スウェーデン、就学前クラスの廃止と10年間の基礎学校教育開始

  昨日のスウェーデン教育界の最大のニュースは、就学前クラスの廃止決定と10年間の基礎学校教育が2028年秋学期より開始すると正式に決定したことでした。この記事では、この変更の背景や目的、そして実際のスウェーデンの教育現場の生の声をわかりやすく紹介したいと思います。

1.スウェーデンの義務教育は10年なったのは2018年

スウェーデンの義務教育は、2018年より既に10年間になっており、「10年間の義務教育」になったことが今回の大きなポイントではありません。今回は、「就学前クラス」の廃止が正式に決まって、基礎学校が1年から10年になったことになります。この議論はずいぶん前からあり、2,018年に就学前クラスが義務化されたころから、既に2028年に向けての移行期間に、例えば、就学前クラスで働く幼稚園教諭が基礎学校低学年で教えられるようにと準備が進められてきました。この10年の基礎学校教育もすでに2021年5月には、関連の調査が終わっており、昨日の決定に向けて着々と動いてきました。このブログの記事を振り返ると、何度か義務化の動きを取り上げており、2014年のものもあるので、ここまで長かったとも思いますが、こういった変化は時間を要するものであるとも思います。

2.スウェーデンの就学前学校とは

日本は、小中学校という6年と3年という区分がしっかりされて9年間の義務教育が行われています。これに対して、スウェーデンでは、「就学前クラス」という6歳児が通い、就学前教育(幼児教育)を行うクラスに1年在籍したのちに、1年生に入り9年生までの教育を受けるというシステムになっています。また、余談ですが、日本のように6年と3年という決まった区分もないため、学校によって、3年生までだったり、6年生までだったりします。現在は、カリキュラムが3,6,9で分かれているので、これに合わせた学校が多いように思いますが、その昔はバリエーションがありました。

この就学前クラスは、基礎学校にあることが一般的なので、実質は、就学前学校(幼稚園や保育園にあたる)ところを卒園して、この就学前クラスに入るのが、日本的な意味での「小学校入学」にあたります。6歳児が通うことが多いことから「6歳児クラス」とも呼ばれますが、スウェーデンでは、就学を1年早めることや遅くすることができるので、6歳児でない生徒もいます。この就学前クラスは、就学前教育を行うということで、幼稚園教諭が働ける学校の場でもあります。現在の幼稚園教諭資格は、基礎学校の低学年を教えることができるようになっているコースも多くあります。また、現在すでに就学前クラスで働いている幼稚園教諭のみの資格を持った人たちには、移行期間として、免許の書き換えが促されていました。

3.10年間の基礎学校教育の背景とは

定番ですが、やはり一番の根っこは、「学力低下」であると思います。議論自体は、10年以上前に始まっていたので、そのころからのPISAを含めた国際的な学力調査でのスウェーデンの順位低下は大きな要因でしょう。これに加えて、現場でも感じる子どもたちの学力低下、特に読み書き、計算の基礎学力の不足は大きな問題となってきました。これらの問題を解消するには、学校で学ぶ時間を長くし、早い段階から基礎学力をつけていくことが必要であると、今回の改革以外にも、読み書き計算の保障制度の導入、教科時間数の見直しや、カリキュラムの変更など様々な改革がされてきました。これらと並行して、就学間教育の義務化も議論されています。

スウェーデンは、日本とは高校入試の制度が異なり、基礎学校9年生の最終成績が高校入学判定に用いられます。現行のシステムでは、主要教科に不可がある場合、高校入学ができないシステムになっており、この不可により、高校に入学できない生徒が増えていることも大きな要因です。スウェーデンで書かれるいい方としては、「高校のナショナルプログラムへの入学資格がない生徒の割合」という風で書かれることが多く、できるだけ多くの生徒に(すべての生徒に)」最低限度の学力、納税を行うことができる成人となるための力をつけていきたいスウェーデン国家としては大きな問題なのです。

4.就学前クラス廃止のねらいとは

就学前クラスは、日本でスウェーデンのユニークな教育として、取り上げられたこともある、スウェーデン的な素晴らしい教育のシステムであると思います。日本の就学前教育に比べると、スウェーデンの就学前教育は、遊びの中から学びを促す形をとっており、学校に入り、急に座学になるとなかなか変化に対応できない子が出てもおかしくないのですが、その間で、就学前教育から義務教育への移行を緩やかに行ってきたのがこの就学前クラスなのです。しかしながら、この就学前教育の教育の質については、問題として取り上げられることも多く、全国の学校において、かなりの差があるともいわれていきました。特に子どもたちのスウェーデン語能力の差に関しては常々言われてきており、スウェーデン語ができない子どもたちは、学びに遅れが出やすく、すべての子どもが平等に義務教育をスタートさせることができる、その機会を保障しようというのが大きな狙いであると思います。

就学前クラスの良さは、幼児教育と義務教育との間で、遊びを中心に学びを行うというと、聞こえはすごく良いのですが、実際には、現場によってかなり差があり、また、教師によって差があります。(当然のことかもしれませんが。。。)より明確に子どもたちに基礎学力をつけていこうとすると、このあいまいさがよかった就学前クラスの教育を変えていく必要があるということなのでしょう。実際に見学をすると、机といすがあって座って学ぶ時間もあれば、基礎学校の低学年の授業に類似するところも多く、基礎学校の1年生として新たにスタートをきることもできる段階には来ていると思います。

5.就学前クラス廃止の利点

私が思う就学前クラスの問題として、大きく感じていたことが2点あり、こちらが解消されるのは、一つの利点かと思います。一つ目は、担任交代を減らせることです。就学前クラスの問題として言われていたのが、やっと1年目で慣れた担任が変わってしまうことでした。これは、雇われている教員が持っている資格によるので、すべての場合に当てはまるわけではないですが、基本的に、幼稚園教諭が受け持つことが多かった就学前クラスは、この先生が1年生を教えることができないことが多かったために、担任交代が生じることが問題だといわれてきました。日本だと1年で変わるのが当たり前なのですが、スウェーデンは、割と持ち上がりが一般的で、特に近年の人間関係の重要性による研究からも、持ち上がりを好む傾向にあります。低学年は、人間関係作りにも時間を要する子どもも多いので、今後、1年生から数年持ち上がりになることは利点であると思います。ちなみに、スウェーデンの先生は、就職活動をして転職していくので、こういった年度末以外にも先生が新しい仕事を見つけて変わることがあります。

もう一点は、私が支援学校には、就学前クラスがないことにあります。就学前クラスは基礎学校にあり、支援学校の生徒も、理論的には、基礎学校の就学前クラスに通い、その1年間の間に、支援学校か基礎学校に決まるという感じのイメージがありました。しかしながら、明らかに支援学校対象の生徒が、基礎学校の就学前クラスに入ると、そのクラスの負担が大きく、多くの場合は、明らかな対象児は、支援学校に入ります。が、その生徒は基礎学校の就学前クラス分の「生徒のお金」しか持ってこないため、支援学校にとっては、この生徒はかなりお金のかかる生徒になっているのです。これにより、支援学校によっては、6歳児を受け入れないというところもあって、問題となっています。この明らかな支援学校対象児と、どちらか不明な生徒に対する対応の仕方が、国内で違っていることも問題となってきました。今回の就学前クラスの廃止により、既に10年生になっている「特別学校」と同様になることは、好意的に受け入れられています。


だいぶ長くなりましたので、今日はこのあたりで。皆様良い1日を。写真は生徒たちが木工の時間に作った人の体です。


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コメント

  1. 初めまして。日本の特別支援学校で教員をしている中山と申します。
    以前から、スウェーデンの教育に興味があり、貴著「医療・福祉・教育・社会がつながるスウェーデンの多様な学校~子どもの発達を支える多職種協働システム」を拝読して以来、フォローさせていただいております。
    今回の記事の「既に10年生になっている「特別学校」と同様になる」を読んで、特別基礎学校には就学前の5歳児のクラスがあることを知りました。早期からの療育、教育の有効性については議論の余地がないと思いますが、特別基礎学校でもっと早期の就学前のお子さんを預かることになった場合、実際の現場はどのようになるとお考えですか。次回の「就学前教育義務化」ではスウェーデンでは3歳から義務化と書かれています。特別基礎学校に3歳児クラス、4歳児クラスが新たに開設されることになるのでしょうか。スウェーデンの特別基礎学校の就学前クラスの様子がもっと知りたいです。よろしくお願いします。

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  2. 中山様 コメントをありがとうございます。また、本も読んでいただき、本当にありがとうございます。「特別学校 Specialskola」は、国管轄の聾学校になります。この学校は聾、聾重複の子どもたちが通っており、ずいぶん前から10年生になっています。日本でいうところの特別支援学校にあたる「基礎特別支援学校」は、その昔は申請すると通える「10年目」がありました。これはだいぶ前に廃止されています。

    質問にありました、「もっと早期の就学前のお子さんを預かることになった場合」ですが、義務教育の中でということですよね?スウェーデンの場合、就学前の子どもが義務教育で預かるというのは、特例中の特例なので、実際の現場に未就学児が入ってくることは、ほぼないと思います。小さい基礎自治体や地方などでは、まれに未就学児の重い障害を持った子供が、就学前学校よりは支援学校の方がよいと判断されることがありますが、すごく稀です。就学前教育と義務教育は、しっかりと分けられており、就学前教育の義務化が、支援学校の「幼稚部」的な扱いになるには、かなりの議論を要すると思います。これは、インクルーシブ教育の方針にもかかわってくるので、よほどでないと出ないと思います。スウェーデンの特別支援学校の場合、学年ではなく、そこにいる子どもたちの特性などからクラス分けをする場合が多いので、就学前クラスという6歳児だけ集めたクラスは数が少ないと思います。私の勤務子は、6歳児と低学年を一緒にしてクラスを編成しています。こうやって回答していくと、この部分ももっと詳しく記事にしてもいいかなと思い始めました。これからもよろしくお願います。

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