ストックホルムで始まる登校困難な子どもたちへの遠隔授業

 2025年秋学期から、私が働いているストックホルム市でも、長期にわたる欠席をしており、登校困難な児童生徒を対象に、特別な支援の一環として、遠隔授業の提供が始まります。この遠隔授業は、既にヨーテボリとウプサラで開始されており、ストックホルムでもやっと学校検査庁に承認されたので、晴れて秋学期から開始の運びとなりました。これにより、教室に戻ることが難しい子どもたちも、教育を受ける権利、義務教育を公的なお金によって無償で受ける権利を保障されることになりました。今日は、この遠隔授業に関して、詳しく説明したいと思います。

1.遠隔授業導入の背景とは

スウェーデンでも、学校に通うことが困難な、いわゆる不登校とされる児童生徒が存在します。これに関して以前に書いたものがありますので、興味のある方はぜひ、こちらのJ=Stage から、「スウェーデンひきこもりの若者の実態とそのとりくみー早期発見と早期支援を中心とした継続的な社会支援」をご一読ください。2022年のものになりますので、あれから、スウェーデンでは、更に様々な取り組みが地道にされています。その中の一つとして、法改正にもどつく、この遠隔授業の導入があげられます。

私の働くストックホルム市でも、細かい学校登校出席に関する対策のプランがあり、こういったプランにより、現在のストックホルム市では、10年前に比べるとはるかに詳しい登校困難児の統計があります。こういった統計によれば、ストックホルム市の公立の学校で、2024年春の時点で、基礎学校4年から9年生の生徒に、1000人以上の出席率50%未満の生徒がいたとあります。この深刻な状況を何とかしようと、今回の遠隔授業の導入に至りました。

2.ストックホルム市の遠隔授業の概要は?

2025年の秋学期には、まず、50人の生徒を対象として立ち上げプロジェクトを実施するとのことです。対象となる科目は、スウェーデン語(第2言語としてのスウェーデン語を含む)、英語、外国語、数学、理科、社会、母国語、自然科学、社会科学、テクニックなどになります。この遠隔授業の最も大きな目的は、長期にわたる学校欠席の悪循環を断ち切り、生徒が再び学校に通えるようになるように支援することにあります。

今後の計画としては、来年2026年秋学期からは、100人の生徒の受け入れを目指し、民営の学校からの生徒も受け入れるとのことです。最終的には、200人の生徒を受け入れることができるそうです。

3.対象となる児童生徒は?

誰が通えるのか、重要なポイントですよね。予想されていると思うのですが、誰でも希望をすれば通えるものではありません。学校法第22章に遠隔授業について書かれており、その遠隔授業が提供される児童生徒については学校法22条第5条に書かれています。それによると、

  • 医学的、心理的、または社会的な理由により、通常の授業に参加できないことが、文書で記録されて確認されていること。
  • 他のすべての特別支援の方法が既に行われ、それらでは改善されなかった、合わなかったと判断されていること
  • 保護者が遠隔授業の実施に同意していること

の3つの条件をすべて満たす生徒が対象になります。以下の三角形を見たことがある方がいらっしゃるかもしれません。スウェーデンや諸外国でよく用いられる特別支援に関する段階図になります。スウェーデンは、緑と黄いろの部分を通常の授業で教師が行います。今回の遠隔授業は、この黄色と緑の部分はもちろん行われ、それでも出席率が改善しない場合に赤の部分の「特別な支援」として、学校庁の判断で、基礎学校の4年から9年生までを対象に学期ごとの判断で行えるものです。低学年の児童生徒の場合は、例外の例外で何かしらの明確な理由があれば行えるとあります。

生徒の健康、特別支援に関する図 サリネン作

4.誰が行えるのか?

どの学校でも遠隔授業が行えるわけではありません。遠隔授業を提供するためには、スウェーデンの学校検査庁に申請をして、申請が認められた場合に行えることができ、その申請ができるのは、公立であれば、基礎自治体の長、民営であれば、その会社が行うことになります。

5.特別支援教育の視点と教育を受ける権利から

今回の遠隔授業の決定は、とても大きなもので、私が出た市の会議でも何度か話題になりました。不安や社会的な部分での困難さを抱える児童生徒や、発達障害や精神の不健康、家庭の事情など様々な理由によって学校に通えなくなる子どもがいます。その子たちを見逃すことなす、丁寧に支援を続け、こうした遠隔授業が提供されることは良いことであると思います。ともに学ぶことが重要であるとも思うのですが、そこに至るまでに様々な支援をされてきた子どもたちがこうした遠隔授業をうけ、成長したのちに、高校や大学、社会でともに過ごすことができるだろうというのは、想像に難くありません。今何かしらの理由で学校に通えないことが、将来的な壁とならないように、教育を受ける権利を国の予算で、無償で保障することは重要であると思います。

また、こうした遠隔授業が成り立っていくためには、これに特化した教員や生徒の健康チームとの密接な連携などは不可欠であると思います。今後、技術環境や明確なカリキュラム、授業時間数、指導体制など、様々な課題もあります。

スウェーデンでは、ほかの国で認められているような、ホームスクールは認められておらす、こうした「学校外」の学びの場に関しても批判的な見方が多く、ここに至るまでに多くの議論がされてきましたが、近年の不登校児の増加、また、コロナ禍の遠隔授業の実践により、その効果を見て、遠隔授業がスピーディーに法制度化されたと思います。多様な学びといわれる中で、インクルーシブ教育というと、どうしても、ともに同じ場で学ぶという方向に動きがちなのですが、こうした取り組みも重要であると感じます。


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