スウェーデンの就学前教育義務化への動き

 昨日の「スウェーデン、就学前クラスの廃止と10年間の基礎学校教育開始」に引き続き、今日は、スウェーデンの就学前教育義務化への動きについてです。スウェーデンの就学前教育の歴史を簡単にまとめたのちに、義務化への動きについて現地で見聞きすることをご紹介します。

1.スウェーデンの幼児教育の歩み

スウェーデンでは、幼児教育はもともと「保育」の要素が強く、今の「Förskola就学前学校」となり就学前教育となったのは、最近のことです。それまでは、日本であれば、保育園といった感じで、名称も今のように「学校」とは入っていませんでした。もちろん管轄も、教育関係の文部科学省系ではなく、社会福祉などの厚生労働省系が行っていました。こうした日中子どもたちを預かる場所が増えていき、子どもの発達や学びに関する研究が進んでいき、スウェーデンでも「遊びの中での学び」と「社会的な関わり」を通じて子どもたちが学ぶ場としての位置づけは進んでいきます。そして、1998年に、就学前学校は教育省、学校庁の管轄になり、スウェーデンで初めての「就学前教育に関するカリキュラム」が出されたのです。

2.幼児教育はいつから教育になったの?

上記の歴史を簡単に書いた後に少し違和感のあるタイトルですが、スウェーデンの幼児教育は、常に教育でも保育でもあったというのが正解かもしれません。「エデュケア」という言葉があり、教育(Education)と保育(Care)を重ね合わせたもので、スウェーデンでは、この複合型の幼児教育を行ってきた印象があります。前出の1998年の法改正の際に「基礎自治体は、教育を受けてきた、教師、幼稚園教諭、学童保育教育者を雇用して授業を行う義務がある」と明記され、それまでは、「教師」であれば、幼稚園教諭や学童保育教育者でなくてもよかったとのことです。この法改正からも、それまでの幼児教育が、幼児教育を教えるために教育を受けてきた人々によって担われていなかったかもしれないことが分かります。このような歴史的背景もあってか、スウェーデンの就学前教育にかかわる人々の地位やお給料などは、全体的に低めな傾向があると思うのは私だけではないと思います。

3.なぜ、今3歳からの義務化なの?

現在は義務化に向けての下準備中で、調査と議論が行われている段階です。今でも、実は3歳児の95%が就学前学校に通っているので、義務化しなくてもみんな通っているのです。スウェーデンは、共働きが多いですし、1歳から就学前学校に通えますので、多くの家庭では、子供が1歳半、遅くても2歳までには就学前学校に通わせ始めます。しかしながら、この95%という数字は、全国値であり、地域別にみていくと、脆弱な地域と呼ばれる異なった文化背景を持つ人々や経済的弱者などが多く住む地域では、ぐっと低くなる傾向にあります。そういった家庭の子どもたちこそ、就学前学校に早くから通って、早期からスウェーデン語の習得に向けた言語環境に触れることが重要なのですが。また、何かしらの支援が必要な子どもたちを早期に見つけにくいというのも大きな問題となっています。こういった子どもたちが、就学前学校に通うことなく、義務教育になった6歳児に基礎学校で見られるようになったこと、また、やはり昨日の記事同様にスウェーデンの学力が低下していることなどが容易となって、3歳からの義務化が本格化してきたのです。

4.義務化で現場はどうなるのか?

今回の義務化の内容としては、国内すべての3歳から5歳児が週30時間の就学前教育を受けるという方針で、1日にすると、朝9時から15時、週5日間通うことになります。(あくまでも例です。)すでに3歳児で95%、4歳5歳はそれを上回る子どもたちが就学前学校に通っていますので、園によってはあまり変化がないかもしれません。基礎自治体によって、親が育児休暇などで家にいる場合は週15時間保育にしているところもあるので、全く影響がないわけではありません。しかしながら、1グループの子どもたちの人数が増えてしまうのではないかという懸念はあり、並行して、1グループあたりの人数制限を法制化しようという動きがあります。ここ数年はスウェーデンは、子どもの人数が減少傾向にあり、閉鎖や統合されている就学前学校もあるので、リソース的には、組織改革によって何とかなる気もします。

5.義務化に反対か、賛成か?

私個人の意見としては、義務化は賛成派です。もともと多くの子どもたちが就学前学校に通っていますし、子どもたちが早いうちに集団の中で遊びを通じて学ぶ、社会性を身に着けるというのは、重要であると思います。ただ、反対派の意見もよく分かります。例えば、難しいのが、「家庭の選択権」と「多様な文化の尊重」であると思います。スウェーデンよりも他国の方がこういった意識は強いとも思うのですが、教育を親の考え方に基づいて選ばれるものであるとも思うので、義務教育になる前の就学前の段階を義務化していくことで、さらに国が子育てに介入していくことに懸念を示す人々も理解ができます。また、移民や宗教的な背景を持つご家庭にとっては、幼い子どもを家庭で育てるというのも重要な権利であるように思います。


こうした議論に正解があるとは思えず、社会の流れ、世の中の発展に伴って変化していくものであるように思います。そして、何よりも重要なことは、すべての子どもが、愛され、安心して育ち、学べる環境で幼児期を過ごすことができるというのが最も重要であると思います。

美しいストックホルムの春の終わりの夕焼けを。




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