2022年7月31日日曜日

文理閣出版「人権としての特別支援教育」の読書会に参加

 この春に、文理閣から出版された、「人権としての特別支援教育」の読書会が昨日ハイブリット方式で開催されたので、私はオンラインで参加しました。この本の最後の「展望」に「スウェーデンのインクルーシブ教育」について寄稿をさせていただきました。読書会で考えたこと、この本の素晴らしいことをまとめたいと思います。


 アマゾンのこの本の解説には、以下のように書かれています。

子どもの発達と学習を保証する権利としての障害児教育、決して「特別」ではない特別支援教育のために編まれた、学生・教員・ボランティアに向けた新しいテキスト

この本は、「人権」を軸にして「特別支援教育」が関わる全ての部分を網羅した、入門書と言えるのではと思います。本の編著者である、近藤真理子さんが読書会の始めに、この本に対する思いをお話しくださいました。心に残ったことがたくさんあるのですが、

人は誰もが、唯一無二の存在であり、その人らしく、仲間の中で育っていく権利があり、

その能力に応じて等しく教育を受ける権利がある

と。こうして読むと、おそらく多くの方は、そんな当たり前のこと、と思われるかもしれません。それでも、その当たり前のことが実際にはとても難しいことが多くあります。スウェーデンの学校法の中にも、これと同じことを保障した部分があります。

唯一無二の存在

かけがえのない存在

全ての人に同じ価値がある

ということは、簡単なようで、なかなか子どもに伝えることができないし、実感して生活できる人も少ないように思います。今日読んでいた本に、友達と仲間の違いが書かれていました。スウェーデンの社会の教科書の中にあった、社会で生きる理由の一つが、この人とのつながりでした。私たちは、人と共に、仲間や友達、同級生やいろんな人々の中で学び、育っていきます。この本は、人権を軸にして、教育と共にある特別支援教育を書いた本であり、インクルーシブ教育の礎を語る本でもあると思います。実践が必ず書かれているのですが、そこには、子どもと向き合い、人権という視点から、振り返る教員や大人の姿、そこで苦しみ悩む子供と大人の姿があり、涙が出る場面も多くあります。

目次より

はじめに ~この本の特徴 特別ではない特別支援教育~

(I) 特別支援教育の理念と課題
1-1 特別支援教育がめざすもの、そして特別支援教育に求められているもの
1-2 権利としての障害児教育
1-3 寄宿舎、生活教育などでの学び
1-4 日本における福祉的な取り組み
コラム1 インクルーシブ教育はもう古い?~江戸期のインクルーシブ教育

(II) 障害種別の指導と支援
2-1 特別なニーズのある子ども(1)
2-1-1 知的障害
2-1-2 視覚障害
2-1-3 聴覚障害
2-1-4 肢体不自由
2-1-5 重症心身障害
2-1-6 病弱教育
2-1-7 情緒障害
2-1-8 言語障害
コラム2 映画で捕捉する障害のある子どもと発達保障論
2-2 別なニーズのある子ども(2)
2-2-1 自閉スペクトラム症(ASD)
2-2-2 発達障害:AD/HD
2-2-3 学習障害(LD)(局限性学習障害〈SLD〉)
コラム3 重い知的障害があった少年が死亡した事故をめぐる裁判から学ぶ

(III) 多様な支援を必要とする子どもたち
3-1 外国にルーツのある子どもの教育について
3-2 配慮を必要とする家庭環境の子ども
3-3 登校拒否・不登校、社会的ひきこもり
3-4 いじめ問題に向き合う
コラム4 自己肯定感を高めるには、まず、自己有能感を高めよう

(IV) 発達保障と学校・地域
4-1 就学まで
4-1-1 乳幼児期
4-1-2 保育所、幼稚園での保育
4-2 学齢期
4-2-1 特別支援学級での学び
4-2-2 特別支援学校での学び
4-2-3 特別支援学校における医療的ケアを要する子どもたちへの対応
4-2-4 地域で育つこと(学童保育、放課後等デイサービス、NPO)
4-2-5 家族・きょうだい支援
コラム5 今も続く“仲間の集い”

4-3 教室の子どもたち
4-3-1 通常学級で学ぶ課題をもつ子どもたちの現状と子ども理解・対応
4-3-2 通級指導教室に通う子どもたち
4-3-3 通常学級における学級づくり、通常学級・通級指導教室の課題(小学校)
4-3-4 通常学級における子ども理解・通級指導の課題(中学校)
コラム6 「水に溶かしてみよう」の実験
4-4 中学校卒業後の学び
4-4-1 高等学校での学び(定時制)
4-4-2 広域通信制高校のサポート校に進学する子どもたち
4-4-3 進路指導、学校卒業後の学び場
4-4-4 大学の「場」としての学びを問う
4-4-5 成人期の生活
コラム7 高校での支援の必要な生徒

(V) 展望
5-1 特別支援教育支援員の問題点から見る今後の専門職養成の課題
5-2 北欧の現状から─スウェーデンのインクルーシブ教育の現状と課題
5-3 日本のインクルーシブ教育の方向性─北欧・スウェーデンの現状から学ぶ
5-4 ベトナムの障害児教育の歴史と現状
5-5 障害者理解という視点から人間理解 人権保障へ
5-6 「特別支援学校設置基準」策定を求めた運動と今後の課題
「この子らを世の光に」の社会を実現するために~あとがきにかえて~

索引
執筆者一覧

目次はここより

 前半部分は、障害種別の指導と支援が書かれており、後半部分が多様な支援を必要とする子どもたちとなっており、外国ルーツのある子どもたちの教育や、家庭環境、不登校やいじめ問題も書かれています。発達保障と学校・地域の中では、特別支援学級、そして、教室の中の子どもたちというところでは、通級指導教室について書かれています。

思ったこと、考えたことたくさんあるのですが、少しだけ箇条書きで。

  • 学校とは、いろんな子がいて当然なのだけれど、日本の教育現場の話を聞くと、生産性と効率性が強く求められ、「教室規範」に沿わない子が排除されるようになっているのだという点。少子化なのに、特別支援学校や支援学級の生徒が増えているという現状。
  • スウェーデンでも、教育の生産性と効率性を求めだし、それに対する批判は多い。
  • スウェーデンは、その昔、特別な支援を必要とする生徒が全体の生徒の20%を超えたために、教育システムをガラッと変えたという歴史があり、日本も、教育システムの全体、特に普通学級と言われるところを大きく変えるべき時なのでは。
  • 学校教育、特に公教育がもつ、素晴らしい面が薄れていってしまうのでは。どの子も一人として同じ子はおらず、その存在に価値があり、そうした子どもたちが友達や仲間と一緒に勉強したり、遊んだり、生活をともにする中で、学力のみならず、人格、自分の人生への希望、障害へ続く学びへの敬意を獲得していくのでは。効率性と生産性に追われる、学校教育の中では、そうした「余白」が無く、子どもたちの居場所、特に心の居場所がない。それにより、学校にいけない、行かない子が増えるのでは。
  • 2重の苦しみ:通常学級で困っている、生きづらいという子が、そのつらさを周りの大人、教師や保護者に気付いてもらえない、理解をしてもらえないという2重のつらさ。子どもたちが見せる様々なサインに気付ける「目」が必要であり、「余裕」が必要。「余裕」とは、心の余裕であったり、身体の余裕であったり、時間の余裕であったりするが、今の日本の教師にこの余裕があるのだろうか。教師の労働環境を様々な面から変える必要がある。労働時間、労働の仕方、受け持つ生徒の人数、仕事の選別、大人を増やすなどなど。。。(教員の労働組合も見直すとよい。。。)
  • 寄宿舎の話が興味深かった。寄宿舎が減っている現状に関して、知らないことが多いので、もっと勉強したいです。
  • チーム学校の話が何回かでてくるのですが、私も多職種が連携してというのは、これからのキーポイントだと思います。何でも学校が、先生が引き受けられる時代は終わり、いかに多角的につながりながら見ていけるかが、先生という仕事を楽しみながら、多様な子どもたちの多様な問題に対処していくカギとなると思います。
まだまだたくさんあるのですが、最後に本の中に出てくるエピソードで心に残っているものを。

 進行性筋ジストロフィーの生徒を受け持った体育の先生、生徒が運動会をしたいというので、張り切って、運動会をします。この生徒も活躍できるようにと、その子をには放送係をお願いします。運動会が終わるとその生徒が「先生、僕も運動会がしたかった」といいました。この先生の思い、わかるんです。そして、生徒の気持ちも。この思いを生徒が先生に言えた人間関係、信頼関係を素晴らしいと思います。こうした、相手を思う中から起こる、すれ違いは、私たちが同じ人間ではない、唯一無二の存在であるからこそ起きるものであり、大切なのは、伝えあえる人間関係、つながりをいかに創り上げていき、その中で失敗しながら、共に変えていけることが大切なのではないかと思います。

 この本が、多くの方の「人権」を考えるきっかけとなることを願います。

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