クラスになり、コミュニケーションの補助器具の支援を受けたこともあり、興味がある自然科学と社会科学は、教科学習コースのカリキュラムで勉強しています。
  • 基礎学校の3年のクラスで学ぶCさんは、支援学校の教科学習のカリキュラムで基礎学校の生徒たちと一緒に学んでいます。

 これは一例ですが、その子の特性やニーズに合わせて、その子が興味を持っている1教科からでも、多様な学びの形を追求できるカリキュラムになっています。スウェーデンの分離統合型インクルーシブ教育の素晴らしい点は、この「全ての子どもの持っている能力を最大限に伸ばし、発達と学びの保障」を可能にするインクルーシブ教育です。この分離統合型インクルーシブ教育は、インクルーシブ教育の理想を、「いかに現実化していくか」という点においても、一つの形として価値のあるものであると思います。

時事ドットコムの「学びと発達の権利」とは?福祉の国、スウェーデンの特別支援学校事情も併せて是非。



(旧ブログの2009年5月12日、2009年7月15日、2012年9月10日の投稿をもとに、リライトしました。)

本で知ることができない、スウェーデンのインクルーシブ教育とは【2017年版】

この投稿は、2017年2月26日と27日のものを更新して、再投稿しています。

 このブログで、最も多くの方が読んでくださった投稿の一つが、この「スウェーデンのインクルーシブ教育」についてです。今の情報に書き直すのも一つかなと思ったのですが、インクルーシブ教育の変遷として、この投稿をオリジナルで残しながら、読みやすい形に直し、「2017年」とタイトルに入れることにしました。情報は、2017年現在のものになります。最新の2022年情報も今後新たに投稿したいと思います。


1.スウェーデン語のインクルーシブ教育とは

 スウェーデン語で、インクルーシブ教育のことを「Inkludering(インクルデーリング)」 と呼ぶのが一般的です。インクルーシブ教育の行われている学校を「Inkluderande skola(インクルデーランデ スクーラン)」と呼んだりします。

2.スウェーデンのインクルーシブ教育の定義とは

 どんな学校のことをインクルーシブ教育と呼ぶかというと、2013年に出された特別支援教育専門機関によれば、
  • 様々なレベルでの帰属感、共通意識がある
  • たった一つのシステムであること(「普通の」生徒と「そうでない」生徒に分けたシステムでないこと)
  • 共通、同等の民主主義があること
  • 生徒たちの参加があること
  • 「違い」が良いものとして捉えられていること
とあります。上記のことが普通のこととして行われている学校がインクルーシブ教育を行っている学校ということになります。

3.スウェーデンの学校はインクルーシブ教育を行っているの?

 実際にスウェーデン中がこういう学校なのかというと、「そうです」と即答できない難しさがありますが、スウェーデンのインクルーシブ教育は、一人一人の子どもが持っている能力を最大限に伸ばすことができる、学びと発達の権利を保障したインクルーシブ教育の形であると思います。しかしながら、特別支援学校があり、知的障害があるかないかによって分離されたうえで、親の希望により、基礎学校の学びが提供されていることや、特別学校という聾・聾重複の学校がある(盲学校はない。)ことにより、解釈の仕方によって意見の分かれるところであると思います。スウェーデンの学校教育システムについてはこちらをご一読くだささい。

4.スウェーデンで最もインクルーシブ教育が進んでいる就学前学校

 統計などではなく、私の印象ですが、スウェーデンで最もインテグレーションが進んでいるのは、就学前学校、いわゆる幼稚園や保育園に当たる幼児教育・就学前教育だと思います。以前に書いたパラサポWEBの「スウェーデンに学ぶ、幼児教育の最前線インクルーシブ教育」もぜひご一読ください。

 小さい頃は、住んでいる地域で、みんなで同じ場所で過ごすという考えが浸透しており、自宅近くの就学前学校に通います。都市部で重度の障害がある場合は、特別な就学前学校がある場合もありますので、そこに通う選択肢もあります。また、就学前学校の中に自閉症のクラスがあったり、子どもの人数を減らしたクラスがあったりもします。入園が決まると、その子どものニーズに合わせて、職員の配置がされたり、公立の就学前学校であれば、コミューンの特別支援教育の専門教員が時折きて、職員指導などをしている場合を多く見受けます。
 日本のように「療育」という感じの保育を行なっておらず、日本の都道府県レベルに当たるラーンスティングによって運営されている「ハビリテーリング」という機関が障害を持った子どもたちの家庭や就学前学校でのサポートにあたります。


5.特別支援学校はあるの?

 スウェーデンにも、日本の特別支援学校にあたる「基礎特別支援学校」があります。スウェーデンの学校教育システムについてはこちらをご参照ください。スウェーデンの特別支援学校の多くは、基礎学校と呼ばれる日本の小中学校に当たる学校と同じ敷地内にある場合がほとんどであり、「場の統合」は行われています。私が働いている学校は、スウェーデンの首都ストックホルム最大の特別支援学校になりますが、見学に来る方の印象は、日本の「特別支援学級」のイメージをもたれると思います。スウェーデンのインクルーシブ教育と特別支援学校については、「発達と学びの権利を守る、スウェーデンの特別支援学校とインクルーシブ教育」の投稿をご一読ください。

6.特別支援学級や通級学級などはあるの?

 基礎学校には、何かしらの理由でクラスで学ぶことが難しい生徒のための「少人数の学習集団」があります。2011年の学校改革の後、スウェーデンでは、しばらく、こうした少人数の学習集団のような特別なクラスを設定はしない学校が一般的になりました。これは、2010年に出た学校法の解釈の問題とされ、現在は、少人数の学習集団は一般的です。この学習集団で学ぶ生徒は、知的障害がない、何かしらの理由で母体級で学ぶことが難しい生徒になります。また、このクラスに最初から所属することはできず、所属クラスでの様々な合理的配慮によっても、共に学習することが難しい場合に、こうしたクラスで学ぶことになります。

7.スウェーデンのインクルーシブ教育で大切だと言われていること

 スウェーデンのインクルーシブ教育で重要だとされるのが、「個人がどのように感じているか」という部分です。
  • 帰属意識が感じられる
  • 仲間の一員としての実感がある
  • それぞれの個性、障害を含めた違いを可能性、良いものとして見ることができていること
以上の点が特に重要であると言われています。これに加えて、こうしたインクルーシブ教育を実現するためには、学校に関われる人々がインクルーシブ教育を実現するという熱意を持つことであると言われています。個人の感情、気持ちに深く関わるのですから、やはり、それを変えるのは、人々の熱意、やる気が重要なのでしょう。法改正が行われ、学校も変化していますが、そこにいる人々が知識を持ち、気持ちが変わらない限り、インクルーシブ教育がそれなりの形で行われるということは難しいのであると思います。

8.スウェーデンの学校のインクルーシブ教育を支えるしくみ


 スウェーデンのインクルーシブ教育を支えるしくみが、学校法によって、スウェーデンの全ての学校に設置義務のある
「Elevhälsa (生徒の健康)」です。クラスの中に問題を持った子どもがいると、まず、「Extra anpassningar (不可的調整)」が行われます。これには、例えば、机の配置やグループ関係、読み上げ機能などのITの使用と言ったような配慮が含まれます。
 こうした付加的調整にも関わらず、状況が改善されない場合には、専門家チームである「Elevhälsa 生徒の健康チーム」でで話し合いが行われます。そこから「åtgärdsprogram(改善プログラム)」というプログラムが組まれ、更なる特別な支援や援助が行われることになります。この改善プログラムは、2016/2017年度の小中学校に通う生徒のうちの5.6%が受けました。( Skolverketの資料より)改善プログラムが組まれる際には、保護者にも連絡され、家庭と連携して行っていきます。
 生徒の健康チームには、必ず特別支援教育の専門教員がおり、こういった生徒たちの対応を個別もしくは、担当教員と当たっています。専門教員は、取り出し型の教育を行ったり、クラス担任に教室の中でどのような支援、援助を行うと良いかというアドバイスをしたりします。このほかに、特別支援教員の大きな役割が、早期発見にあると思います。小学0年生から、これらの教員により、簡単なテストが定期的に行われ、言語面で遅れがある子を見つけ出し、早期に援助を行うということが行われています。こちらも大体の学校にどのような流れでするかというのが決まっているので、いつか紹介できればと思います。


 スウェーデンのインクルーシブ教育を17年間見てきて感じることは、生徒個人にとって最良と思われる形、子どもの最善を常に模索して行うことに重きが置かれており、全ての子どもに発達と学びの保障をしながら、インクルーシブ教育を時代に合わせて発展させている点でしょう。