2022年8月19日金曜日

緊急告知!今週末オンラインイベント登壇!

  昨日8月18日に、新年度がスタートしました。今年は、学校外からの生徒の転入が私のクラスはなかったので、のんびりとした初日でした。そんな、新年度開始の週末に、こちらのイベントに登壇します!告知が少しおそくなりましたが、

植林をエンタメに!!第29回世界マグロプロジェクト 8月20日(土)21日(日)ツナがるオンラインイベント」


 私は、8月21日日曜日の日本時間16時、スウェーデン時間朝9時より登壇し、

「医療・福祉・教育・社会がつながるスウェーデンの多様な学校の現場から~人間の権利、全ての子どもの権利が守られる社会をめざして」


というテーマで45分話をさせていただきます。本の内容や紹介と共に、なぜ、スウェーデンで教員をしているのかということや、特別支援教育に関わるようになったきっかけ、今後への思いなども含めて話をできたらと思っています。


参加費は、植林プロジェクトに寄付されるこのイベント、本当に興味深い様々な分野で活躍する人の話を聞くことができます。是非、ご参加ください!


2022年8月13日土曜日

スウェーデンの学校の年度始めとは:ストックホルム公立学校2022/2023年度版

 この投稿は、旧ブログと過去投稿の年度始めの投稿をリライトして投稿しています。

2022年7月16日に、初の単著「医療・福祉・教育・社会がつながるスウェーデンの多様な学校~子どもの発達を支える多職種協働システム」を刊行。是非ご一読を😊

 木曜日に新年度が始まりました。ストックホルム市の公立学校は、たいていの場合、新しく採用された先生は10日にイントロダクションがあり、11日が全職員のスタートで、来週の木曜日18日より生徒が登校します。過去の投稿を読みながら、こんなことを新年度に思っていたんだなあと振り返っています。ということで、今日は、スウェーデンの学校の年度初めについてです。


2か月の夏の休暇明けの職場とは

 例年の投稿を読むと、やはり2か月弱も休むと、仕事開始の前は憂鬱になり、始まると、身体が慣れるまで大変でとあります。仕事が始まる憂鬱さは、ここ数年はあまりなくなりました。同僚の先生が話していたけど、仕事が始まるとみんなに会えるというのが楽しみと。私も同感で、毎日会っていた同僚たちに、2か月全く会わないので、こうして休み明けに会えるのは本当にうれしく思います。


校長の色が出る新年度の幕開け

 新年度の内容には、校長の色ともいえる、願い、教育への思いが出ると感じます。勤務した学校数はあまり多くないのですが、校長は変わっているので、結構な数の校長と働いてきました。校長がどんなふうに新年をキックオフするかは、大変興味深いです。

 初日の朝は、ホールでウェルカムサンドイッチとコーヒータイム。全職員が自由に話をしてお茶を飲む時間がありました。久しぶりに会う同僚たちとあいさつをして雑談で開始しました。その後、校長の新年度に当たっての話を聞きました。5年目の今年は、今までの4年間を振り返り、どんな風に学校が成長と発達を遂げてきたのかという話を聞きました。彼女の学校への思いが伝わり、素晴らしい話でした。やはり、リーダーというのは、ビジョンを明確に伝えられるかというのが重要だなあと思いました。休憩を挟んで、各学部に分かれて話が続きました。支援学校は、新任の副校長が着任したので、彼女の話を聞き、組織についての話がありました。午後は、引き続き、各学部での会議があり、全体会議、クラス会議、教員の会議(アシスタントはアシスタント会議)とありました。


ストックホルム最高の夏日に、キックオフ!

 スウェーデンの学校や企業は、キックオフと呼ばれる、スタートのイベントを行うことが多いです。私の勤務校も毎年キックオフがあり、今年も昨年と同じ、フランスのボール競技ペタンクを楽しみ、パエリアを食べて、年度始めをお祝いしました。以下は写真です。すっごく気分の良い夏日で、暑かったですが、みんなでしゃべって、遊んで、飲んで、食べて、最高の1日でした。



カギは時間割

 新年度のカギは、時間割です。何につけても時間割。なのに、今年は、担当者が変わったので、時間割が遅れており、来週の頭にしかわからないと(泣)。噂で流れてきたのは、体育の授業とプールの日が同じになっていると。生徒たちの体力的かもたないので、それは問題だと。この時間割は、0学年から9年生まで、基礎学校と支援学校の両方が同じ学校で動くので、変更が難しく、1年間これで動くことになるので、すごく重要です。どうなることか。。。


 こんな感じで新年度が始まりました。今年は、同じ学校で2年目なので、昨年に比べるとかなり余裕があります。楽しく学びの多い1年になるように頑張りたいと思います。




 

 

 

2022年8月10日水曜日

2か月弱の夏の休暇でも、なり手がいないスウェーデンの教員不足問題

 この投稿は、旧ブログの教員不足問題に関する投稿と共に、新たに書いて投稿しています。

2022年7月16日に、初の単著「医療・福祉・教育・社会がつながるスウェーデンの多様な学校~子どもの発達を支える多職種協働システム」を刊行。是非ご一読を😊


 教員のなり手がいない、担任なしで4月スタート、教員採用試験の倍率が過去最低といった声が日本から届きます。「解説!スウェーデンの学校の先生の労働環境~8週間弱の夏の休暇の秘密」だけ読むと、教員はさぞかし人気のある仕事だろうと思われた方もいるかもしれません。しかし、スウェーデンも日本と同様に、教員のなり手がいない、教員不足の国です。教員のなり手の減少は、おそらく世界的な流れではないかと想像しており、その要因は様々なものが考えられると思います。今日は、旧ブログの教員不足に関すると投稿と共に、2022年夏のスウェーデンの教員不足についてです。


スウェーデンの教員不足はいつから?

 旧ブログを始めた時には、既に教員不足に関して書いていたので、2008年には報道されるほどの問題になっていたと思います。2010年の学校法改訂と学校改革により、教員免許制度が導入され、教員不足問題は、「教員免許有資格者不足」というより明確な問題となり、現在の日本の状況に似ていると思います。

なぜ、スウェーデンで教員は人気がない職業なのか?

 複数の理由があると思います。スウェーデンでよく言われる理由を以下にまとめます。

  • スウェーデンで教員になっても儲からない、もとが取れない。スウェーデンでは、大学の授業料は無料ですが、学生は、生活費や教科書代などを学生支援金と共に、学生ローンを組んで自分で支払います。18歳になると成人となり、基本的に親が面倒を見るということはなくなる文化です。教員はプログラムにもよりますが、3年半から5年半かかり、その間に背負うことになるローンに見合うお給料が、先生になってももらえないという状況でした。同じくらいの期間学ぶ、例えばエンジニアとか法律家に比べると格段にもらえるお給料が少なかったのです。今は少し改善されています。
  • 労働環境が厳しい。夏の休暇は長く素晴らしいのですが、学期中の労働環境は厳しく、事務仕事も増え、成績や評価、特別な支援や付加的調整、保護者対応、いじめや差別、不登校などへの対応など、勤務時間内に仕事を終えることが難しくなり、ワークライフバランスが取りにくく、精神疾患を患う先生が多くなりました。幼稚園教諭・就学前学校教諭や特別支援学校の教諭に限れば、身体的体力的な部分により敬遠される場合もあります。
  • 「教える」仕事に集中できない。上記のようにいろんな仕事が増え、週の授業時間数が増えたり、受け持ちの生徒数が増えたりしたことにより、授業の準備や授業後の処理に時間が十分とれないことにより、教師という仕事に魅力を失う。
  • キャリアアップの道が少ない。学校組織には、キャリアを積んで自分の専門性を磨いていくシステムが少なく、ある一定期間教師をすると、管理職になるしかなかったため、管理職はちょっとと思うと、別の仕事に転職し教職を離れてしまいました。

スウェーデンの教員不足解消の政策は?

 スウェーデンの民主主義による福祉国家を維持していくためには、学校教育の質は欠かせません。学校教育、特に公教育だからこそできる、「将来国を担う納税者」になる子どもや若者に、この国の根本的な基盤となる民主主義の重要性、全ての人が持つ人間としての価値、参加して影響を与えていく個人などを伝えていく必要性があります。それを行えるのは、きちんと学んできた質の良い教師であり、その教師のなり手がいない国というのは、将来が危ぶまれるのです。そうした危機感を持って、スウェーデンでは、教員不足解消のために様々な政策を行ってきました。以下がそのいくつかになります。

  • お給料をアップした。教員のお給料を同等レベルの大学卒の職業と同じ程度に段階的に挙げてきました。国が、教員免許有資格者向けのお給料アップの財政出し、基礎自治体によって方法は少し変わりましたが、日本円で3~8万円ほどは一気に上がったと思われます。スウェーデンの教員は、個人給与設定なので、お給料がみんな違います。この時にやり方もスウェーデンらしくて、またお給料については別で書きたいと思います。その後も教員組合が頑張ったこともあり、教員のお給料が管理職や大学の教員に近づき、教員に戻る人も増えたというニュースもありました。
  • 労働環境の改善。労働環境を様々な形で改善し、今も続いています。大きな改革は、合理的配慮や特別な支援が必要な場合の改善プログラムのシステムを変えて、教員の書類作成の時間を大幅に削減しました。労働庁に訴える教員や学校も増え、労働環境を見直す学校や基礎自治体が増えました。私も「しなければいけない仕事」について、話し合う会議があり、参加しています。これは常に教師側が「自分の労働環境・みんなの労働環境」として組合と共に取り組んでいく内容です。
  • キャリアアップの道を作った。昔はなかった第一教諭や講師というキャリアップの道を作りました。
  • 無免許の先生や外国の教員免許を有する人を対象としたプログラムを作った。学校で働きたい、既に働いている人対象の国の支援を拡大して、有資格の拡大を行いました。既に働いている人には、働きながら学べる支援をしました。
  • 教員養成課程の見直しと新人教員のメンター制度の導入を行いました。これについては、また詳しく調べて、いつか書ければと思います。いろいろと問題もあります。

教員不足は解消されたのか?

 こうした政策により、教員不足は多少改善され、大学の教員養成コースへの入学者も増加しました。教員が足りない状況に変わりはありませんが、一度によくなることはなく、地道な国と基礎自治体の努力が必要であると思います。また、私たち教師自身も、教員組合と協力して、声を上げていく、何が足りないのか、現場から変えてくことがとても重要であると思います。

2022年現在の教員不足の状況は?

 学校庁が出している予想では、現在の教員不足の状態は、2035年まで続くと言われており、約12000人の新卒の教師・幼稚園教諭が必要であると発表しています。今年の予想では、今までの予想よりも状況が改善されたという朗報がともに出されましたが、教員組合などは、学校庁が楽観視していると反論し、実際に、状況が改善したのかどうかは、判断が難しいところです。

 以下が、スウェーデンの学校庁がまとめた、2021年から2035年までに必要となってくる教員の予想です。


 これによると、2025年までが最も不足しており、特に必要となってくるのが、基礎学校の先生と幼稚園教諭になります。基礎学校は日本の小中学校に当たり、4~6年生と中学校に当たる7~9年生の教員が特に足りないようです。幼稚園教諭の不足は、また別に書きたいと思うのですが、就学前学校の労働環境を変えない限り、状況は改善しないような気もします。図の中で一番下の紫の部分が幼稚園教諭ですが、将来的に、教員不足が解消されると予想されるところが多い中、増えていく傾向にあります。これには、上記で行われた多くの教員不足の対策が、学校教育を中心に行われ、就学前の教育にはあまり適応されなかったというのも大きいのではないかと思っています。


17年間スウェーデンの教育に関わってきて思うこと

 最後に、17年間スウェーデンの教育に関わってきて思うところをまとめて終わりたいと思います。

  • 教員不足問題を深刻に受け止め、様々な対策を出してきたことは、素晴らしいと思います。国際的に就職もできるようになり、様々な職業がある現代では、教員という仕事が昔ほど魅力がない、人気がなくなるというのは、想像できるところで、今後も国や行政側はその時代に合わせた対策や政策を行っていく必要があると思います。
  • 教員組合の努力と一人一人の教員の責任は大きいように思います。教員組合がとにかくよくがんばっていて、私も何度もお世話になりました。労働環境は、自分たちから言わないとわからないことも多く、個人のきちんと伝える責任は大きいと思います。こういうときに、素晴らしい同僚に恵まれ、共に組合と改善に乗り出すというのも何度か体験しました。
  • 教師という仕事の特性を理解して仕事を楽しみ、多職種で協働連携することの大切さを学びました。教師は素晴らしい仕事ですが、終わりが見えにくい仕事でもあります。まだできることが多くあり、子どもを思えば思うほど、終わりが見えません。そうした職業的特性をよく理解したうえで、他の様々な職種の人々と繋がり、専門性を見極めて、委ねていく、ということは、持続的な教員生活には欠かせないと思います。それが可能なスウェーデンの多様な学校を素晴らしいと思います。
  • 国内で多様な学校の在り方と様々な取り組みが行われています。1クラスの教師の数を増やしたり、一クラスの生徒の人数を減らしたり、アシスタントをいれたりと、フレキシブルに、その生徒・クラスのニーズに合わせて行われていることは、スウェーデンの強みであり、今後さらなる成果を期待するところです。

 まだまだ書きたいことはあるのですが、この辺りにしておこうと思います。細かい課題や問題は山のようにあるのですが、少しずつ書いていけたらと思いますので、また、ブログを覗いていただければと思います。

2022年8月9日火曜日

ジェンダー教育を行う、スウェーデンの幼稚園・保育園

 この投稿は、旧ブログの2009年6月25日のものをリライトして、再投稿しています。


 私は、スウェーデンの就学前学校(スウェーデンの学校システムについてはこちらを)で、3年ほど幼稚園教諭として働いていました。もう10年以上前の話です。その時に見学した就学前学校の写真を紹介します。同僚たちと夕方18時とかにストックホルム郊外の園に見学に行ったことを思い出します。

 その当時は、「Genuspedagogik」という「ジェンダー教育」が注目されており、それを見学研修に行きました。


掲示で、ジェンダーに対する考え方や、子どもたちへの思いなどが書かれていました。


壁の一面に棚がとりつけられており、そこにありとあらゆるおもちゃが写真と共に整理して並べられていました。おもちゃの中には、お人形から、レゴまでなんでもあり、男女を意識させないように、同じ箱にいれられていました。

 これを、昼食後の休み時間になると、まず、お話を読む休憩時間があり、その後、写真をつかって、どれで遊ぶかを決めさせているそうです。その際に、

  • 昨日遊んだものとは遊ばないように、
  • だれとあそぶか、
  • 一度決めた遊びは、少なくとも一定の時間は遊び、後片付けもさせている。

ということでした。こうしてシステム的に行うことによって、女の子も車で遊び、男の子も人形で遊ぶことが1週間のうちにあるということでした。

この幼稚園、環境教育、算数、言語にも力をいれていたし、幼稚園の中もかなりくふうされていました。そんな写真も順番に公開していこうと思います。



写真の棚に並んでいるのは、月曜日から、金曜日の箱です。昼食前のサークルタイムのときに使います。それぞれの箱にテーマに沿った歌や手遊びなどが、それを象徴するものと共に入っています。


さっきの棚の下が、こんな風に各分担、(日本で言う係りのようなものですね。)の掲示になっていました。そこに今日の子どもの写真をはっていくようです。
 

こんな袋やヨーグルトの容器を再利用した、サークルタイムで使うお話や歌の人形などが入ったものもありました。子どもは同じものを何度も聞いたりやったりするのが好きなので、こうしたちゃんと考えて選ばれたものを繰り返して行うというのは、良いシステムだと思いました。


これは、1-3歳児用のクラスだったと思うのですが、積み木が種類ごとに分けて整頓してありました。写真でどこにどれをもどすかわかるようになっており、自分で片付けもでき、算数の図形の基礎にもなるようです。



こちらが、3-5歳児用のクラスでみた図形についての掲示でした。ここの幼稚園は、幼稚園児のための算数の基礎を自然に取り入れようとしていました。


こんな作品もありました。


 スウェーデンでは、勉強の基礎となるものをいかに遊びとくっつけておこなうかというのが大切で、遊びの中で自然に子どもたちが学ぶには、保育者側のしっかりとした考えと計画が必要であると思います。

最後に、これ、トイレットペーパーで作った一人ひとりのお手紙入れだそうです。こちらの幼稚園では個人用の棚に手紙をくっつけたりする場合が多いのですが、落ちて紛失したりいろいろ問題があるので、このようにすることで手紙がはいっているとすぐわかりよいということでした。2022年の今は、多くの保護者への情報は、アプリやデジタル機器を使うことが多いです。

 この園を見学したのは2009年で、もう13年も前になるので、今はきっと大きく変わっているだろうなあと思います。日本からの見学者も受け入れていたので、行かれたことがある方もいらっしゃるかもしれません。また、今のスウェーデンの就学前学校も紹介したいと思います。







2022年8月8日月曜日

解説!スウェーデンの学校の先生の労働環境~8週間弱の夏の休暇の秘密

この投稿は、旧ブログの2010年4月2日と2012年6月1日のものを更新して、再投稿しています。


 8週間弱(7週間と6日)あった夏の休暇も、残り2日半になりました。ということで、今日は、スウェーデンの学校の先生の労働環境を解説!8週間弱の夏の休暇編です。

 今日解説するのは、スウェーデンで私のように「先生」をしている人に適応される労働形態の話になります。学校で働いていても、教員ではない場合は、雇用形態が異なります。


1.スウェーデンの教員の雇用形態

 スウェーデンの教員で最も一般的な雇用形態は、「Ferieanställning (フェーリエアンステルニング=ホリデー雇用」です。この雇用形態は、基礎学校と高校の先生のように学校がある学期中に仕事が集中する職業に適応されます。公立の学校の先生は一般的にこの雇用形態ですが、民営の学校の先生や先生以外の学校で働く人の雇用形態は、スウェーデンの労働者の主流である「Semesteranställning (セメステルアンステルニング=休暇雇用」の場合が多いです。


2.基本週45時間労働をするスウェーデンの先生

 具体的な労働時間は、週45時間労働をしています。(スウェーデンのフルタイムは、週40時間。職種によって組合と雇用主の合意で、40時間以下の場合もあり。)教員は、このフルタイム労働を年度(8月10日くらいから1年間)で計算し、年間1767時間働きます。(組合の合意によって多少差がありますが、1800時間は超えません。)この、1767時間を、最高194日(1年)で働きます。

1767時間のうち、1360時間は学校で仕事をする決められた労働時間、授業時間や会議、準備などで週35時間が一般的です。このうち、月1回程度で入る全職員会議が夕方にあるので、この時間を除いて、34時間くらいになっている場合が多いと思います。

 残りの407時間は、週に換算すると10時間を少し切るくらいになり、教員が家や学校などで、好きなように使える労働時間となります。この労働時間の内容は、何をどこでいつしたか、報告義務は無い(管理職は聞いてもいけない)ので、自由に使えます。必ず、週10時間しなくていけないということはなく、年間で407時間することが重要なので、繁忙期に集中してもよいです。私は、朝早く職場にいって、この時間を利用して集中的に仕事をし、残りを繁忙期に使用するようにしています。


3.スウェーデンの先生の休暇

 上記のように週45時間労働を基本とした年間労働時間で決まっていることにより、以下の休暇がスウェーデンの教員にはあります。

秋学期:秋休み2日が一般的、クリスマス休暇、約3週間弱

春学期:スポーツ休暇5日、イースター休暇、4日、夏の休暇、7週間から8週間

これらの日数は、その年の祝日やイースターの日程などによって変わってくるのですが、時間数はきっちり数えられます。日数にすると土日祝日を含めて、年間171日休みます。

 あと、こうした休暇には、基本的に学校からの連絡はなし、仕事はしないのが普通です。例外は、誰かが亡くなったとか緊急対応事案があった場合です。また、407時間は年間での時間なので、こうした休日に自分で勉強することに充ててもいいことになっています。


4.お給料について

 お給料は、月いくらとなっていて、そのお給料が夏の休暇中も出ます。もらう金額は同じですが、明細書には、夏のお休みの間のお給料は、「Ferieanställning (フェーリエアンステルニング=ホリデー雇用」雇用分のお金と書かれています。もしも、年度途中で転職したりすると、それまでに働いて貯めてあった夏のお給料を一度にもらい、夏の間は(もしも先生として雇用されていると)お給料が減る、もしくはなしということもあるので、もらった分を取っておく必要があります。

 

5.スウェーデンの教員の雇用形態の欠点

 「教員です。」というと、「いいわねえ。休みが多くて。」と言われることがあります。しかしながら欠点もあります。

  • 学期中は、休みがとりにくい。例えば春に日本に2週間帰国とかはしにくい。
  • 学期中に休むと、夏のお給料にも同時に減る。
  • 海外旅行は常にハイシーズン(泣)
  • オーバーワークは自己管理で、交渉をしっかりとしないといけない。(「それはできない」と強く言う自己管理が必要。)

 

6.学校職員のそのほかの雇用形態

 スウェーデンの学校には、教員以外の職員もたくさんいて、上記の雇用形態は「授業をする人」だけしか基本的には適応されないので、そのほかの職種の人は以下のような雇用となります。そういった職種には、校長、副校長、学校看護士、学校社会福祉士、社会教育士、ICTの先生、学童教員、生徒や先生のアシスタント、ランチルームや清掃の人などがあります。


  • 「Semesteranställning(休暇雇用)」で週40時間労働で、年間最低5週間(年齢と共に増える)という雇用形態があります。この休暇雇用の人は、学期途中でも休暇を取りやすいので、校長や副校長は、年度スタートが落ち着いた10月とかに、外国言って遅い夏休みを楽しむ人もいます。就学前学校の幼稚園教諭などに多いのが、この休暇雇用で、週の労働時間が、週35-38時間勤務になっていて、週2-3時間の準備時間がついているというものです。基礎自治体や園で独自の合意を交わしている場合が多いです。
  • 週40時間労働で、毎月のお給料が95%くらいに少し減り、夏休みなどの長期休暇がすべて休みになるという労働形態もあります。学校で働く先生以外の職業で、学校と合意があると可能な雇用形態です。個人の選択で選べるので、同僚なんかをみていると、お給料が多少減ってでも、長く休みたいという人や、他の仕事を夏の間すると言う人などがうまく利用しているように思います。

7.正規雇用でフレキシブルに働ける%雇用

 どの雇用形態であっても、パーセンテージで働くことが可能です。子どもが小さいうちは、いわゆる時短労働の権利も認められており、50%、75%、80%などで働く職員は多くいます。このパーセンテージは、正規・非正規に関わらず可能であり、契約上はフルタイムでも一時的に80%で働くということも可能です。時間数などは、フルタイムをもとに計算するので、50%なら週20時間という風になります。また、病気をした場合に、こうしたパーセンテージを減らして復職する人も多く、その場合は、減らした分のお給料の約80%が保険庁から出ます。


8.労働組合が強いスウェーデン

 スウェーデンは労働組合が強いので、基礎自治体や職種などによって、これらの労働条件に多少違いが出ます。組合加入率も高く、私も教員組合に入っています。組合については、また別で書きたいと思います。


 スウェーデンの学校の先生の労働環境と雇用について解説しました!こんなスウェーデンの先生の労働環境ですが、先生になりたい人は少なく、先生は人気がない職業です。それでも、少しずつ労働環境や問題に対処してきて、足りない教員の数は少しずつ回復傾向にあります。そうしたことも、また書けたらと思います。


 最後に夏のスウェーデンの様子を!








 

2022年8月6日土曜日

平和を願う8月6日、原子爆弾から生き延びた「被爆アオギリ」の歌

  この投稿は、2015年8月6日のものを更新して、再投稿しています。

 
 今日は8月6日、77年前の今日、広島に原子爆弾が投下されました。私がスウェーデンで初めて働いた特別支援学校は、広島県の西条特別支援学校と姉妹校のプロジェクトをしました。詳しい内容は「スウェーデンと日本の特別支援学校の姉妹校プロジェクトを振り返って」をご一読ください。このプロジェクトは、広島県内の全ての県立高校が外国に姉妹校を持ち、交流を行うというプロジェクトでした。スウェーデンと姉妹校になったのは、西条特別支援学校と私の学校、エレブロにある高校の福祉科も姉妹校になったそうです。


 姉妹校プロジェクトを行うまで知らなかった、「被爆アオギリ」という木について、姉妹校プロジェクトの中で教えていただきました。77年前の被爆にも負けずに生き残った木々の中の代表だそうで、平和公園内、原爆資料館東館の北側にあります。このアオギリの樹から、広島県内の学校に苗木が渡されるそうで、西条特別支援学校にもこのアオギリの樹がありました。希望をすると苗木がもらえるようで、修学旅行などで訪れた日本中の学校や世界にも渡されているようです。

 このアオギリの樹のそばで聴ける歌が、「アオギリの歌」です。

 歌は、2000年に広島市のミレニアム記念事業として「広島の歌」を公募し、小学3年生だった森光七彩さんが作詞作曲したそうです。

 「アオギリの歌」


電車にゆられ 平和公園
やっと会えたね アオギリさん
小学校の校庭の木のお母さん

たくさん たくさん たね生んで
家族が増えたんだね よかったね

遠い昔のきずあとを 直してくれる アオギリの風
遠いあの日のかなしいできごと


資料館で見た 平和の絵 
いろんな国の 人々や 
わたしが みんなが 考えてゆく広島を
勇気をあつめちかいます
争いのない国 平和の 灯

遠い昔のできごとを わすれずに思うアオギリの うた
これから生まれてゆく広島を大切に

広島の願いは ただひとつ 
世界のみんなの明るい笑顔


 広島の学校と姉妹校になってわかったことに、広島では岐阜県生まれの私が受けてきた教育にはない形で、平和学習に重点を置いて行われていることです。人類が決して忘れてはいけない、原子力爆弾の投下により多くの尊い命が一瞬にして亡くなったという事実を様々な形で子どもや若者に伝え、世界に伝えていく学習が行われています。8月6日の原爆投下の日に、この歌を聞き、平和記念式典の様子を見て、登校日になっている広島県内の学校で先生方が子ども達と向き合っている姿を想像し、胸が熱くなり、世界の平和を心から願います。

 
 このアオギリの歌、小学生の子が作ったという感じが少し残る、とても素直なメロディーで、広島の願いは、世界のみんなの明る笑顔というのにも心がとてもうたれます。広島の原爆の話などをしようとすると、わたしなどは難しく考えてしまうのですが、この歌詞には、率直な日本語であるからこそ伝わるものがあるように思います。姉妹校プロジェクトをしていたときに、この歌をスウェーデン語に訳して、音楽の先生と一緒にスウェーデン語版を作りました。懐かしく思い出します。
 
 遠い昔の出来事になりつつある、広島と長崎のできごとを忘れずに、全ての世界の人々が平和で暮らせる世界を願い、そのために私ができることを頑張っていきたいと思います。


2022年8月5日金曜日

発達と学びの権利を守る、スウェーデンの特別支援学校とインクルーシブ教育

この投稿は、旧ブログのインクルーシブ教育に関する投稿の中の特別支援学校に関連した内容をまとめて、リライトし、再投稿しています。

スウェーデンのインクルーシブ教育(2017年)」の投稿に続き、「スウェーデンの特別支援学校とインクルーシブ教育」について書きます。

1.入学が厳しいスウェーデンの特別支援学校

 スウェーデンでは、特別支援学校が一つの学校形態となっています。スウェーデンの学校教育システム」はこちらの投稿を是非。この特別支援学校の対象児童生徒になることは、大変難しくなっています。これには、移民や難民でスウェーデン語が十分に話せないといような「間違って、支援学校にいれられた生徒」が増えた時期があり、現在のように入学が厳しくなりました。入学するには、以下の4判定とともに知的障害の判定があり、初めて、特別支援学校対象児童生徒になり、入学することが可能になります。

  • 医師による医療判定
  • 心理学者による心理判定
  • 社会福祉士などによる社会判定
  • 特別支援教育士などによる教育判定

重要なのは、入学しなければいけない」ということではなく、「特別支援学校に行く権利」を与えあれることになります。親の希望が優先されるので、特別支援学校対象児童生徒であっても、基礎学校で、支援学校のカリキュラムに沿って学んでいる子どももいます。

2.「分離統合型」のスウェーデンのインクルーシブ教育

 スウェーデンの知的障害は、知能指数70で判定が出ます。この知能指数70が分け目となり、特別支援学校と基礎学校(普通学級)に児童生徒を分けています。どんな障害を持っていても、知能指数が70を越えると基礎学校で学び、知的な障害がない、自閉症や肢体不自由、視覚障害などの子どもたちは、全て基礎学校で必要な配慮や支援を受けて学びます。

 私は、このスウェーデンのシステムを「分離統合型インクルーシブ教育」と呼んでいます。知能指数70で「分離」して、「統合」する教育というふうに説明しています。スウェーデンの特別支援学校は、2011年の学校法の改訂に基づき、現在のように特別支援学校に通える条件に必ず知的障害があることということを明確に打ち出しました。{それ以前は、知的障害がない自閉症児も特別支援学校に通うことができました。)


3.2コース制のスウェーデンの特別支援学校

 スウェーデンの特別支援学校は、2コース制です。基礎学校(小中学校)の教科に準じた教科学習をする「教科学習コース」と、教科を5領域に分けた「領域学習コース」です。各コースの内容は次のようになります。

教科学習コース:スウェーデン語(第2言語としてのスウェーデン語)、算数、英語、自然科学(理科)、社会科学(社会)、体育、音楽、手仕事、美術、テクニック(技術)、家庭科、母国語(希望者)

領域学習コース:芸術領域、運動領域、言語領域、日常活動領域、社会理解領域。

 教科学習コースは、希望者に成績を出しますが、領域学習コースは、評価のみです。この2コースの生徒は、各コースごとでクラス編成されることもありますし、両方のコースを混ぜたクラス編成もします。私が受け持っているクラスは、混合型なので、常に両方のコースカリキュラムをもとに授業を行っています。


4.多様な学びができるスウェーデンの特別支援学校

 スウェーデンの特別支援学校の大きな特徴は、その子の能力にあった多様な学びができることです。いくつか例を挙げて、その多様な学びを紹介します。

  • 教科学習コースで学んでいるAさんは、英語がとても得意で、英語だけは、基礎学校の同じ学年の生徒と一緒に学んでいます。最初は、特別支援学校のカリキュラムで学んでいましたが、支援学校の到達目標に達したので、今は、英語だけ、基礎学校のカリキュラムで、基礎学校のクラスで学んでいます。
  • 領域学習コースのBさんは、教科学習コースの生徒が一緒の混合クラスになり、コミュニケーションの補助器具の支援を受けたこともあり、興味がある自然科学と社会科学は、教科学習コースのカリキュラムで勉強しています。
  • 基礎学校の3年のクラスで学ぶCさんは、支援学校の教科学習のカリキュラムで基礎学校の生徒たちと一緒に学んでいます。

 これは一例ですが、その子の特性やニーズに合わせて、その子が興味を持っている1教科からでも、多様な学びの形を追求できるカリキュラムになっています。スウェーデンの分離統合型インクルーシブ教育の素晴らしい点は、この「全ての子どもの持っている能力を最大限に伸ばし、発達と学びの保障」を可能にするインクルーシブ教育です。この分離統合型インクルーシブ教育は、インクルーシブ教育の理想を、「いかに現実化していくか」という点においても、一つの形として価値のあるものであると思います。

時事ドットコムの「学びと発達の権利」とは?福祉の国、スウェーデンの特別支援学校事情も併せて是非。



(旧ブログの2009年5月12日、2009年7月15日、2012年9月10日の投稿をもとに、リライトしました。)

本で知ることができない、スウェーデンのインクルーシブ教育とは【2017年版】

この投稿は、2017年2月26日と27日のものを更新して、再投稿しています。

 このブログで、最も多くの方が読んでくださった投稿の一つが、この「スウェーデンのインクルーシブ教育」についてです。今の情報に書き直すのも一つかなと思ったのですが、インクルーシブ教育の変遷として、この投稿をオリジナルで残しながら、読みやすい形に直し、「2017年」とタイトルに入れることにしました。情報は、2017年現在のものになります。最新の2022年情報も今後新たに投稿したいと思います。


1.スウェーデン語のインクルーシブ教育とは

 スウェーデン語で、インクルーシブ教育のことを「Inkludering(インクルデーリング)」 と呼ぶのが一般的です。インクルーシブ教育の行われている学校を「Inkluderande skola(インクルデーランデ スクーラン)」と呼んだりします。

2.スウェーデンのインクルーシブ教育の定義とは

 どんな学校のことをインクルーシブ教育と呼ぶかというと、2013年に出された特別支援教育専門機関によれば、
  • 様々なレベルでの帰属感、共通意識がある
  • たった一つのシステムであること(「普通の」生徒と「そうでない」生徒に分けたシステムでないこと)
  • 共通、同等の民主主義があること
  • 生徒たちの参加があること
  • 「違い」が良いものとして捉えられていること
とあります。上記のことが普通のこととして行われている学校がインクルーシブ教育を行っている学校ということになります。

3.スウェーデンの学校はインクルーシブ教育を行っているの?

 実際にスウェーデン中がこういう学校なのかというと、「そうです」と即答できない難しさがありますが、スウェーデンのインクルーシブ教育は、一人一人の子どもが持っている能力を最大限に伸ばすことができる、学びと発達の権利を保障したインクルーシブ教育の形であると思います。しかしながら、特別支援学校があり、知的障害があるかないかによって分離されたうえで、親の希望により、基礎学校の学びが提供されていることや、特別学校という聾・聾重複の学校がある(盲学校はない。)ことにより、解釈の仕方によって意見の分かれるところであると思います。スウェーデンの学校教育システムについてはこちらをご一読くだささい。

4.スウェーデンで最もインクルーシブ教育が進んでいる就学前学校

 統計などではなく、私の印象ですが、スウェーデンで最もインテグレーションが進んでいるのは、就学前学校、いわゆる幼稚園や保育園に当たる幼児教育・就学前教育だと思います。以前に書いたパラサポWEBの「スウェーデンに学ぶ、幼児教育の最前線インクルーシブ教育」もぜひご一読ください。

 小さい頃は、住んでいる地域で、みんなで同じ場所で過ごすという考えが浸透しており、自宅近くの就学前学校に通います。都市部で重度の障害がある場合は、特別な就学前学校がある場合もありますので、そこに通う選択肢もあります。また、就学前学校の中に自閉症のクラスがあったり、子どもの人数を減らしたクラスがあったりもします。入園が決まると、その子どものニーズに合わせて、職員の配置がされたり、公立の就学前学校であれば、コミューンの特別支援教育の専門教員が時折きて、職員指導などをしている場合を多く見受けます。
 日本のように「療育」という感じの保育を行なっておらず、日本の都道府県レベルに当たるラーンスティングによって運営されている「ハビリテーリング」という機関が障害を持った子どもたちの家庭や就学前学校でのサポートにあたります。


5.特別支援学校はあるの?

 スウェーデンにも、日本の特別支援学校にあたる「基礎特別支援学校」があります。スウェーデンの学校教育システムについてはこちらをご参照ください。スウェーデンの特別支援学校の多くは、基礎学校と呼ばれる日本の小中学校に当たる学校と同じ敷地内にある場合がほとんどであり、「場の統合」は行われています。私が働いている学校は、スウェーデンの首都ストックホルム最大の特別支援学校になりますが、見学に来る方の印象は、日本の「特別支援学級」のイメージをもたれると思います。スウェーデンのインクルーシブ教育と特別支援学校については、「発達と学びの権利を守る、スウェーデンの特別支援学校とインクルーシブ教育」の投稿をご一読ください。

6.特別支援学級や通級学級などはあるの?

 基礎学校には、何かしらの理由でクラスで学ぶことが難しい生徒のための「少人数の学習集団」があります。2011年の学校改革の後、スウェーデンでは、しばらく、こうした少人数の学習集団のような特別なクラスを設定はしない学校が一般的になりました。これは、2010年に出た学校法の解釈の問題とされ、現在は、少人数の学習集団は一般的です。この学習集団で学ぶ生徒は、知的障害がない、何かしらの理由で母体級で学ぶことが難しい生徒になります。また、このクラスに最初から所属することはできず、所属クラスでの様々な合理的配慮によっても、共に学習することが難しい場合に、こうしたクラスで学ぶことになります。

7.スウェーデンのインクルーシブ教育で大切だと言われていること

 スウェーデンのインクルーシブ教育で重要だとされるのが、「個人がどのように感じているか」という部分です。
  • 帰属意識が感じられる
  • 仲間の一員としての実感がある
  • それぞれの個性、障害を含めた違いを可能性、良いものとして見ることができていること
以上の点が特に重要であると言われています。これに加えて、こうしたインクルーシブ教育を実現するためには、学校に関われる人々がインクルーシブ教育を実現するという熱意を持つことであると言われています。個人の感情、気持ちに深く関わるのですから、やはり、それを変えるのは、人々の熱意、やる気が重要なのでしょう。法改正が行われ、学校も変化していますが、そこにいる人々が知識を持ち、気持ちが変わらない限り、インクルーシブ教育がそれなりの形で行われるということは難しいのであると思います。

8.スウェーデンの学校のインクルーシブ教育を支えるしくみ


 スウェーデンのインクルーシブ教育を支えるしくみが、学校法によって、スウェーデンの全ての学校に設置義務のある
「Elevhälsa (生徒の健康)」です。クラスの中に問題を持った子どもがいると、まず、「Extra anpassningar (不可的調整)」が行われます。これには、例えば、机の配置やグループ関係、読み上げ機能などのITの使用と言ったような配慮が含まれます。
 こうした付加的調整にも関わらず、状況が改善されない場合には、専門家チームである「Elevhälsa 生徒の健康チーム」でで話し合いが行われます。そこから「åtgärdsprogram(改善プログラム)」というプログラムが組まれ、更なる特別な支援や援助が行われることになります。この改善プログラムは、2016/2017年度の小中学校に通う生徒のうちの5.6%が受けました。( Skolverketの資料より)改善プログラムが組まれる際には、保護者にも連絡され、家庭と連携して行っていきます。
 生徒の健康チームには、必ず特別支援教育の専門教員がおり、こういった生徒たちの対応を個別もしくは、担当教員と当たっています。専門教員は、取り出し型の教育を行ったり、クラス担任に教室の中でどのような支援、援助を行うと良いかというアドバイスをしたりします。このほかに、特別支援教員の大きな役割が、早期発見にあると思います。小学0年生から、これらの教員により、簡単なテストが定期的に行われ、言語面で遅れがある子を見つけ出し、早期に援助を行うということが行われています。こちらも大体の学校にどのような流れでするかというのが決まっているので、いつか紹介できればと思います。


 スウェーデンのインクルーシブ教育を17年間見てきて感じることは、生徒個人にとって最良と思われる形、子どもの最善を常に模索して行うことに重きが置かれており、全ての子どもに発達と学びの保障をしながら、インクルーシブ教育を時代に合わせて発展させている点でしょう。


2022年8月4日木曜日

スウェーデンの学校教育システム

  もう何年も放置しておいた旧ブログの記事を読み直し、保存するものは保存し、消去するものは消去し、情報が古いものも多いので、これからリライトして、少しずつ再投稿していこうと思います。旧ブログをやっと消去できました。読み返し、基本的なこと、スウェーデンの学校教育システムについて書かれていないと気付いたので、今日はスウェーデンの学校教育システムの概要を書きます。

すっきりとしたスウェーデンの学校教育システム

 スウェーデンの学校教育システムは、わかりやすく、すっきりとしています。大きく以下の5つにわけることができます。以下の図が、学校局が出している教育システムの図を私が訳したものになります。
  1. 就学前教育・幼児教育
  2. 義務教育と学童保育
  3. 高等教育
  4. 後期高等教育
  5. 成人教育


1.就学前教育・幼児教育

 日本の幼稚園・保育園・こども園などに当たる就学前の教育機関として、「Förskola「フォースクーラ)」と呼ばれる「就学前学校」があります。スウェーデンは、幼保一元化を行っており、就学前の教育、幼児教育として、「教育と保育」、「Educare (エデュケアー)」を行っています。1歳から通うことができ、90%以上の子どもが通っています。民営、公立、共同体運営などに加えて、少人数の子どもを家庭で預かるというのもあります。

2.義務教育と学童保育

 義務教育は、図の中央に5つの建物が並んでいるところになります。横に併設して学童保育があり、各学校に学童保育があります。義務教育の学校形態は4つあります。(就学前クラスは基礎学校に形態としては含まれます。)ホームスクールは認められていません。
  • 就学前クラス:0学年と呼ばれる6歳児が通う6歳児教育を受けるクラス
  • 基礎学校:日本の小中学校1年から9年
  • 特別学校:聾・聾重複児が通う、手話とスウェーデン語で学ぶ学校
  • サーメ学校:先住民族サーメ族のサーメ語を学ぶことができる学校
  • 基礎特別支援学校:日本の特別支援学校に当たる、知的障害がある生徒が通うことができる学校
 義務教育は、就学前クラスの1年とその後の9年間で、合わせて10年です。これらのどの学校にも、12歳までの子どもを対象にした学童保育があります。スウェーデンでは、手話は一つの言語として1981年に認められています。特別支援学校への入学には、以下の4判定による知的障害の判定がないとは入れません。
  • 医師による医療判定
  • 心理学者による心理判定
  • 社会福祉士などによる社会判定
  • 特別支援教育士などによる教育判定

3.高等教育

 高校には、18コースあり、職業を主にしたコースと大学進学を主にしたコースがあり、3年間通います。基礎特別支援学校にも、一般の高校に準じたコースがあり、4年間通います。スウェーデンの教育システムには、「不可」があり、主要科目で不可があると、高校進学ができないので、「高校準備クラス」に通い、足りない単位をそろえてから、高校に進学します。

4.後期高等教育

 大学、職業大学、国民大学といった大学があります。

5.成人教育

 各コミューンと呼ばれる基礎自治体は、成人教育機関を設ける義務があるので、どのコミューンにも成人教育機関があります。外国人のためのスウェーデン語のコースや、障害がある人向けの成人教育、その地域に必要な職業に合わせた様々なコースなどが、成人教育の中に設けられています。


以上、大変簡単にスウェーデンの学校教育システムについて書きました。また、別の投稿で、各分野の教育の様子を詳しく書いていきたいと思います。




2022年8月2日火曜日

スウェーデンと日本の特別支援学校の姉妹校プロジェクトを振り返って

この投稿は、旧ブログと現ブログの姉妹校プロジェクトの投稿をまとめて、再投稿しています。
 私が最初に働いていたストックホルム郊外の公立特別支援学校は、日本の広島県東広島市の西条特別支援学校と姉妹校でした。プロジェクトは、2012年から2015年までの3年間、その後もやりとりが続いています。今回はそのプロジェクトについてです。

1.どうやって、スウェーデンと日本の特別支援学校が姉妹校になったの?

 きっかけは、なんと、このブログだったんです。時は遡り10年前の2012年に、このブログを読んで下さっていた方(二人も!)が、「日本の国立特別支援教育研究所」が現地調査員を探しているというメールをわざわざ下さりました。私は、その調査員には条件が合わず、ならなかったのですが、スウェーデンの特別支援教育に関しての情報提供をさせていただきました。その時に、特別支援教育研究所のほうに日本の特別支援学校から、「海外での姉妹校を探してるので紹介してほしい」と連絡があったのです。その時に「日本人が働いている支援学校ありますよ。」と、私の働いている学校と他何校かを紹介したのです。広島県は、県内の全ての公立高等学校が海外の学校と姉妹校を持つというプロジェクトを3年で立ち上げたところでした。日本人がいるならと、西条特別支援学校と私の学校の姉妹校の話がトントン拍子で進みました。これが、2012年4月のことでした。懐かしい!

2.どうやって準備をすすめたの?

 準備は、主に私が日本語でやりとりをして、進めました。調印式や本格的な交流は、夏休み明けの新年度からだったので、まずは、お互いの学校を知ることができるようにと、日本からDVDで学校の様子などが届き、同僚や生徒たちがそれを見て姉妹校プロジェクトが始まるんだという実感を持ってもらいました。この当時の職場には、音楽療法の先生、ICTの先生、理学療法士の先生が、各クラスの担任以外にいたので、主に彼女たちがこのプロジェクトの中心となって私といろいろと準備をしてくれました。

3.プロジェクトのスタートは?

 2012年8月から始まった姉妹校プロジェクト。日本の西条特別支援学校から校長先生と教頭先生が調印式を兼ねて、スウェーデンを訪問しました。夏の休暇明けすぐで、すごく忙しかったのを覚えています。その時のブログには、

「今もそうなんですが、昨日くらいまでは、緊張していたのが、今日になり、校長や同僚の反応などをみていると、緊張よりもわくわくするような楽しい感情がわいてきました。遠くからやってくるお客様にやはり喜びは隠せません。おそらく、日本の方が考えるような歓迎とは違うのだろうけど、それでも、スウェーデンらしい、スウェーデン人らしいアイデアがたくさんあります。私もできるかぎり、黒子?ではないのですが、あまり口をださず、意見を求められれば答えつつ、でも、ここはスウェーデンの学校らしさがでるようにと、しています。(というほど、日本人的な感覚はなくなりつつある私ですが。。。)でも、こういうお互いの文化が強調されるのが交流のいいところなので、いろいろ起こる問題課題難題にいらいらせずに、笑って対応です!」

とあります。日本側からは、細かい調印式の内容や書類が来るのですが、それをスウェーデン語に訳して、説明しても?なことは多くあり、文化が違うのを実感し、その間を行き来していたことを思い出します。

4.調印式

 本当ならば、よい天気が続くはずの8月のスウェーデン・ストックホルム。しかし、この年は天気が悪かったので、雨が降った場合のBプランを用意しました。当日に至るまでのスウェーデン人同僚たちの様子は、だんだんと緊張してくるというか、それまでは、あんまり実感がなかったのか、突然先週の火曜日辺りからどうだこうだと。ちょっと遅いような気もするが、ここもお国柄。彼らいわく、

 夏休み前はまだまだ時間があると思っていたらしく、休み明けは調子を取り戻すのに時間がかかり、気がついたら、すでに1週間きっていた。

というよくあるパターン。最近はもうすっかり慣れました。

 当日は、あいにくのお天気。仕方がないのでBプランで準備をしました。このBプランの問題点は、学校の体育館が小さく、防災法の関係で小学校は1クラスしか参加できないことにありました。もちろん、これが大問題。小学校と隣接していたので、今回のお客様は、学校へのお客様ということで、小学校と特別支援学校両方で準備をしてきました。子どもたちも楽しみにしており、いまさら、天気が悪いから出られないとは、いえない、とのこと。結局、霧雨のような雨の降る中、外で行うことになりました。ここに至るまでの話し合いと決断、スウェーデンにしては早いほうだと思いました。私にも意見を求められ、「みなさんで決めてください」と言わせていただきました。。。

 さて、この天気の中、スウェーデンの子どもたち、どうなることかと心配したのですが、そんな心配はまったくいらないくらい、どの子どもよくがんばりました。約35分かかった調印式、みんなじっと立ってがんばって聞いていました。これには、うちの学校職員全員がほんとうに驚きました。普段のこういった会での様子を知っているからこそ、今回の様子があまりにも違い。。。うちの校長は、よくがんばったということで、ご褒美を準備するそうです。風もけっこうびゅんびゅんしていて、寒かったけど、本当によくがんばりました。

  調印式では、スウェーデンと日本の国歌も歌いましたし、校長先生の話もありました。生徒の話もありました。日本から、習字できちんとかかれた言葉が運ばれ、校長先生によって読み上げられました。私はずっとスウェーデン語での訳をいれました。最後にサインとテープカットをして、これから3年間行われる姉妹校の取り組みが始まったのです!


5.母からの贈り物

 私の母からの届いた謎の贈り物は、「千羽鶴」でした。日本の特別支援学校は広島県の学校ですので、うちの母が3000羽の鶴を折って送ってくれました。調印式の中で、この鶴について話をしてほしいといわれ、千羽鶴とサダコの話を紹介をしました。「広島」という名前を言えば、スウェーデンでも誰もが「ああ、あそこね」というくらい知られた県だからこそ、そこにある願いと思い、意味は深いのではないかとも思いました。


6.どんな交流をしたの?

 今でも残っている交流は、お互いの学校の児童生徒の作品を送り合い、映像や音楽での交流でした。生徒や教員のオンラインでの交流も試みましたが、時差とその当時の日本のオンラインやインターネット上の決まりが厳しく、なかなか難しく、確か1度行っただけだと思います。教員同士でコンタクト教員を作り、お互いにメールをやり取りしていましたが、日本側は転勤があると変わっていってしまうため、なかなか定着しませんでした。それでも、数名の先生は、やりとりを楽しまれていました。そんな中で、なんとか姉妹校プロジェクトを生徒たちに実感してもらいたいと思い、行っていたのが「日本週間」でした。

 日本からは、もう一度スウェーデンに、生徒とお母さん、先生2名が訪れてくれました。私たちも、日本には2回行きました。1回目は、校長、副校長、ICTの先生と4人で行きました。2回目は、同僚の先生とアシスタントとみんなで行きました。




2022年8月1日月曜日

スウェーデンの障害者のデイケアセンター・就労施設施設・作業所②

  この投稿は、旧ブログ2013年7月14日のものを更新して、再投稿しています。

2022年7月16日に、初の単著「医療・福祉・教育・社会がつながるスウェーデンの多様な学校~子どもの発達を支える多職種協働システム」を刊行。是非ご一読を😊


 先日「スウェーデンの障害者のデイケアセンター・就労支援施設とは」を投稿しました。同じような施設の投稿が、旧ブログにあったので、こちらにリライトして紹介します。

 2013年に同僚たちと見学に行った、このデイケアセンターは、軽度、中度の成人の障害を持った方がたくさん働いていました。この施設は、移転して今も残っていますが、木工の部分は移転と共になくなってしまい、残念です。移転してからも、一度見学に行きました。場所は、市の中心部で駅のそばなので、前の片田舎より立地はよくなっていました。

 通っている人々は、毎日出勤してくる人、週に数回来る人、決まった日に出勤する人と様々です。

外観はこんな感じ。田舎の広い敷地に平屋の建物が建っていました。


反対側は、庭。置いてあるベンチなどは、ここで作られたものがほとんどでした。


玄関から中に入ると、壁には、1日の大まかな流れが書かれており、その横に様々な新聞記事がはられていました。この作業所は、仕事のほかにクラブ活動ではないのですが、オペラや劇を毎年練習して発表しており、その様子が張られていました。
 

そして、広い休憩室がありました。

次の部屋は、更衣室でした。こちらもゆったりとした作りになっていました。写真は、男性用の更衣室の様子です。女性用の更衣室はもっといろいろ飾りがあって女の子という感じのする更衣室でした。ここで、作業着に着替えてから仕事に移ります。男性用更衣室の向かい側にあったのが、この部屋です。


こちらは、ゆっくりとするために作られている部屋で、マッサージも受けられます。前のデイケアセンターには、タクティールを受ける部屋があったのですが、マッサージ器があるところも多くあり、人気があるようです。

いよいよ仕事の様子を見ていきます。


広い作業所に入り、まずめについたのがこちら。一人一人の仕事の日程表です。それぞれの1日の仕事の流れが写真などを利用してとてもわかりやすく表示してあります。下に数多くの写真が丁寧に整理してあります。こういった写真での表示は自立の手助けになります。いくつかの作業グループに分かれており、遠目の写真だとよくわかります。

黄色のグループ、青のグループと色で分けられており、それぞれのグループに顔写真とともに日程が表示してあります。確かグループは6グループくらいあったと思います。朝の仕事開始には、簡単なはじめの会があり、グループごとに職員とともに1日の流れを確認し、仕事に入ります。

この作業所ではこんなお仕事をしていました。

ねじを決まった数、ケースに入れていきます。デジタルのはかりで重さを読み、決まった数を中に入れていきます。このねじの入ったケースをまた箱に詰める仕事もあります。スウェーデンのスーパーマーケットの広報誌を分別する仕事です。広報誌を郵送して、所在地不明などの理由で戻ってきたものを一括でこの作業所に送られてきます。それを一つ一つビニールの部分と中の紙の部分に分けていきます。そして、分類したら次はこっちに持っていきます。



こういった分別の仕事をいくつか請け負っているようです。例えば、会社でいらなくなった書類などのファイルが送られてきて、それを一つ一つファイルから外し、プラスチック、ビニール、紙と仕分けしていました。

作業所にはもちろん、本格的な分別コーナーもありました。スウェーデンらしいなあと思います。環境意識の高い国民だからこそ、こういった作業所が生まれるのでしょう。働いていた方たちは、とても楽しそうに一つ一つやっていました。

こんなお仕事もしていました。とある会社からの依頼出そうです。オレンジのビニールを決まった長さに切り、その中に黒いブラスチックのものを入れていくというような仕事でした。決められた数を袋にいれて、シールをはってと手間がかなりかかっていました。この作業をしていたのは、年代もかなり上になる方で、とてもやりがいを感じているという話をしてくれました。



今はなくなってしまった木工の部分です。

ちょうど仕上がったというテーブル。大きさなども希望に応じて作っていました。市内の学校などの外用の椅子やテーブルはよくここからきていました。細かいものもたくさん作っていました。値段がお値打ちなこと、仕事が丁寧なこともあり、ここの製品は人気がありました。

 この作業所は、この他に、いろんなものを運ぶ運搬係のようなグループもありますし、広報新聞も作っています。

 


こちらがランチルームです。毎日当番制でお茶の時間の準備をすることになっているそうで、午前と午後にお茶の時間がありました。これもスウェーデンらしいです。このランチルーム以外にもう一つ、小さめの部屋もありました。そちらは、こういった広い場所で食べることが苦手な方のためのものです。椅子の足下を見てください。テニスボールがついています。障がい者に関わっている方ならご存知の通り、音に敏感な人が多いですから、こういったちょっとした工夫は大切です。テーブルにかかっているナイロンのテーブルクロスも実は2重になっています。音を響かせないように中にフェルトみたいなものをしき、その上にビニールのテーブルクロスをすると、食器などの音が緩和されます。

そしてランチルームの工夫はこちらも。

ぼやかした写真ですが、持ってきた昼食を電子レンジで温めて食べることの多いスウェーデン。電子レンジがいくつも並んでいます。そして、その上には、この電子レンジを使う人の写真と名前が表示してあります。これにより、混雑を緩和し、また、どこで何をするか明確にすることにより、自立を促します。ちょっと工夫ですが、あるかないかでは大違いです。至る所にそんな様子の見れるデイケアセンターでした。


 こういった作業型のデイケアセンターは、楽しそうに働いている人が多い印象を受けます。誰かに必要とされ、毎日することがあるというのは、重要なことなのだと思います。私の同僚は、その昔この中の何人かの方を生徒として受け持っていたことがあり、とても懐かしそうに再会を喜んでいました。そして、彼女が、昔では今のような自立した様子は考えられなかったと話してくれました。適切な場所で適切な援助があれば、多くの人はやっていけるのだろうと思います。

 最後に、ここで働いても決して食べていけるだけのお給料は出ていません。いくらかのお給料は出ていますが、あまりにも低い金額で、通っている障害のある方が、市と交渉してあげてもらっても、1日20クローネあるかないかです。しかしながら、税金の福祉のお金で既に生活をしていて、福祉のデイケアセンターに通う彼らは、法律の中では、仕事として通っているわけではないので、お給料というのは出ない仕組みになっています。こうしたところ、スウェーデンの福祉制度は、きっちりしていると感じることが多くあります。