2023年7月13日木曜日

個人アシスタントが付くスウェーデンの障害者

 スウェーデンには、「個人のアシスタント(Personlg Assistant)」という制度があります。今日はこの個人アシスタントについての旧ブログの記事をリライトします。個人アシスタントは、身の回りの介助が必要な障害がある方が利用できる制度で、子どもでも大人でもその必要に応じてつきます。どんな障害でも着くというわけではないですし、どのくらい(何時間くらい)つくかなども、個人によって大きく変わります。日本からの問い合わせが時々あるスウェーデンの制度です。

1.LSSという法律

 スウェーデンには、Lagen om stöd och service till vissa funktionshindrade (LSS)という法律があります。その頭文字をとって通称LSSと呼ばれ、現在の福祉国家スウェーデンの福祉制度を代表する法律です。個人アシスタントの制度も、この法律に基づいています。この制度は、1993年にできたもので、障害を持った人々が様々な援助や支援、サービスを受ける権利を書き記したものです。この法律に基づき、各市にある社会福祉局が中心とする、LSS担当者(社会福祉士やそれに類似した資格を持った人がなっていることが多い)がその内容を見定めていき、障害者に対する様々なサービスが決定していきます。

2.LSSで受けられる福祉支援

 個人アシスタントの福祉支援以外にLSSで受けられる福祉支援には、施設への入居、ショートスティ利用、障害者用のタクシー利用(移動支援)、付添人の利用などがあります。障害がある人とその家族がLSS担当者との面談を経て、本人の希望やそのニーズに応じたものが提供されます。

3.個人アシスタントの削減傾向

 個人アシスタントは、90年代に行われたスウェーデンの福祉改革の中でも先進的なもので、大変画期的なものでした。多くの肢体不自由の障害がある人々にとって、この制度を利用することによって、同年代の人々と同じような暮らしを可能としました。しかしながら、当初の想像よりも多くの人々がこの制度を利用するようになり、また、制度を悪用する人も出るようになり、だんだんと財政的に制度を維持していくことが難しくなり始めました。そのため、数年前より、個人アシスタントの申請の際の審査が厳しくなったり、時間数が削減されるようになりました。

このブログの中でも、2016年に個人アシスタントの削減傾向について取り上げたものがありますので、ぜひご一読ください。(ブログの歴史を感じます。😊)

個人アシスタント削減傾向 (2016年の投稿)

 過去ブログの内容をさらにさかのぼると2011年にも、個人アシスタントを申請した人のうち、4分の1以上の人が却下されているというものがありました。この2011年当時のものを振り返ると、却下の大きな要因は、「保護者の責任」という点からのものでした。子どもに障害があろうがなかろうが、保護者には18歳までの責任があるので、その責任という点から、個人アシスタントの申請が却下されたり、希望の時間数の許可が下りないというものです。個人アシスタントの制度自体が、障害により身の回りのことが自分でできない場合につくものであるので、このあたりの解釈も判定する人や時代の流れによるところもあるように思います。といっても、家族特に保護者の負担は大きいと思うんで、支援援助が必要な人にしっかりと届けられることを願うばかりです。

4.学校についてくる個人アシスタント

 すべての個人アシスタントではないですが、学校についてくる個人アシスタントもいます。多くの場合、呼吸に関する支援援助が必要な場合は、個人アシスタントの付き添いが認められていると感じます。こうした支援の判定は、各基礎自治体の担当者が個々の障害とニーズなどを総合的に判断して決定するので、こうだという一律の基準はないのですが、簡単な医療行為は学校で職員が行うので、呼吸にかかわるものになると個人アシスタントが1名もしくは2名ついているように思います。

5.個人アシスタントと暮らす障害者の生活

 個人アシスタントと一緒に障害者が暮らす生活は、スウェーデンでは一般的です。この制度ができて、20年以上がたち、こうした個人アシスタントとの暮らしは、障害の重度さもありますが、コミュニケーション方法が確立されている人に適しているといわれています。私の教え子にも、こうした個人アシスタントとの生活をしていた人がいますが、個人アシスタントが働かず、うまくいかなかった話もあります。後見人などがしっかりとしていて、常に目を光らせていればいいのですが、そうでない場合はなかなか難しいのです。

 過去のブログにある人の例を書いていましたので、それをここにも書いておきます。29歳の女性、ストックホルム郊外で個人アシスタントとともに一人暮らしをしています。アシスタントは数名おり、入れ替わり立ち代わり彼女が一人暮らししているアパートに仕事としてきます。このお方は5年前の24歳の時に独り立ちし、それまでは、実家で暮らしていました。両親は、いつか独り立ちをしてほしいと願っており、学校を卒業してから他の家族などと一緒に勉強会を開き、どのように独り立ちを実現するか考えてきたとのことです。この例で私が過去ブログに書いているのが、この女性の恵まれた環境というもので、彼女の母親は、もともとは集中治療室専門の看護士で、その当時はそういった関係の先生をしている方でした。多くの個人アシスタントには、女性の二人の姉妹も含まれており、そのうちの一人がアシスタントの総括責任者をしているとのことでした。こういった家族の支えは、やはりこうした個人アシスタントがうまく回るかの大きなカギになることは、北欧スウェーデンでもよく見聞きします。実際に引っ越して独り暮らしをするまでには、約2年かかったそうで、地域のハビリテーリングや基礎自治体の担当者がかかわって、アパートを住みやすいものにと変えていったようです。母親が自分の仕事もあきらめず、娘のためにも自分の人生を歩んでいってほしいと願い、尽力した結果であるともありました。

 こうしたスウェーデンの個人アシスタントの制度を利用して、自立した生活を送ることを可能としている福祉システムは素晴らしいものであると思います。親は親の人生を、子はこの人生を送れる社会というのは、決して福祉制度のみで生まれるものではなく、その釈迦にある文化や歴史、考え方に基づいており、スウェーデンの今の形も長い歴史の中にあります。日本でも今後様々な議論とともに、日本の形が生まれてくることを願っています。

以下は過去のブログで、日本の本を読んだ時の感想になります。

ヘルパーさんとアシスタントの質 (2018年の投稿)

以下は、2022年に全障研の岐阜支部で「私たちのじりつをさぐる ~自助・共助・公助論を超えて」でオンラインで講演させていただいたときに、ご紹介させいただいた方が個人アシスタントとともに暮らすアパートの映像です。




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