2023年7月1日土曜日

通常学級の中から特別支援教育を

  時間に余裕がないとじっくりとお話を伺うということがなかなかできず、ご連絡をいただいても、対応できないことが多かったのですが、夏の休暇に入り、個別にいろいろと話を伺う機会をいただき、いろいろと思うことがあります。その中から、今日は、通常学級でも行われるべき、特別支援教育というものについて、少し考えたいと思います。

1.日本の特別支援教育の始まり

 私が日本の大学で学んだ頃は、まだ特別支援教育ではなく、学んだ学科も、教育学部にあった障害児教育学科でした。学校も特別支援学校ではなく、養護学校と呼ばれた時代で、岐阜県内の養護学校で働いてから、スウェーデンに来ました。今の特別支援教育は、私がスウェーデンに来てから始まりました。少し調べてみると、「特殊教育」と呼ばれていたものが、「特別支援教育」という名前になり、2007年より正式に実施されるようになったようです。私がスウェーデンにやってきたのは、2001年ですので、その6年後ということになります。

2.子どもの権利条約

 通常学級を含むすべての教育において特別支援教育をという流れは、スウェーデンとあまり変わらないというのが、私の印象です。1989年に「児童の権利に関する条約」通称、「子どもの権利条約」が出ます。この条約は、日本でも、かなり定着し、内容はともかく、名前を知らない人は少なくなってきているのではと思います。この条約の中に、

障害のあることもについて可能な限り社会への統合が行われること、および、教育・訓練の機会をりようできるようにすること (第23条)

というのがあります。スウェーデンでは、住んでいる地域、生まれたところで、生活し、学び、成長していけることの重要さがうたわれ、訓練のために違う施設に通うのではなく、普段通っている就学前学校の中で支援を受けること、地域の学校に通うことなどは、この条約により、かなり変わったと感じます。

3.障害を持つ人々の機会均等化に関する基準原則

 次に、1993年になると国連の第48回総会にて、「障害を持つ人々の機会均等化に関する基準原則」が採択されます。この決議では、障害のある子ども、青年、成人について、初等教育、中等教育、中等教育狩猟後の教育委における統合された場での教育の機会均等の原則が取り上げられ、その認識を深めました。これを受けて、今のインクルーシブ教育の大元ともいえる、サラマンカ声明につながります。

4.サラマンカ声明

 忘れてならないのが、1994年、スペインのサラマンカで行われた「特別なニーズ教育に関する世界会議」です。この会議で宣言された「サラマンカ宣言」は、スウェーデンでも大きな影響を与え、今の学校教育の形を作る基盤となりました。この会議で採択されたのが、「特別なニーズ教育における原則、政策、実践に関するサラマンカ声明と行動の枠組み」です。これがインクルーシブ教育の流れを世界的に生み出したものとなります。サラマンカ声明は、大きな意味と意義があり、影響を与えましたが、条約ではありません。世界的にインクルーシブな流れを生み出し、そのための国際的な枠組みを生み出した点では大変な功績であると思いますが、現場が変わっていくには長い時間を要する、要したというのが実感です。

 サラマンカ声明の中で、特に大きな影響を与えたのが、やむをえない理由、明確な理由がない限り、全ての子ども、児童を普通学校に入学させること、ともに学ぶことを、強く謳っていることです。これにより、スウェーデンでは、聾学校は残りましたが、盲学校は廃止されました。聾学校が残った理由は、手話が一つの言語であり、英語で学ぶ学校があるように、手話で学ぶ学校があって当然であるという考えから残りました。人工内耳の普及により、多くの子どもは、地域の学校で学びますが、今での国内に聾、聾重複の子どもを対象にした学校が残っています。手話の言語としての位置づけも強化され、高校で手話を第2言語として学ぶことも可能になっています。サラマンカ声明が掲げた内容は大変意義があり、私も今一度、読み直してみようと思います。

5.障害者権利条約

 そして、2006年の障害者権利条約も忘れてはならない条約です。スウェーデンは、2008年11月13日に批准し、2009年1月14日より効力を発生しています。日本は、署名はしたのですが、批准したのは2013年、2014年より効力を発生しました。



おそらく流れは、国際的な動きを受けていますので、日本もスウェーデンも変わらないのですが、スウェーデンの方が、動きが速かったところもあります。動きが多少早かったスウェーデンでもやはり難しかった、難しいのが、いかに通常学級の中で特別支援教育を行うか、その概念を普及させていくかという部分であったと感じます。スウェーデンでは、「生徒の健康」という名前で、「教室の中から、生徒の健康を(特別支援教育を)」と始めたのを思い出します。これは予想以上に意識が深まるきっかけとなったように思います。また、機会があれば、詳しく書きたいと思います。生徒の健康について知りたいという方は、ぜひ私の本を読んでいただければと思います。




ストックホルムの市庁舎は、今年誕生して100年を迎えました。






0 件のコメント:

コメントを投稿

コメントをありがとうございます。