2023年10月28日土曜日

スウェーデンの知的障害児の研究 インクルーシブ教育とは何か?

  お久しぶりです。秋学期の折り返し地点に到着し、来週は秋休みです。教員は一般的には、秋休みは月曜日から水曜日まで働きます。私は、ここまで、とても労働力が多かったので、副校長が月曜日に特別にお休みをとるようにと、火曜日と水曜日の勤務になります。スウェーデンの教員は、この秋休みに到達することが大きな目標というか、ここまでこれば、今年度もなんとか行けるという感じがするという感じです。秋休み後は、個人面談をやり終えると、あとはクリスマス休暇に向けて、成績付けなどのラストスパートに入ります。おっと、話がずれました。

 今日は、スウェーデンの知的障害児の研究を振り返りながら、知的障害児にとってインクルーシブ教育とはと、少し考えてみたいと思います。今週の火曜日に、こちらの知的障害者団体が行ったオンラインの会を聞いての感想と振り返りになります。あと、うちの学校は、今年度より、学童の大きな改革をして、支援学校と基礎学校の学童を一緒にしたので、その中で思う、インクルーシブ教育の在り方を今一度考えてみたいと思いました。

1.スウェーデンの知的障害児教育の歴史を振り返る

 スウェーデンの知的障害児たちは、歴史的に長く「分離教育」をされてきました。優性思想も強かったスウェーデン、知的障害児・者に対する差別や迫害の黒歴史は、多くあります。年月でいえば、約150年ほど分離教育をしており、今の学校システムも、分離教育であるというのが、スウェーデンの認識です。知的障害児の中でも、特に中重度で、「学ぶことができない」とされてきた子供たちは、「医療」の一環として、長く広域行政体によって管理運営がされてきました(訳100年)。

 そんな歴史を変えたのが、1968年。この年に、やっとスウェーデンのすべての子どもたちの就学の権利が確立されました。日本では1979年がよく言われますので、スウェーデンは、それよりも11年早いのですが、決してすごく早かったとか、ずっと教育を受ける権利が保障されていたということではないのです。やっと、すべての子どもが教育を受けられるようになったのですが、その教育は、医療が管轄していたこともあり、福祉と医療が色濃くでた教育でした。そして、1990年代になって、教育が基礎自治体に移ります。これもとても大きな背景であり、その影響は、今でも強く受けています。私は、「広域行政体(医療)」から、「基礎自治体」に移ったことにより、管轄が「教育省、学校庁」に移ったことはよかったと思いますが、運営・経営が基礎自治体であることは、今のインクルーシブ教育や教育の形に大きな影響を与えていると感じます。

2.スウェーデンの知的障害児教育学校の特徴

 私が働いているスウェーデンの特別支援学校は、日本の特別支援学級のように基礎学校にくっついており、運営も同じ担っています。スウェーデンの支援学校は多くがこの形をとっています。スウェーデンの特別支援学校は、知的障害がないと受け入れてもらえないので、知的障害児教育学校であるということになり、日本ではそのように紹介されいることも多いように思います。

 このスウェーデンの知的障害児教育学校の特徴として挙げられるのが、職員の多さです。教員一人当たりの生徒数もですし、生徒のアシスタントがいますので、職員が多い、大人の多い教育です。クラスも、小さめのクラスが多く、一クラスに生徒が12人以上いるのは、全体の訳10%であり、多くのクラスが生徒数2名から5名です(約45%)。私の今年の受け持ちのクラスは、生徒数9名で、とても多いと感じています。先生一人で教えるには、限界があり、副校長にも相談したところです。これに加えて、今年の財政削減に、アシスタントの質と問題は山積みです。

 有資格者が少ないのも大きな特徴で、資格保有者は14%といわれています。そのほかの先生は、教員免許は有しているけど、支援学校を教える資格を有していない人が多いです。また、スウェーデンの支援学校は、先生以外の職員が多く入っているというのも大きな特徴かと思います。あとは、教育課程が支援学校用のものになっており、基礎学校の年間授業時数と比べると、家庭科や音楽、手仕事などの授業時間が多いというのも支援学校独特です。

3.スウェーデンの知的障害児研究

 そんな現場を主にした研究がどのくらい行われているのかというと、残念ながら数は多くありません。私は、スウェーデンの支援学校教育に関わって長いのですが、たまに出るくらいで数は多くありません。もちろん、学生が書くレベルのものは毎年一定数でますので、ここでいう研究は、博士論文や研究者が出すものとなります。近年叫ばれているのが、知的障害児の教育現場での研究です。数年前に出た博士論文で、家庭科の授業のものや、昨年出た手仕事のものなどが、これに当たります。そのほかになってくると、生徒の声を集めて研究したものや、卒後などの研究もあります。

 そんな研究の一環になるプロジェクトに今参加していて、スウェーデン全国の学校が集まって、研究者3名とともに、支援学校の現場について3年プロジェクトで研究しています。この話もまたいつか書けたらと思います。


 
 最後に、インクルーシブ教育とは、というところについて思うのは、こうした分離教育を歴史背景に今があるスウェーデンでは、なかなか理想と現実が追い付かないことも多いように思います。おそらく日本でも同様かと思うのですが、インクルーシブ教育というと「同じ場所にいること」や「同じ活動をすること」をイメージする人もまだまだ多くて、参加や、所属感というのはとても重要であるのですが、その子供を主としてみたときに、それは本当にインクルーシブ教育なのかと思うことは、時々あります。特に知的障害がある自閉症の子供などは、その子が持つニーズと特性により、その子の気持ちはもちろん私たちにはわからないことも多いのですが、本当に、教育に関わるものが想定した「所属感や参加の可能性」を「認識して、意欲をもって活動」できているかは、判断が難しく、周りの大人、教育者が保護者の気持ちが先走っているのではないかと思うことも多いのです。


と、ここには書けないこともあるのですが、ほかにも組織的、構造的な問題も多くあると感じます。と、このあたりで、久しぶりのブログの投稿を終えたいと思います。皆様よい週末をお過ごしください。

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