2022年8月10日水曜日

2か月弱の夏の休暇でも、なり手がいないスウェーデンの教員不足問題

 この投稿は、旧ブログの教員不足問題に関する投稿と共に、新たに書いて投稿しています。

2022年7月16日に、初の単著「医療・福祉・教育・社会がつながるスウェーデンの多様な学校~子どもの発達を支える多職種協働システム」を刊行。是非ご一読を😊


 教員のなり手がいない、担任なしで4月スタート、教員採用試験の倍率が過去最低といった声が日本から届きます。「解説!スウェーデンの学校の先生の労働環境~8週間弱の夏の休暇の秘密」だけ読むと、教員はさぞかし人気のある仕事だろうと思われた方もいるかもしれません。しかし、スウェーデンも日本と同様に、教員のなり手がいない、教員不足の国です。教員のなり手の減少は、おそらく世界的な流れではないかと想像しており、その要因は様々なものが考えられると思います。今日は、旧ブログの教員不足に関すると投稿と共に、2022年夏のスウェーデンの教員不足についてです。


スウェーデンの教員不足はいつから?

 旧ブログを始めた時には、既に教員不足に関して書いていたので、2008年には報道されるほどの問題になっていたと思います。2010年の学校法改訂と学校改革により、教員免許制度が導入され、教員不足問題は、「教員免許有資格者不足」というより明確な問題となり、現在の日本の状況に似ていると思います。

なぜ、スウェーデンで教員は人気がない職業なのか?

 複数の理由があると思います。スウェーデンでよく言われる理由を以下にまとめます。

  • スウェーデンで教員になっても儲からない、もとが取れない。スウェーデンでは、大学の授業料は無料ですが、学生は、生活費や教科書代などを学生支援金と共に、学生ローンを組んで自分で支払います。18歳になると成人となり、基本的に親が面倒を見るということはなくなる文化です。教員はプログラムにもよりますが、3年半から5年半かかり、その間に背負うことになるローンに見合うお給料が、先生になってももらえないという状況でした。同じくらいの期間学ぶ、例えばエンジニアとか法律家に比べると格段にもらえるお給料が少なかったのです。今は少し改善されています。
  • 労働環境が厳しい。夏の休暇は長く素晴らしいのですが、学期中の労働環境は厳しく、事務仕事も増え、成績や評価、特別な支援や付加的調整、保護者対応、いじめや差別、不登校などへの対応など、勤務時間内に仕事を終えることが難しくなり、ワークライフバランスが取りにくく、精神疾患を患う先生が多くなりました。幼稚園教諭・就学前学校教諭や特別支援学校の教諭に限れば、身体的体力的な部分により敬遠される場合もあります。
  • 「教える」仕事に集中できない。上記のようにいろんな仕事が増え、週の授業時間数が増えたり、受け持ちの生徒数が増えたりしたことにより、授業の準備や授業後の処理に時間が十分とれないことにより、教師という仕事に魅力を失う。
  • キャリアアップの道が少ない。学校組織には、キャリアを積んで自分の専門性を磨いていくシステムが少なく、ある一定期間教師をすると、管理職になるしかなかったため、管理職はちょっとと思うと、別の仕事に転職し教職を離れてしまいました。

スウェーデンの教員不足解消の政策は?

 スウェーデンの民主主義による福祉国家を維持していくためには、学校教育の質は欠かせません。学校教育、特に公教育だからこそできる、「将来国を担う納税者」になる子どもや若者に、この国の根本的な基盤となる民主主義の重要性、全ての人が持つ人間としての価値、参加して影響を与えていく個人などを伝えていく必要性があります。それを行えるのは、きちんと学んできた質の良い教師であり、その教師のなり手がいない国というのは、将来が危ぶまれるのです。そうした危機感を持って、スウェーデンでは、教員不足解消のために様々な政策を行ってきました。以下がそのいくつかになります。

  • お給料をアップした。教員のお給料を同等レベルの大学卒の職業と同じ程度に段階的に挙げてきました。国が、教員免許有資格者向けのお給料アップの財政出し、基礎自治体によって方法は少し変わりましたが、日本円で3~8万円ほどは一気に上がったと思われます。スウェーデンの教員は、個人給与設定なので、お給料がみんな違います。この時にやり方もスウェーデンらしくて、またお給料については別で書きたいと思います。その後も教員組合が頑張ったこともあり、教員のお給料が管理職や大学の教員に近づき、教員に戻る人も増えたというニュースもありました。
  • 労働環境の改善。労働環境を様々な形で改善し、今も続いています。大きな改革は、合理的配慮や特別な支援が必要な場合の改善プログラムのシステムを変えて、教員の書類作成の時間を大幅に削減しました。労働庁に訴える教員や学校も増え、労働環境を見直す学校や基礎自治体が増えました。私も「しなければいけない仕事」について、話し合う会議があり、参加しています。これは常に教師側が「自分の労働環境・みんなの労働環境」として組合と共に取り組んでいく内容です。
  • キャリアアップの道を作った。昔はなかった第一教諭や講師というキャリアップの道を作りました。
  • 無免許の先生や外国の教員免許を有する人を対象としたプログラムを作った。学校で働きたい、既に働いている人対象の国の支援を拡大して、有資格の拡大を行いました。既に働いている人には、働きながら学べる支援をしました。
  • 教員養成課程の見直しと新人教員のメンター制度の導入を行いました。これについては、また詳しく調べて、いつか書ければと思います。いろいろと問題もあります。

教員不足は解消されたのか?

 こうした政策により、教員不足は多少改善され、大学の教員養成コースへの入学者も増加しました。教員が足りない状況に変わりはありませんが、一度によくなることはなく、地道な国と基礎自治体の努力が必要であると思います。また、私たち教師自身も、教員組合と協力して、声を上げていく、何が足りないのか、現場から変えてくことがとても重要であると思います。

2022年現在の教員不足の状況は?

 学校庁が出している予想では、現在の教員不足の状態は、2035年まで続くと言われており、約12000人の新卒の教師・幼稚園教諭が必要であると発表しています。今年の予想では、今までの予想よりも状況が改善されたという朗報がともに出されましたが、教員組合などは、学校庁が楽観視していると反論し、実際に、状況が改善したのかどうかは、判断が難しいところです。

 以下が、スウェーデンの学校庁がまとめた、2021年から2035年までに必要となってくる教員の予想です。


 これによると、2025年までが最も不足しており、特に必要となってくるのが、基礎学校の先生と幼稚園教諭になります。基礎学校は日本の小中学校に当たり、4~6年生と中学校に当たる7~9年生の教員が特に足りないようです。幼稚園教諭の不足は、また別に書きたいと思うのですが、就学前学校の労働環境を変えない限り、状況は改善しないような気もします。図の中で一番下の紫の部分が幼稚園教諭ですが、将来的に、教員不足が解消されると予想されるところが多い中、増えていく傾向にあります。これには、上記で行われた多くの教員不足の対策が、学校教育を中心に行われ、就学前の教育にはあまり適応されなかったというのも大きいのではないかと思っています。


17年間スウェーデンの教育に関わってきて思うこと

 最後に、17年間スウェーデンの教育に関わってきて思うところをまとめて終わりたいと思います。

  • 教員不足問題を深刻に受け止め、様々な対策を出してきたことは、素晴らしいと思います。国際的に就職もできるようになり、様々な職業がある現代では、教員という仕事が昔ほど魅力がない、人気がなくなるというのは、想像できるところで、今後も国や行政側はその時代に合わせた対策や政策を行っていく必要があると思います。
  • 教員組合の努力と一人一人の教員の責任は大きいように思います。教員組合がとにかくよくがんばっていて、私も何度もお世話になりました。労働環境は、自分たちから言わないとわからないことも多く、個人のきちんと伝える責任は大きいと思います。こういうときに、素晴らしい同僚に恵まれ、共に組合と改善に乗り出すというのも何度か体験しました。
  • 教師という仕事の特性を理解して仕事を楽しみ、多職種で協働連携することの大切さを学びました。教師は素晴らしい仕事ですが、終わりが見えにくい仕事でもあります。まだできることが多くあり、子どもを思えば思うほど、終わりが見えません。そうした職業的特性をよく理解したうえで、他の様々な職種の人々と繋がり、専門性を見極めて、委ねていく、ということは、持続的な教員生活には欠かせないと思います。それが可能なスウェーデンの多様な学校を素晴らしいと思います。
  • 国内で多様な学校の在り方と様々な取り組みが行われています。1クラスの教師の数を増やしたり、一クラスの生徒の人数を減らしたり、アシスタントをいれたりと、フレキシブルに、その生徒・クラスのニーズに合わせて行われていることは、スウェーデンの強みであり、今後さらなる成果を期待するところです。

 まだまだ書きたいことはあるのですが、この辺りにしておこうと思います。細かい課題や問題は山のようにあるのですが、少しずつ書いていけたらと思いますので、また、ブログを覗いていただければと思います。

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