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スウェーデンの若者の4人に1人が「子どもを望まない」と答えた理由とは

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 皆さん、こんにちは!休暇のリズムにも慣れ、風邪をひいて大変だったのですが、咳が出る以外は、だいぶ良くなってきました。今日は、少子化に関するニュースです。数日前より、ウプサラ大学で行われた研究をもとにした、スウェーデンの最新調査に関するニュースが気になっています。今日は、この子どもを望まない若者の増加について、お届けしたいと思います。 1.ウプサラ大学で行われて最新調査とは 4人に一人が子どもを望まないという結果をもたらした今回の調査は、スウェーデン最古の大学、ウプサラ大学で行われました。ウプサラの産婦人科を訪れた596人女性を対象に行ったアンケート調査で、回答した女性の平均年齢は、24歳でした。ウプサラは大学の町だけあって、回答した人の多くは学生であったということで、この点は、今回の結果を理解するのに重要な点でもあるように思います。 2.調査結果は? 既に書いていますが、4人に一人の女性が、「子どもを望まない、わからない」と回答しました。2014年は10%だったそうなので、たった10年の間に14%も増えたことになります。もう少し詳しく見ると、8%が「子どもを望まない」、16%が「子どもを持つかは不透明」と回答しており、これを合わせて4人に一人と報道されたようです。「子どもを欲しい」と回答した人の割合を比べると、2014年は91%なのに対して、今回は75%なので、すごく減った印象を受けます。子どもを望む多くの人は、平均すると2人の子どもを望んでいるとのことでした。この調査では、このほかにも、コンドームを使う人が減ったこと、大半の人が性交渉の同意を強く感じると回答をしたともあります。 出典: ウプサラ大学プレス記事 3.スウェーデンの最近の出生率は? こんなニュースだと、最近のスウェーデンの出生率が気になりますよね。福祉国家で育児休暇などの様々な支援もある北欧スウェーデンですが、残念ながら、出生率は下がり続けています。2024年の統計が最新版になりますが、出生率は、ここ22年で最低となっており、2024年に生まれた子どもの数は、98500人。前年度と比べると1600人減っています。ここ数年の減少の影響は、既に私が働いてる教育界では大きく受けており、今年は、学校や就学前学校の統合や閉鎖のニュースが多く聞かれました。一人当たりの女性が生涯に産む子どもの数も減り続けており、...

スウェーデンの家庭支援プロジェクト~障害がある子どもを授かったばかりの家庭に寄り添う~

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 今日は、私が注目している新たに始まったプロジェクトのご紹介です。このプロジェクトは、障害がある子どもを授かったばかりの家庭をよりよく支援していくためのプロジェクトで、スウェーデン語では、 「Familj till familj」 (家族から家族へ)というプロジェクト名がついています。 1.プロジェクト運営と資金 このプロジェクトの実施団体は、スウェーデンで歴史が長い、障害がある人とのその家族を支援する全国組織FUBです。私も会員になっているこの会は、スウェーデンの障害がある人々のために様々な活動を行っている団体です。この団体が、スウェーデンにある公共の遺産基金に資金を提供してもらい、このプロジェクトを行っています。この公共の遺産基金がユニークで、誰かがなくなったときに、相続人がいない場合に、その遺産は国に戻り、それがこの公共の遺産基金に入ります。この基金のお金は、社会的にとって意義のある、社会貢献プロジェクトなどに使われるため、多くの障害者や福祉にかかわるプロジェクトや研究がこの基金の資金提供によって行われています。プロジェクト期間は3年間で、プロジェクトにかかわっている方の一人は、写真にある、障害がある子どもの家庭を描いた本の作者でもあります。 2.プロジェクトの概要 プロジェクトは、2025年秋より3年間の予定で行われます。プロジェクトの対象となるのは、障害がある子どもを授かったばかりの家庭になります。目的は、障害がある子どもを授かったばかりの家庭が、 家族の心と体の健康を守ること 公平な対応と支援を受けられること 問題に対処できるように、情報やつながりのツールを提供すること です。具体的に行われる内容としては、目に見えてわかる重い障害を持った赤ちゃんが生まれた家庭に、「赤ちゃんの手提げ袋」を渡し、そこに様々な情報など、必要と思われるものが入っているとうもののようです。中に入っている情報としては、専門家や様々な団体とつながれるような情報、同じような経験をした家庭とつながれるといったようなものなど、幅広くはいっているようです。これと並行して、こうした家庭とかかわる人々への研修の方法なども生み出していくとのことです。 3.プロジェクトが生まれた背景とは このプロジェクトが生まれた背景には、生まれてすぐに分かる、重い障害を持った赤ちゃんを授かった家庭が直面す...

スウェーデンのインクルーシブ教育と特別支援教育の意味とは

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  今年は、夏のコースで、ずっと取りたかったインクルーシブ教育についてのコースを取っています。今までは、コースのスタートが、ちょうど学校の最後の研修日と重なっていて、受けられなかったのですが、今年のコースは日程がずれており、よしっと思った次第です。このコースの昨日のコースの内容が大変興味深かったので、ここでアウトプットしながら、ご紹介したいと思います。 1.インクルーシブ教育と特別支援教育の立ち位置の変化 とても壮大なテーマであると思うのですが、スウェーデンで、近年聞かれるのが、「特別支援教育が必要なくなり、教育の中に含まれること」が、インクルーシブ教育に向けて、そして、インクルーシブ教育において重要ではないだろうかというものです。同じような内容は、もう10年、15年聞かれていますが、ここ数年は、より一層その傾向が強くなり、その最も大きな動きとして、学校庁が「合理的配慮の廃止」を持ち出したことにもあると思います。これに関しては、反対意見も多く聞かれるのですが、いかに、今まで特別といわれてきた教育を、普通の教育として普通の教育の中に融合できるかは、今後の大きな課題でしょう。 2.インクルーシブ教育と特別支援教育の意味とは インクルーシブ教育と特別支援教育の意味と大きな役割は、現在のインクルーシブ教育がどういうものであるのかを把握し、それが参加や学び、発達という面からみて、排除の状態であるならば、それらの要因を探り、特定していき、改善していくことが重要であるだろうと。今の状態がよいインクルーシブ教育の状態であるのならば、その良い要因を探り、特定し、維持していくこと、本人の成長や変化に対応させていくことも重要であり、つまるところ、インクルーシブ教育において、完全な形、終了型というのはないというのも、全くの同感です。この考え方であれば、常にインクルーシブ教育というのは、生徒一人、その生徒がいるグループ、学校などであれば組織、そして、社会とつながっており、変化し続けるものであるのだと思いますし、今現在、インクルーシブ教育の形で成功したという国がないのもうなずけます。 3.インクルーシブ教育「あちら派」と「こちら派」 2024年12月の投稿に「 インクルーシブ教育のこちら派とあちら派ーインクルーシブ教育に思うこと」 という記事を書きました。あの時にも感じていた、あっちと...

夏休みを満喫できない子どもたち

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このブログは、ブログを一度移行しており、旧ブログの記事を読み直して、リライトをしています。今回は、2009年7月の記事をもとにして、書いています。 夏休みというのは、多くの子どもたちが大変楽しみにしている長く自由なお休みです。スウェーデンは、年度末に夏休みがあたることもあり、また宿題を出す習慣もないため、この長い2か月半に渡る夏休みは宿題も出ません。しかしながら、この長く自由な夏休みを満喫できない子どもがスウェーデンにも多くいます。今日は、そんな子どもたちの実態についてです。 1.家庭に問題のある子どもたちの多さ 旧ブログの記事を書いたのは2009年なので、自分の書いた文章に「日本と比べると」という部分があり、印象的です。2025年の今は、日本を離れて長く、比べることは難しくなってきています。何を比べるとというと、アルコール中毒や薬物中毒についての話がスウェーデンでは日本よりもオープンにされるということ。現在は日本でもよく話題になるようになったのではないかと思います。いかがでしょうか。 スウェーデンでは、親がアルコール中毒や薬物中毒、もしくはそのほかの何らかの理由で、精神的もしくは身体的に虐待を受けたことがある子どもが、かなりいます。以下のグラフは、「Blå」と呼ばれるスウェーデンの犯罪予防評議会が出している最新の統計になります。これは、届け出が出されたものであり、届け出が出ていないものを加味すれば、これ以上の児童虐待が行われていると思われます。0~6歳児の虐待の多くは、就学前学校で発見されるので、夏の間の届け出が減るそうです。スウェーデンの学校などは、何かしらのネグレクトや虐待の疑いがある場合には、届け出をする義務があるので、目の届かなくなる夏には届け出も減るというのは、夏休みを満喫できていない子どもたちがどこかにいることになり、心配になります。 緑:0~6歳、オレンジ:7~14歳、紫:15~17歳 ( 出典 ) 2.夏休みになるとなくなるもの 夏休みになると何がなくなるのか。まず、スウェーデンでいわれるのが、給食です。やはり食べ物って大きいですよね。物価の上昇に伴い、困窮家庭が増えたことがわかるのが、学校給食での消費が増えることと聞いています。スウェーデンの学校給食は、バイキング、ブッフェ形式なので、好きなものを好きなだけとることができます。このため、上記のよう...

ストックホルムで始まる登校困難な子どもたちへの遠隔授業

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 2025年秋学期から、私が働いているストックホルム市でも、長期にわたる欠席をしており、登校困難な児童生徒を対象に、特別な支援の一環として、遠隔授業の提供が始まります。この遠隔授業は、既にヨーテボリとウプサラで開始されており、ストックホルムでもやっと学校検査庁に承認されたので、晴れて秋学期から開始の運びとなりました。これにより、教室に戻ることが難しい子どもたちも、教育を受ける権利、義務教育を公的なお金によって無償で受ける権利を保障されることになりました。今日は、この遠隔授業に関して、詳しく説明したいと思います。 1.遠隔授業導入の背景とは スウェーデンでも、学校に通うことが困難な、いわゆる不登校とされる児童生徒が存在します。これに関して以前に書いたものがありますので、興味のある方はぜひ、 こちらのJ=Stage から、「スウェーデンひきこもりの若者の実態とそのとりくみー早期発見と早期支援を中心とした継続的な社会支援」 をご一読ください。2022年のものになりますので、あれから、スウェーデンでは、更に様々な取り組みが地道にされています。その中の一つとして、法改正にもどつく、この遠隔授業の導入があげられます。 私の働くストックホルム市でも、細かい学校登校出席に関する対策のプランがあり、こういったプランにより、現在のストックホルム市では、10年前に比べるとはるかに詳しい登校困難児の統計があります。こういった統計によれば、ストックホルム市の公立の学校で、2024年春の時点で、基礎学校4年から9年生の生徒に、1000人以上の出席率50%未満の生徒がいたとあります。この深刻な状況を何とかしようと、今回の遠隔授業の導入に至りました。 2.ストックホルム市の遠隔授業の概要は? 2025年の秋学期には、まず、50人の生徒を対象として立ち上げプロジェクトを実施するとのことです。対象となる科目は、スウェーデン語(第2言語としてのスウェーデン語を含む)、英語、外国語、数学、理科、社会、母国語、自然科学、社会科学、テクニックなどになります。この遠隔授業の最も大きな目的は、長期にわたる学校欠席の悪循環を断ち切り、生徒が再び学校に通えるようになるように支援することにあります。 今後の計画としては、来年2026年秋学期からは、100人の生徒の受け入れを目指し、民営の学校からの生徒も受け入れ...

スウェーデンの就学前教育義務化への動き

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 昨日の「 スウェーデン、就学前クラスの廃止と10年間の基礎学校教育開始 」に引き続き、今日は、スウェーデンの就学前教育義務化への動きについてです。スウェーデンの就学前教育の歴史を簡単にまとめたのちに、義務化への動きについて現地で見聞きすることをご紹介します。 1.スウェーデンの幼児教育の歩み スウェーデンでは、幼児教育はもともと「保育」の要素が強く、今の「Förskola就学前学校」となり就学前教育となったのは、最近のことです。それまでは、日本であれば、保育園といった感じで、名称も今のように「学校」とは入っていませんでした。もちろん管轄も、教育関係の文部科学省系ではなく、社会福祉などの厚生労働省系が行っていました。こうした日中子どもたちを預かる場所が増えていき、子どもの発達や学びに関する研究が進んでいき、スウェーデンでも「遊びの中での学び」と「社会的な関わり」を通じて子どもたちが学ぶ場としての位置づけは進んでいきます。そして、1998年に、就学前学校は教育省、学校庁の管轄になり、スウェーデンで初めての「就学前教育に関するカリキュラム」が出されたのです。 2.幼児教育はいつから教育になったの? 上記の歴史を簡単に書いた後に少し違和感のあるタイトルですが、スウェーデンの幼児教育は、常に教育でも保育でもあったというのが正解かもしれません。「エデュケア」という言葉があり、教育(Education)と保育(Care)を重ね合わせたもので、スウェーデンでは、この複合型の幼児教育を行ってきた印象があります。前出の1998年の法改正の際に「基礎自治体は、教育を受けてきた、教師、幼稚園教諭、学童保育教育者を雇用して授業を行う義務がある」と明記され、それまでは、「教師」であれば、幼稚園教諭や学童保育教育者でなくてもよかったとのことです。この法改正からも、それまでの幼児教育が、幼児教育を教えるために教育を受けてきた人々によって担われていなかったかもしれないことが分かります。このような歴史的背景もあってか、スウェーデンの就学前教育にかかわる人々の地位やお給料などは、全体的に低めな傾向があると思うのは私だけではないと思います。 3.なぜ、今3歳からの義務化なの? 現在は義務化に向けての下準備中で、調査と議論が行われている段階です。今でも、実は3歳児の95%が就学前学校に通っているので、義務...

スウェーデン、就学前クラスの廃止と10年間の基礎学校教育開始

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  昨日のスウェーデン教育界の最大のニュースは、就学前クラスの廃止決定と10年間の基礎学校教育が2028年秋学期より開始すると正式に決定したことでした。この記事では、この変更の背景や目的、そして実際のスウェーデンの教育現場の生の声をわかりやすく紹介したいと思います。 1.スウェーデンの義務教育は10年なったのは2018年 スウェーデンの義務教育は、2018年より既に10年間になっており、「10年間の義務教育」になったことが今回の大きなポイントではありません。今回は、「就学前クラス」の廃止が正式に決まって、基礎学校が1年から10年になったことになります。この議論はずいぶん前からあり、2,018年に就学前クラスが義務化されたころから、既に2028年に向けての移行期間に、例えば、就学前クラスで働く幼稚園教諭が基礎学校低学年で教えられるようにと準備が進められてきました。この10年の基礎学校教育もすでに2021年5月には、関連の調査が終わっており、昨日の決定に向けて着々と動いてきました。このブログの記事を振り返ると、何度か義務化の動きを取り上げており、2014年のものもあるので、ここまで長かったとも思いますが、こういった変化は時間を要するものであるとも思います。 2.スウェーデンの就学前学校とは 日本は、小中学校という6年と3年という区分がしっかりされて9年間の義務教育が行われています。これに対して、スウェーデンでは、「就学前クラス」という6歳児が通い、就学前教育(幼児教育)を行うクラスに1年在籍したのちに、1年生に入り9年生までの教育を受けるというシステムになっています。また、余談ですが、日本のように6年と3年という決まった区分もないため、学校によって、3年生までだったり、6年生までだったりします。現在は、カリキュラムが3,6,9で分かれているので、これに合わせた学校が多いように思いますが、その昔はバリエーションがありました。 この就学前クラスは、基礎学校にあることが一般的なので、実質は、就学前学校(幼稚園や保育園にあたる)ところを卒園して、この就学前クラスに入るのが、日本的な意味での「小学校入学」にあたります。6歳児が通うことが多いことから「6歳児クラス」とも呼ばれますが、スウェーデンでは、就学を1年早めることや遅くすることができるので、6歳児でない生徒もいます。...